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外に出れば寒さに肩を竦め、身を寄せあって道を歩く。近くのコインランドリーにシーツと布団カバーを押し込み、スーパーまでいろんな話をしながら歩き、今晩と明日必要なものだけを買った。部屋を空けるときはなるべく冷蔵庫に物を入れておかないようにしている、と孝成さんは言ったけど、たぶん空ける空けない関係なく冷蔵庫はガラガラなんじゃないだろうか。言わないけれど、それだって俺は心配だし、俺も料理なんてほとんど出来ないけど孝成さんの為ならやれる気がする。
「あー寒かった…」
「あっ、孝成さん、カゴ貸してください」
「いいよ、俺やるから。昨夜シーツもカバーもちゃんと出来てただろ」
「や、あの…」
「はは、顔赤いよ」
孝成さんはむに、と俺の頬をつねってシーツの入ったカゴを部屋へと運んだ。いや、もちろん、当たり前だけど、昨日布団を敷いたのは孝成さんで、こう…なんというか、ああなることを想定して…いやすると決めていたのかもしれない…そんなことを考えたら、やっぱりこれも当たり前のことだけど、この人にも性欲があるのだと感動した。
「じゃあ俺昼飯作ります」
「焼きそば?」
「はい」
「お願いします」
そのあと作った焼きそばは可もなく不可もなく、普通の焼きそばだったのに、とても嬉しそうな顔をして孝成さんは完食してくれた。たったそれだけの事でも俺には大きくて。野菜と肉と麺をソースで焼いただけ、少し塩コショウをして、隠し味に醤油を垂らして、たったそれだけなのに大袈裟に美味しいと言って食べてくれた孝成さんに、嫁いでやりたい気分になったのは言うまでもない。
「孝成さん」
「ん?」
「ボール、ありませんか」
「ボール?」
「バスケの」
「ああ…ないよ、残念ながら」
「そうですか…どこか出来る場所があったらしたいなって、思ったんですけど」
「近くに公園はあるよ。ゴールも」
「……引退してから、ボール触りました?」
「…触ってない」
「……」
「がっかりした?」
「え……」
「俺からバスケとったら、」
「孝成さん。それ言ったら怒りますよ」
「葉月が怒るところ見たいけどね」
「悪魔…」
「うそ、ごめん。バスケはずっとしてないけど、葉月の試合見に行ける時は行ってたし、いつ泣きつかれても良いように他の学校のことも調べてた」
「えっ、」
「でも必要なかったな」
「言ってくださいよ!」
「良いよ、唯一の趣味みたいなものだし。趣味って大半が生きてくことに関係ないものだし、無駄になっても気にしないから」
「そうじゃなくて…はぁ〜もう、馬鹿」
「あはは、久しぶりに馬鹿って言われた」
孝成さんに馬鹿って言う人がいるのか…と、変なところで一瞬思考が止まる。
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