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ただ、着替えたパーカーもフードが中に入っているし握っていた靴下も左右違うもの。ここまでくるとわざとだかと言いたくなるけれど、それを一つ一つ直していく作業が俺は好きで、懐かしくなって、ああ、こうやって制服直したりマフラー巻いてあげたりしたな、と嬉しくなる。靴下なんて何でもいいとさらりと言った孝成さんに、それでもと相棒を見つけてきて履かせるために椅子に座らせると、バッシュの紐を絞め直す瞬間が甦った。
孝成さんの前にしゃがみ込み、足首を触って、視線をあげると俺を見下ろす孝成さんの目に捕まる、あの瞬間だ。
「ダメだな、これ」
「…はい?」
「こんなことされてたら、一人で生きていけなくなりそう」
どことなく悲しげに細められた目が、ふ、と頬に睫毛の影を落とした。
「…一人で、生きてくつもりなんですか」
「物理的な話」
「出た、物理的」
「靴下も一人で履けないって、結構大変だと思うんだけど」
「でもそれを全然気にしてないなら生きていけますよ」
自分はこんなことも…と、落ち込んで心を病む可能性に関してはゼロに等しい。ただ、俺としては“一人”が引っ掛かって面白くはなかった。俺と孝成さんでは頭の中が全く違うのだから考え方も違って当然、でも、やっと近付けて触れられる存在になったのに、いつか“一人”になると思われているのは不愉快だった。
「一人で生きていけないなら俺が面倒見ますしね」
「そうしてくれると助かる」
「……はい、終わり。行きましょう」
流れそうになった嫌な空気を断ち切り、上着とマフラー、手袋で完璧に防寒した孝成さんの額にキスをすると、素早く顎に唇を押し付けられた。こんな時間がずっと続けばいい、続くんだろうと俺は考えていたし、孝成さんだって不安を口にしながらも、そうであって欲しいと思っていた。
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