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「まあ…それくらいの問題で部活出るなとは言われないと思うからいいけど。それより学年末テスト大丈夫?」

「……はい」

「その間。俺に出来ることあったら言って」

「ありがとうございます。でも…」

孝成さんの足は引っ張りたくない、と言おうとしてやめた。俺がその足を引っ張れるほどの存在かどうかも曖昧だからだ。代わりに、寝癖のついた髪を掌で押さえつけながら「ちゃんと自分で頑張ります」と答えた。

「孝成さん、朝寝癖直さないんですか」

「え?直してるよ」

「……」

「ついてる?」

「少し」

俺が触ったところを指先で確認して、孝成さんは「ありがとう」と呟いた。お礼を言われるようなことはしてないと笑えば、ブレザーの袖から覗く指がしなやかな動きで俺の頬を撫でた。数秒前に思いきりつねれた場所だ。

「……孝成さん?」

「顔太ったよね」

「……」

「つまんだ感触が違う」

「……いや、あの」

「葉月」

「はい…」

「学年末一つでも補習とったら、葉月の大好きなインターバル部活の間中やらせてあげるから」

「孝成さんそれはやりすぎ」

「ん?」

「……」

早弁くらいは見逃してくれるのに、俺がちょっと太るとこうだ。まあ今回は進級に関わる学年末のテストに向けてもかつを入れないといけないというのもあるだろうけれど。インターバルを部活の三時間の間ずっとやっていたらいくら休憩をいれてもらったって倒れるだろう。それを飄々と脅しに使うのだからたまったもんじゃない。

「とりませんよ、赤点なんて!」

「そうだよね、楽しみにしてる」

「……あの、やっぱりちょっと勉強…」

教室に向かいながら孝成さんに情けないお願いをして、二年の教室がある階まで一緒に階段をあがった。三年生の階はすっかり掲示物が取り払われ、殺風景な廊下になっていた。それを通りすぎてたどり着いた二年生の教室。孝成さんをドアのところまで送っていくと、すぐに中から副部長が出てきた。

「孝成さんお届けに来ました」

「ご苦労。ちょっと提出物出しに行っただけでどんだけ戻ってこないんだよ」

「ごめんごめん」

副部長の高見先輩は、俺より少し小さいけれどそれでも世間一般では長身の部類で校内では相当目立つ存在だ。孝成さんがあまり怒らない分、高見先輩はガミガミうるさいイメージがついてしまっているものの、悪い人じゃないことは分かる。口は悪いけどバスケも抜群に上手い。というか憧れレベルですごいとも思っている。
そんな高見先輩は孝成さんを見下ろしながら眉を寄せ、「メニュー考えるんじゃなかったのか」と声を低くした。

「あの、すみません、俺が呼び止めて」

「葉月、お前もな孝成の面倒ばっかりみてないで自分の勉強頑張れよ。担任から聞いてるぞ、お前の成績の悪さ。留年とかまじ笑えねぇから勘弁してくれよ。バスケ部始まって以来の不祥事になる」

「高見。葉月にそういうこと言わないで。俺が何とかするから」

「馬鹿はそう簡単になんとかなんねーから」

「前期末もなんとかなったでしょ」

「あんなもん孝成に免じてのお情け合格だろ」

「違うよ、葉月が頑張った結果だよ」

二人してバカにするのやめてくださいと言いたかったけれど、口を開こうとしてちょうど予鈴が鳴った。仕方なく二人に頭を下げてもう一つ上の階へ駆けあがった。
九月の前期考査は二人の言うとおり、半分が再テストという情けない結果だった。しかもその再テストの結果も情けないもので、補習一歩手前だった。それを孝成さんが首席とバスケ部部長という権利でねじ伏せたのだ。もちろん俺は発狂しそうになるくらい勉強させられたけれど。補習に出ることで部活に参加できないという最悪の事態は免れた。事実、九月は国体もあり先輩たちがそれに出場していたことで俺への監視レベルが低かったおかげもあると思う。

今年の国体は孝成さんも選ばれるのだろうと漠然と思った俺は、自力で何とかしないといけないなと改めて思った。




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