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そんな安易な答えを抱いて部屋のドアを開けると、一拍遅れて中で「ガタン」と音がした。
「孝成さん?」
「、」
「わ、うわ、大丈夫ですか?」
「……かと思った」
「はい?」
部屋の中は起きたときより随分温かく、けれど冷たい空気に当たっていた俺にとってパンツ一枚の格好で寝室のドアに凭れていた孝成さんはあまりにも寒そうで。靴を脱ぎ捨てて駆け寄ると、寝相はいいのにどうしてこんなに寝癖がつくのか、と笑えるほど跳ねた髪を揺らして「どこ行ってたの」と問われた。
「朝飯買いに…あ、朝いつも食べます?一応いろいろ買ってきたんですけど、もし食べないなら俺が…孝成さん?どうかしました?」
「…いや、なんでもない」
はあ、とあくびかため息か曖昧な息を落とした孝成さんに脱ぎ捨てられていた服を無理矢理被せる。それからズボンを渡し、買ってきたものをテーブルに置くと背中に孝成さんがぶつかってきた。
「うわ、冷たい」
「外めっちゃ寒かったですもん。上着、掛けてきますね」
やんわりと、体を離してコートを脱ぐと、孝成さんはまだ寝ぼけているのかスエットパンツを前後ろ反対に穿いた。お尻にあるはずのポケットが前に、前にあるはずのヒモが後ろに出ていて、どう考えてもおかしいだろうとまた笑ってしまった。
この調子で一人で生活して問題なく過ごせるものなんだろうか。心底疑問だけど、それでも一年近くは独り暮らしをしているのも事実なわけで。それは食事に関しても同じ。買ってきたものを広げて好きなものを、と言うと「コンビニのおにぎりってどうやって剥くの?」と真顔で質問してきた。剥くタイプのおにぎりを選ばなければ良いだけの話だけど、あんまり真剣な顔をして聞くから、俺は丁寧に破き方を教えてあげた。
「コンビニのおにぎり食べないですか?普段」
「普通の袋のやつは食べるよ。海苔ふにゃふにゃでも気にならないし。でもあんまりおにぎり自体買わない、かも」
「パン派ですか?」
「朝はシリアルだし、昼は学食とか…夜は時間があれば適当に作るけど買ってくることの方が多いかな」
教えた通りにきちんと包装を破ったはずなのに、無残にも破れてテーブルに散らかった海苔を眺めながら、孝成さんがご飯を食べたり顔を洗ったりするだけで胸が高鳴る自分も大概だよなと思った。
「孝成さんが料理するの、想像出来ないです」
「今日はするよ。鍋」
「材料切っていれるだけじゃないですか」
「鍋の素って、あれに具材入れるだけのものなの」
「えっ、作ったことないです?」
「ない。一人じゃしないよ」
「や、まあ、そうかもしれないですけど…今一人分のやつとかあるじゃないですか。それに、友達と鍋パーティー、的なことしないんですか」
「……しない」
よく考えて、もう一度「うん、しないな」と答えながらおにぎりを含んだ孝成さんの口元から、パリッと海苔の音がした。
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