06


「、ぅ……ん、」

「はぁ、孝成…さん」

「ふ…はっ、ぁ」

「…孝成さん、」

「ん、?」

「触って良いですか」

「……」

「……」

「もう触ってる」

「そ、うなんですけど…もっと」

自分達のキスと呼吸の音しか無い空間。お互いに口をつぐむとしん、と沈黙が流れ、けれど自分の鼓動が煩くて顔が熱くて、騒がしい。重ねた掌には寒いはずのに汗をかいている。

「……ちゃんと」

滲んだ涙が、ぽとりと落ちた。

「どうぞ」

冗談目かして答えた孝成さんに、だけど、それを笑う余裕なんて俺には全然なくて。
頬を撫でて、キスをして、首から胸を撫でてスエットの裾から手を滑り込ませる。締まった腹筋を指の腹でなぞり、ゆっくりゆっくり服を捲し上げて晒した胸に唇を押し付けると、くすぐったそうに小さな息が漏れた。

「はづき、ん…」

あの“水城孝成”に触れている。
圧倒的存在感と完全無欠のオーラを纏ったこの人に。けれど本当はすっとぼけていて、どんくさくて、俺が指摘しなきゃ服を裏表反対に着ていても気付かないくらいの人だ。その人が今、俺とセックスしようと体を自ら開いて、“葉月”と、甘い声で俺の名前を繰り返している。
現役の時より小さくなってしまったように見えた体も、こうして直に触れると固く締まったまま、少しも衰えていないと感じる。布団と背中の隙間に手を差し込んで窪んだ背骨を数えるように撫で上げると、いつも自分が孝成さんにされていたことみたいだと思った。
部活の前、孝成さんの厳しいボディチェック。周りからドン引きされても引退するまで続いたそれに。

「ふふ、くすぐった、い」

「孝成さん、」

「っ…む、はづ、」

興奮しすぎて目眩がする。
余裕のない俺を、孝成さんは緩い表情で見上げて時おり目を伏せて下唇を噛む。それがあまりにも扇情的で、脳みそが溶けてしまうんじゃないかと心配になった。

「はぁ、」

「っ…」

「たかなりさん、」

「うん、?」

「俺、ほんとに…ずっと、孝成さんのことが好きで…」

「うん」

「でも、憧れてたのも、本当で」

「ん、」

「なんかもう…よく分からないんですけど、俺…」

「葉月が抱けないなら、俺が抱くよ、葉月の事」

ぐ、っと肘をついて上体を起こした孝成さんは中途半端に肌を露出していた服を自分で脱ぎ、俺のスエットに指先を引っ掻けた。
「どうする?どっちがいい?」と、黒目をまっすぐ俺に向けて問うて。




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