05
手を返し、重なるのを見届けてからゆっくり、視線を上げると枕元の電気に照らされた孝成さんの頭が小さく揺れた。憧れていたし、今でもそれは変わらない。けれど、こんなにも触れたくて、自分の中に閉じ込めておきたくて、頭がおかしくなりそうなほど愛しく思えるのは、憧れているからだけではなくて。その境目を俺は知らないうちに越えていて。
「キス、しても、いいですか」
「ふふ、はい」
肌の滑らかさとか唇の柔らかさとか。睫毛の長さとか瞬きの瞬間とか、知らないままなら良かったのに。知ってしまったから。
ぎこちなく顔を寄せて上唇を擦るようにキスをすると、そこから熱が広がって指の先まで熱くなるのが分かった。
「たかなりさん」
自分でも笑えるほど余裕のない声が無意識に漏れ、そのまま布団に落ちた。体勢を崩して孝成さんを組み敷くと、見たことがないほど艶かしい目で見つめられごくりと喉が鳴った。
ああそうか、セックスするのか。頭の中で、そんな妙に冷静な事を思いながら、けれど体は震えるほど緊張している。胸が一杯で、言葉を交わそうと口を開いたら、とんでもないことを言ってしまいそうだ。
「葉月、変わったね」
「、は、い?」
「顔。二年前よりずっと大人っぽい」
「……」
「高見に、入ってきたときは子犬みたいだったって言われてたけど、今は全然、子犬っぽくない」
「も、ともと…子犬じゃないですから」
「知ってる」
緊張を解くように微笑み、少し頭を浮かせた孝成さんが俺の顎にキスをして、もう一度「知ってる」と、ワントーン低い声で呟いた。
俺と孝成さんの二人きり、他に誰もいない、誰にも咎められない、手は重なっていて、体温はここにあって、息が掠めるほど近くで孝成さんは笑っていて。それだけで泣きたくなるほど本当に胸が一杯で、薄暗い中に浮かんでいた顔が涙で滲んだ。
「はは、泣いてる?」
孝成さんの目元から眼鏡を浚い、ライトの下に丁寧に置いて泣いてないと返すとまた笑われてしまった。
「眼鏡ないと、葉月の顔よく見えない」
「見ないで下さい」
「見せてよ、久しぶりに会えたんだから」
ね、と、細められた目に捉えられ、覆い被さったまま思いきりキスをした。
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