04


音楽も特に聞かないと言うから面白くはなかったかもしれないけれど。それでも俺はそんな些細なことが幸せで、この人可愛いねとか、格好いいとか、今はこういうのが流行ってるとか、どうでもいい話をずっとしていた。孝成さんと、バスケ以外のことを話すのは少し違和感を覚えるけれど、楽しくて仕方なかった。

「あー…不思議」

「はい?」

「此処に葉月がいるって」

くたりと、頬杖をついて俺の方を見た孝成さんはまだお風呂上がりのほかほか感を残したままもう片方の手で俺の顔に触れた。
その瞬間和やかだった空気がガラリと変わり、艶かしいものになった。部屋用の眼鏡をかけたその向こう、とろんとした目が俺を見る。

「眠そうですね」

「うん、少し」

「寝ます?」

「勿体ないかな」

「何がですか」

「せっかく葉月と楽しく喋ってるのに」

小さく漏らされたため息のような笑いが、ふっと頬を掠め孝成さんの指先を捕まえる。キスしたい、そんな欲を忍ばせて。絡まった視線をほどけないで見つめ合い、僅かに距離を詰めると「布団いこうか」と、繋がった手を引かれた。

「たか、」

「こっち」

孝成さんは自分の部屋とは違う方のドアを開け、入って、と俺を招き入れた。敷いておくねと言っていた布団は確かにそこにあり、けれど、敷かれたそれは二つがぴたりとくっついた状態だった。さあ、してください、と言わんばかりに。

「あの、」

「ベッドじゃ一緒に寝れないから。でも布団二つでも─」

「孝成さん」

「うん?」

「い、一緒に…?」

てっきり別々に寝るのだと思っていた。
一緒に寝たことなら合宿で何度かある…さすがに合宿中にどうこう、とは思わなかったけれど、今はダメだ…数分前までの穏やかさが姿を消し、緊張と興奮で気持ちも体も昂っている。

「俺はそのつもりだったけど、葉月が嫌なら俺は向こうで寝るよ」

「や、そうじゃなくて…」

そんな簡単に食い下がらないで、と情けないことを言いそうになってなんとか飲み込む。飲み込んで、ドアの閉まる音を孝成さんの背中越しに確認して「こっちで、お願いします」と呟いた俺に、孝成さんは微笑んで頷いてくれた。

布団とその枕元に置かれたやたらお洒落な電気スタンド以外部屋には特に家具もなく、本当に片付けられている。決して広い部屋ではないけれど、生活するには充分なスペースだ。
促されてスタンドの電気をつけると部屋の電気が消され、先に布団に腰をおろした孝成さんが俺を見上げて隣をぽんぽんと叩いた。

「し、失礼します」

ベッドの軋む音とは違う、ただシーツの擦れる音。それに格好悪く肩を揺らし、なんとなく正座で腰をおろす。その膝に手をグーにして置き、視線を彷徨わせるとやんわりと手の甲に孝成さんが触れた。

「、」

その指先の感触だけで体の芯がじくりと熱くなる。




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