03


お湯に浸かりながら、今日一日のことを考えるとまるで現実味がなくて夢でも見ているような気分になった。

最後のインターハイのあと、新しい部長に任命された深丘は半泣きになっていたけれど、全然問題なく俺が引退する冬まで堂々としていた。その日その日、とにかく毎日深丘のことはもちろん他の後輩や先に引退した同級生のことを考えていたけれど、こうして振り返るとそうでもなかった気がしてくる。とにかく怒濤の毎日で、考えていたのはほんの一瞬だったのでは、と。

お風呂を出ると入れ違いで孝成さんもバスルームへ消えた。一応お湯のことも告げた。それからたっぷりお湯に使ったのか、ゆっくり出てきた彼は相変わらず髪からポタポタと水滴を垂らしていた。合宿中のことを思い出して笑うと、丁寧にタオルとドライヤーを俺に差し出してきて「ありがとう」とわざとらしく微笑んだ。

「いいですけど…いつも一人じゃないですか、ちゃんと乾かしてます?」

「んー?うーん」

「どっちですかそれ…あ、もしかして一人じゃない、とか…」

「かもな」

「えっ!?」

「あはは、冗談だよ。冬はさすがに頑張ってるけど、夏はそのまま」

「だから寝癖つくんですよ」

「今は誰も直してくれないからちゃんと気を付けてるよ。まあ…靴下はすぐ片方どっか行っちゃうけど」

「毎回左右違うの履いてるんじゃないですか」

「あ、そうなのかな」

「気付いてくださいよ」

「困らないし…誰にも気づかれないよ」

椅子に座った孝成さんの髪を乾かし、櫛はないと言うから仕上げに手櫛で整えた。小さい頭だなと、片手で掴めそうなそこを見下ろすと「買ってきたアイス食べる?」なんて楽しそうに見上げられた。

「いや、今はいいです。明日」

「そうだ、明日。大晦日だよ、お寿司でも買ってこようか。葉月の家は大晦日何食べるの?」

「えっ…何食べてましたっけ…カニ鍋?とか?親戚が集まって。でも剥くの下手だから俺全然食べれないんですよ」

「葉月が剥けないんだったら俺もダメそう」

「はは、孝成さんずっとカリカリしてそうですね。あとは…年越しそばも食べます。夜中に初詣行ってから、ですけど」

「初詣かあ…今年、あ、来年?はいいの?」

「地元の友達と行ってたんですけど、受験控えてる方が多いから、って今年が明けてすぐに次はやめようかって」

「そう」

じゃあ明日は鍋と年越しそばをしようと孝成さんは楽しそうに言ってテレビをつけた。年末の特番の中から何を見るか二人で決めて、普段はほとんどテレビを見ないと言う彼に音楽の番組をチョイスした。




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