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国体とウインターカップを制し、二年連続三冠を達成した。代表の合宿に呼ばれ、いろんなことの合間で推薦入試をもぎ取り、海外の学校とパイプのある大学の合格を貰った。冬休みに入ると家を出て寮に入る、など具体的な話を親としながらも、頭は別のことでいっぱいだった。

「駅着きました」

「北口分かる?」

「あー……はい、ありました」

「改札出たところで待ってる」

「はい」

やっとの休み。

孝成さんはあれからすぐに帰ってしまったけれど、そのあと何度か休みの時に祖父母の家に来てるからと俺に会いに来てくれた。部活にも二回ほど顔を出してくれて、それはもう分かりやすく俺は絶好調だったわけで。けれどゆっくり過ごすことはインターハイの日以来できず、今日、初めて俺が孝成さんに会いに来た。
電車を乗り継いで二時間。なるほど、これが物理的な距離か。
電車を降りるとホームも通路も人で溢れかえっていて、目的の改札まで歩くだけで一苦労だった。本当は孝成さんの独り暮らしをするアパートの最寄り駅まで行くつもりだったけれど、このあとまた乗り継いで辿り着く自信はすっかりなくなっていた。「迎えにいく」と言ってくれた彼に甘えて良かったかもしれない。

「うわ、でっか」

「ばか、声大きいから」

そんないくつかの小声のやりとりを通り過ぎ、改札を出ると忙しなく行き交う人の中にその人を見つけた。暖かそうなコートに、マフラーを巻き、少し曇った眼鏡を手袋をした指先で擦る彼。
こんなにたくさんの人がいても、やっぱりあっさり見つけてしまうんだ…ここに来るまでずっとドキドキしていたけれど、それよりもわくわくとかそわそわの方が大きくて、でも今急に、ドキドキが勝ってしまった。

ふわりとさまよった孝成さんの視線から逃れるようにしゃがみこむと、頭の中に心臓があるみたいにどくどくと煩い音が響いた。こんなところででかい男が蹲っていたら相当邪魔だよなと思い、ゆっくり立ち上がるとすぐに目が合って孝成さんは軽く手をあげた。

「お疲れ様」

「あ、はい…」

「体大丈夫?疲れてない?」

「大丈夫です。孝成さんも、ありがとうございます…ここまで、迎えに来てくれて」

「あはは、早く会いたかったから」

「…ほんと、ずるいですよね。そういうとこ」

部活も、受験も、すべて落ち着いたら会いに来ても良いと言われていた。だから冬休みはこっちに来て、年越しも孝成さんとする。そして二日に祖父母の家に行くと言う彼と一緒に帰る予定だ。

「何か必要なものある?アパートの近くコンビニとかスーパーくらいしかないから、何かあったら」

大した荷物はないものの、服類はとにかく大きくてかさばるから必要最低限しか持ってこなかった。特別必要なものは思い浮かばなかったけれど、観光も兼ねて一旦駅を出て少し買い物をしてそのまま少し早めに夕食を済ませた。それから地下鉄を乗り継ぎ、自分の地元よりずっと都会なのに、都会の中ではわりと田舎だという駅に降り立った。



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