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もう片方の手で腰を抱いて体ごと引き寄せると孝成さんの腕が首にまわされ、ぴたりと胸が重なった。心地いい心音を感じながら、今度はもっと深く、唇を合わせた。
「、は、ぁ…」
「ん、…ふ、」
「孝成さん」
「ん、んぁっ、はづ」
孝成さんのおじいちゃんとおばあちゃんに聞こえないよう響きそうになるリップ音を抑えても、お互いの呼吸で漏れる吐息が妙に大きくて落ち着かない。そのくせ、昼間みたいに止められないのをいいことに今までしたことがないような、舌を擦り合わせて吸い付くような下品なキスをした。でも孝成さんは嫌がらないし止めない。体を退けることも。このままではキスだけで済まなくなってしまう気がして、先に顔を引いたのは俺の方だった。
「可愛い」
「っえ、」
「三月より大きくなった」
「……少し。今は、筋力トレーニング増やしてて」
「うん、いいと思う」
しっとりと濡れた唇を親指でなぞるとくすぐったそうにその口元がゆるめられた。
「大学でバスケを続けるなら、」
「あの、そのこと、なんですけど…」
「ん?」
「いや、もちろん続けるんですけど、その…インカレどうこうって言うよりはバスケしながら勉強して留学、したいなって…思ってて」
「留学…」
「はい、あ、もちろん、今のままじゃ全然なのは分かってますけど…アメリカに、いきたいんです」
「…うん、」
「どこまでやれるか分からないですけど、行きたいなって、思ったんです」
「葉月なら大丈夫だよ」
無責任なのに、それはまるで魔法の言葉みたいにすとんと胸に落ちてきた。それから続けられた「葉月のこと、葉月よりほかの誰より俺が一番応援してるし一番大事にしてるから、それは忘れないで」という言葉に、孝成さんはどんな意味を込めていたんだろう。この時、一体何を考えていたんだろう。俺は明確に“恋人”という関係になれたことを野放しに喜んで、会えない日が続く中でも馬鹿みたいにバスケも勉強も調子よくこなして過ごしたけれど。
孝成さんはどんな思いで俺に微笑んで「もう一度言うよ」と、口にしたのだろう。
「俺のとこおいで」と。
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