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しっとりとした孝成さんの唇は、吸い付くように俺の唇に重なり体の奥で何かが溢れてこぼれるような気持ちになった。
やんわりと擦っていた体をしっかり抱き寄せて深くそこを合わせる。気持ち良い。そうか、キスってこんなにも気持ちの良いものだったのだ。忘れていた。

「ん、はづ、」

「はぁ、孝成さん…」

「っ、ん…は、ぅ」

「…き、すき、」

「ん、うん…」

ほんの僅か、欲に濡れた瞳が再び俺を映す。いや、俺の方がよっぽど興奮している。頭の中も、体も熱い。孝成さんに触れる指先からどろどろに溶けてしまいそうなほど。
艶を帯びた唇を親指でなぞり、薄く出来た隙間に指先を押し込むと「終わり」と、甘さを含んだ声が俺を止めた。

「、もう少し、」

「だめ、試合に集中しろ」

「それ、孝成さんが言うのずるいですよ」

「俺も好きだから」

「うっ、え、」

「葉月の事が好き。こういう意味で」

一度離れた唇が、今度は孝成さんから重ねられる。どうして居なくなる前に言えなかったのか、孝成さんだって言ってくれなかったのか。それでも、曖昧にしていたあの頃の気持ちが、はっきりと形になる。
「だから今はこれでおしまい」と、小さなリップ音をたてて離れた孝成さんは、俺の初めて見る照れたような顔で微笑んだ。

「あの、孝成さん、」

「見てるから。最後まで」

「……孝成さんに、聞いてほしいこと、他にもたくさんあって…」

「うん、試合が終わったら聞かせて」

汗くさいと思われても良い。
思いきり抱き締めて、「必ず勝つので見ててください」と震えた声で約束する。ハーフタイムは残り何分だろう。もうみんな移動を始めているかもしれない。
ゆっくり、呼吸を整えて、まだ熱の残る体を孝成さんからひいて、額を合わせて目を伏せる。

「豊峯を信頼すること、加藤や深丘を頼ること、その上で、葉月が終わってほしくないって感じるくらい楽しくプレーしてほしい」

「……はい」

「よし」

ガシガシと少し乱暴に髪を混ぜられ、くっついた額が擦れる。名残惜しく戻ることを躊躇する俺の背中を押してトイレから出した孝成さんは、しっかりしろ、と最後に軽くハグをした。

「まっ、待っててくださいね。試合、終わるまで」

「待ってるよ」と返事を聞いてから緩く手を振り、俺はロッカールームへ孝成さんはギャラリーへ向かった。
ドアの前で一度深呼吸をしてから中に入ると、何とも言えない微妙な空気が漂っていた。



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