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熱くなっていた頭が急速に冷えていくのが分かった。コートの上では元々一つだったものが二つに別れて、だから動きも考えも繋がっていたような感覚で、噛み合わないことなんて無かったのに…とんでもない食い違いが生じていたのだ。俺は一気に力が抜けて、我慢していた涙がぼろりと頬を滑り落ちた。
「好きです。ずっとずっと好きでした。今でも、孝成さんが頭から離れなくて、バスケもめちゃくちゃで…今日も、怒られるようなプレーばっかりで…勝ちたいって、それしか思えなくて…楽しくコートに立てって、言われたのに」
「前半の最後、良かったよ」
「あれはっ、孝成さんの…声が、聞こえたから」
「それでも、見てて気持ち良いプレーだった」
「…孝成さん、抱き締めてください。嫌なら、このまま出てっていいから…」
「…馬鹿だなあ」
「たか、」
「俺も好きだよ」
やんわりと、孝成さんの手が背中にまわった。汗で冷えたユニフォームがひやりとその冷たさを伝え、抱き締めてほしいと自分が言ったくせに「汗かいてるから」と一旦体を離した。
「俺よりずっと努力してる葉月を見て、それでもとにかく楽しそうに笑ってる顔向けられたら、バスケも葉月も大事で仕方なかった」
「だ、けど…」
「手放せなくなるのが怖かった」
俺の背中から手を引いた孝成さんは、そのまま涙に濡れた俺の頬に触れて少々強引にそこを拭った。硬い指先だ。紛れもない、孝成さんの。
「キスしたのも、葉月のことが好きだったから」
「う、えっ、」
「あっさり受け入れるから俺の方がビックリだよ」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「待ってるよ、さっきから」
そうじゃないけど、混乱した頭では上手く伝えることも出来ず、卒業式の日にあえてそれについては触れないようにしていたはずの彼を見下ろす。あれは、俺が触れたくなかっただけなのだろうか。はっきりさせたいと思いつつ、全てはこの人の気まぐれとかストレス発散だったと言われたらもっと引きずっていたに違いない。俺が、はっきりさせないことを望んでいたのか…
そう、だって、まさか孝成さんの口から
「好き」なんて言葉が出てくるとは夢にも思わなかったから。
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