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香月からの妙なプレッシャーは程よく刺激になり…加藤の助言のおかげ、よりはそう考える方が幾分かマシに思えた…その後続いた試合は順調に勝ち進むことが出来た。俺たちにとっては二連覇のかかったインターハイ、トーナメントを最後まで勝ち上がると反対側に残っていたのは去年と同じ、前橋の居る高校だった。

今日までに豊峯とは次の部長を決めるため顧問を交えて何度か話をした。去年、こうして俺と豊峯が選ばれ、異論も出なかったのだと思うと今になって少し嬉しさを感じる。ああ、あの二人に「副は葉月に」と、言ってもらえたことがどんなに光栄なことなのか、今になってやっと分かったのだ。
バッシュの紐をしっかり締め、ユニフォームを整え、深呼吸をする。自分は冬まで残ると言っても、最後のインターハイとは特別なものらしい。三年間この舞台に立てるなんて、そこだけを切り取ったら“奇跡”だと言われるのかもしれない。でも、立てるだけの努力をしてきた自信はある。

「決勝は違うな、やっぱ」

「藤代先輩の顔…」

「見たことないくらい怖いな」

「……」

「なに、深丘びびってんの葉月に」

「そういうわけじゃないですけど…なんか中学の頃みたいで」

「いやあそこまで怖い中学生って」

「俺も今久しぶりに思い出しました」

「……のわりにはなついてるな」

「う、わ、部長」

「後ろ。はみ出てる」

「あ、すみませんありがとうございます」

「深丘にとっての藤代は藤代にとっての水城部長って感じ?」

「や…それは…次元が違うと思います。中学の頃、藤代先輩はこう…絶対的エースで、藤代先輩がいろんなものを全部担ってたというか…あの人が居る限りうちは勝てる、みたいな…だから部活以外で話しかけるのもおこがましいというか」

「おこがましいって」

「ちょ、加藤先輩だって高見副部長に対してそうじゃありませんでした?」

「加藤は特殊だから」

「おい」

「だから、どちらかと言えば藤代先輩にとっての高見先輩が、俺にとっての藤代先輩、なんですかね…よく分からないですけど。あ、でも、高校入ってからはその頃のトゲとか圧みたいなのが感じられなくて、話しかけたら普通に可愛がってもらえて嬉しかったです」

ペラペラと話を続ける深丘を横目に、途切れた集中をなんとか手繰り寄せようと足元に視線を落とす。

「じゃあ、俺が知らないって感じる今の藤代が、昔の藤代なんだ」

「そっか、部長はあの頃の先輩知らないんですね…余計なこと言いました」

「え?」

「遠回しに、この試合すげー不安ってことだろ」

「なんでそうなるんだ?」

「だってさ、ウィンターカップ終わってから不調だった葉月って、わりと今みたいな感じだったし。あの頃みたいってことはさ、勝ちに拘ってワンマンでも進むってことじゃん」

「そこまでは思ってないです。ただ、なんとなく…違和感、というか」

うーん、と首を傾げた深丘につられ加藤も眉を寄せて視線を漂わせた。それになんだか腹が立ってきて「全部聞こえてるぞ」と声をかけると二人は慌てて口をつぐんだ。

「心配しなくても大丈夫だから」

「心配はしてない」

「はあ?」

「ほら、時間時間」

へらりと笑ってから片手で豊峯の背中を、もう片方の手で深丘の背中を押した加藤は「勝つぞ〜」なんて気の抜ける声をコートに向けた。




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