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「ちょっと落ち着け」
「すみません…」
「落ち着いて見てろ。試合に戻る気があるなら」
「はい」
試合は滞りなくく進み、大きなリードはないものの流れは良かった。若干の気まずさを感じつつ、それでも第二クォーターにはコートに戻された。
「フル出場はならなかったな」
「……」
「ま、試合には出てるか」
「うるさい集中してるから黙れ」
「葉月もっとさ、」
「……」
「信用しろって。お前不安定すぎ。そんな不安になんなくても、ちゃんと豊峯が居るだろ。お前がアイツのこと信用してないのが一番空気悪くしてるからな」
「どういう意味だよ」
「うーわ、無意識かよ。やっと不調抜け出したと思ったのに。まだかかるか〜」
「はあ?」
「もういいもういい。集中」
孝成さんとバスケをすることが精神安定剤、確かに、それは間違えようのない事実だ。それと同じくらい、今もバスケが精神を安定させてくれているとは言えない。その違いを指摘されたら、それでもその部分は簡単に変えられない。孝成さんだから…ああ、こうやって孝成さんに囚われている限り、加藤からは「信用していない」と言われるのか。
試合前の強張った空気とは裏腹にユニフォームを裏表反対に着て、左右違う靴下を履いて「あはは」と気にした様子もなく笑う孝成さんが恋しい。直して、とジャージの襟元を差し出す孝成さんが。
フラれても、言葉にして伝えておけばこんなにも引きずらなかったのだろうか…そうか、俺は部長としての孝成さんに、好きになった孝成さんをずっと重ねてるからいけないのだ。豊峯と比べているつもりは毛頭ない。それでも孝成さんを忘れられないから、コートの上でずっと考えているから…加藤の色恋沙汰発言も概ね間違っていなかった、というわけだ。
「ほら、しっかりしろ」
「、ああ」
コートに孝成さんがいないことは考えても仕方がない。試合が終わってから、存分に未練がましく彼のことを考えれば良い。そう思うだけで少し、体からは力が抜けた。加藤のおかげ、とは思いたくなかったけれど明らかな空気の悪さは払拭できた。孝成さんの言ってくれた“楽しそうな葉月”が居たかは分からず、そんなことを考える時点で居なかったのだろうと目を伏せた。
だって終わった時、「また終わってほしくない」という気持ちが芽生えなかった。
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