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「水城部長みたいには出来ないけど、もっと信用して欲しい」

「…してる」

「そっか…」

「大丈夫、負けない」

負けない負けない負けない、頭の中で繰り返すほど穏やかな並みのような「勝つよ」という声が聞こえてくる。真夏の暑さも、汗臭さも、上がった心拍数も、何もかも忘れてしまうような声が。

脳が震える。
無意識に握りしめた手は白くなっていた。切り揃えた爪が掌に食い込みうっすらと跡が残る。じん、と少しの痺れを感じながら指を伸ばし、ジャンプボールの位置に立って。
孝成さんの居ない試合は、もういくつもこなした。こなしたはずなのに、この瞬間はどうしようもなく不安になる。まず俺のところに、と向けられていた視線が無いからだ。

「藤代!」

「、」

ボールが上がる。
思い切り跳んで、相手より高い位置でそれを捉えるパシッと気持ちの良い音が響き、けれど、それは豊峯の指を弾いて一度床に落ちた。

「おいおいまじかよ」と誰かが溢したのが集中しきれていない耳に届く。乱れた、と感じたのかもしれない。でもそれは俺が誰よりも感じていて、着地してからの一歩が出遅れた。
すぐに立て直した豊峯が素早く切り返し、速やかにコートを整えようとぐるりと視線を回す。

「藤代下がれ!!」

「、」

一年のインハイ後からここまでほとんど負け無しできた。負ける試合ってどんなだった…こういう、チームメイトと微妙に噛み合ってない部分があるときではなかっただろうか…すっ、と背中が冷たくなるのが分かった。

「葉月!集中しろ!!」

ボールが上手く手に吸い付かない。
相手のマークを振り切れず、シュートの成功率もいつもより低い。偉そうに豊峯の背中を叩いたくせに、これでは俺のせいで負けてしまうのではと不安になるほど空気も悪い。

「葉月ー、ベンチ下がれ。交代」

「え、」

「深丘入れ」

「あっ、はい!」

「監督、」

「足手まといだ」

開始早々のメンバーチェンジだった。
このまま悪い流れが続くことを危惧した監督の交代命令に俺は従うしかなく、深丘と交わしたタッチで、自分でも驚くほど体温が下がっていることに気付いた。深丘の手が熱いんじゃない、俺が冷たいのだ。



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