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伏せていた携帯に“応援してます”と、浜坂さんから返信が来た。それに俺より先に気付いた加藤は「浜坂さんだってお前にフラれたらばっさり髪切るかもよ」と自分の毛先を摘まんで言った。
そうか、髪を切って切り替えるのか…残念ながら劇的な変化を遂げられるほど長髪ではないから俺には出来ないけれど。自分が女子だったらしようと思ったかもしれない。意味がなくても切り替え、という面では有効に見える。

「なに、返すの」

「ありがとうだけ」

「お前ありがとうばっかじゃん。それじゃつまんねーって」

「向こうも俺に怪我させたって意識があるから気にかけてくれてるとかだったら悪いだろ」

「もう一年も前のことじゃねぇか」

「たった一年だろ」

「ふーん、ま、好きにしたら」

そのあと加藤は大きなあくびをかましてくるりと前を向いた。予鈴が聞こえる。携帯の画面はありがとうの文字を打ち、送信ボタンを押すだけだったけど押せないままポケットに戻した。

そういえば夏の大会前に彼女が差し入れを持ってきてくれたんだ。孝成さんに「受け取れないから」と、断られて以来浜坂さんから何かを渡されることがなかったから忘れていたけれど。そんなこともあったな、確かにそれも一年前、だ。

ちょうど一年。もうこの日が来てしまったらしい。今年のインターハイ会場は隣の県。移動時間もさほどかからない為泊まりになることは免れた。それでも前日の最後の練習、開会式の集合、試合当日、緊張は少しずつ高まり、帰って一人の時間がある方が余計に考えてしまうなと、あと数分で試合が始まるコートを眺めた。
あまり快適な体育館ではない。
それでも床の感覚やゴールの綺麗さは悪くない。バッシュの紐をしっかり絞め、ギリギリまでコーチと言葉を交わす豊峯の背中を叩いた。

「体は温まった?」

「この暑さで冷えてる方がやばい」

「…そうだね、」

「はは、緊張してんの?」

「そりゃ、ね。ここまで調子よく上がってきたけど、去年もここからは厳しかったなって…水城部長の偉大さが身に染みる」

「孝成さんは…どうだろ、なに考えてたんだろ」

「え、」

「あの人わりと、楽しむのが一番、みたいなこと俺に言ってたけど」

「楽しむ、か…俺からも言おうか」

「はは、遠慮しとく」

「でも、ここのところ藤代のプレーは楽しそうじゃないよ」

「……」

「焦ってる」

「焦るだろ、そりゃあ。高見先輩の代わりだから」

「藤代は藤代だよ」

「そうだけど、」

「あ、ごめん…」

「良いよ別に」

「なんていうか…俺が頼りないから、だよな」

「そんなことないって」

孝成さんより少し大きいはずの豊峯の背中をもう一度叩く。感覚的に、あれ、小さいな、と感じたのは自分の体を大きくしたせいかもしれない。孝成さんに管理されていた頃より体重はかなり増えている…もちろん、筋トレの量を増やしたから筋肉である、はず。からだ作りだ。
なら、今孝成さんに触れたら、記憶の中より小さいのだろうか…ダメだ、孝成さんのことを考えると胸がざわつく。あの人が精神安定剤だったはずなのに…




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