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“インターハイ出場おめでとう!”
「ありがとう、お、珍し、返事すんの?」
「人の携帯見るな」
「浜坂さんも頑張るよな」
「はあ?」
「このバスケ馬鹿のどこがいいんだか」
「そういうのじゃないって」
「はいはい。あー、疲れた」
高校最後の夏休みを前に、三年生は驚くほどピリついた空気を漂わせていた。一年前、ここまで感じなかったその張りつめた感覚は、やっぱり当事者になってみて初めて感じるものらしい。ピリピリするなと冗談目かして言える状況ではない中、加藤の抜けた言動は正直こっちがひやひやするほどで。
こんな空気を感じながら孝成さんは俺の事を見てくれていたのか…俺に同じことが出来るだろうか。
「葉月さ、また不調?」
「……別に」
「だよなー、不調って感じはないけど、なんかな」
「なんだよ」
「こう、なんかちょっと違う」
「いや全然分かんない」
「俺も言葉に出来ない」
「じゃあ言うなよ」
毎日の授業、部活、責任、進路の為の話し合い、試合の対策、目の前にはどれも同じ高さでそれが並んでいる。どれから、なんて悠長なことを言う暇もなく、とになく全部越えていくしかない。そう思ったときやっと、ああ、自分もピリピリしているんだなと気付いた。
焦りと不安ばかりで、少しもチームの事を考えられない。自分中心に考えたプレーばかりして、加藤はそれを指摘したかったのかもしれない。そう、コートの中で孝成さんのように立ち続けることは難しいのだ…
「ま、葉月も進路決めたみたいだし、俺はひと安心だけど」
「なんで加藤が安心するんだよ」
「ちゃんと一緒に卒業できるな〜って」
「それは決まってなくてもするから」
「あーでも、卒業したいようなしたくないような…いやするけどさ…はぁ、香月ちゃんは?」
「なにが?」
「いや、元気?」
「普通だよ。…あ、」
「えっ、なに」
「いや別に。普通だし元気だけど見た目は変わった」
「え、どういうこと激太りとか?」
「髪の毛が」
「まさか切ったの?」
「ばっさり」
「まじかー」と心底驚いたように目を見開いた加藤に、失恋したらしい、ということは黙っておいた。香月ちゃん香月ちゃんと気にかけているようで、本当は全然気になどしていないだろう。俺をいじるネタにしているだけだ。
「似合いそうだな」
「そんなにかわんねぇよ」
「いや変わるだろ。髪は女の命だし。ほら、フラれたら切るとか…え、まさか」
「ばーか。香月がそんな色気付いてるわけないだろ」
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