15
その日の夜、俺はフラれてショートカットになった見慣れない香月に進路の話をした。
「はあ?まだ迷ってんの?てか、え、なにを迷ってんの」
「何って、だから、」
「葉月に選択肢とかあるの?」
「どういう意味だよ 」
「バスケやめるって選択肢」
「……それは、ないかも」
「じゃああとは選ぶだけじゃん」
香月は、至極簡単そうに現役を続けるか指導的な道に進むか、と続けた。
「現役」
「インカレ?プロ?」
「……」
「アメリカ」
「アメリカ…」
そういえば孝成さんも高見先輩もその単語を口にしていた。全く違う意味で、だったけれど。
「何しにアメリカ?」
「日本とはそもそも違うじゃん、バスケの位置が」
「……」
「向こうの大学行くでも、ただ普通に留学するでも、プロ目指すでも、こっちにいるのとじゃスキルが全然変わってくるんじゃないかな。もちろん、葉月にとってそれが必要ないなら行く必要無いと思うけど」
香月にしてはまともなことを話す。俺が傷心なことを、少しくらいは気にしてくれているのか…いや、どうだろう。双子だって心の奥で何を考えているかなんて検討もつかない。
「葉月のしたいことがどこにあるか、じゃないの。ま、アメリカ行くお金があるのかは別として。あと、葉月の語学力でやっていけるのかも、とりあえず置いといて」
頭のてっぺんに巨大なだんごをのせる日は当分来ないであろう、随分スッキリしてしまった髪をぐしゃりと掴むと、香月は「葉月が居ないのは寂しいけどね」と肩をすくめた。
ちゃかすような言い方で、けれど、それは心底思ってくれているのだと、何となく思った。
「孝成さんは、もうバスケやめてる」
「えっ、そうなの?」
「ああ」
「それで振られたうえに余計元気ないわけ」
「それが全部原因って訳じゃないけど、まあ、落ち込んでるのは事実」
「へぇ〜あのタカナリさんが」
「あのって」
「だって、タカナリさんって涼しい顔してるけど、腹のそこは煮えくり返ってる雰囲気あるじゃん」
「そこまでじゃないけど…まあ、見た目よりは中身熱い、か」
「でしょ。そういう人があっさりやめれるもんかな」
「……やめたんだよ」
「ふーん…ま、人それぞれ事情があるよね。それと葉月の進学とは別だけどさ」
「分かってるって、考えるから」
双子なのかって物珍しく見られて、二人してバスケを頑張って、夢中になってここまできた。それもここまで、だ。
「おやすみ」と、向けられた香月の背中に孝成さんが蘇った。もっとたくさん話をして、ちゃんと相談をしていれば良かった。俺がどうしたいか、あの人なら照らしてくれたかもれない…でももう頼ることは出来ない。頼っちゃいけない。
孝成さんの居ない夏を迎える前に、俺は家族にも学校にも卒業後どうしたいか話をして、冬の大会まで残ることを決めた。
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