13
「藤代、ちょっと良い?」
「なに、豊峯」
「進路調査、まだ、出してないって聞いたけど」
「あ、あー…」
「部活のこともあるし、迷ってることがあるなら…」
「いや、まあ…うん、まだ決めてない」
「…そうか」
「やばいのは俺が一番分かってる、から」
「俺、夏で引退する」
「……そっか」
「聞いてると思うけど、他の三年もほとんど夏までしかいない」
「ああ、うん」
「加藤は冬まで残るけど」
「…心許ないな」
冗談めかして小さく笑った俺に、豊峯は困ったように視線を傾けた。ちら、と動いた睫毛が、不安げに揺れているようにも見える。
「決まったら、なるべく早く教えて欲しい」
「分かった。…一応特待だし、気持ち的には冬まで居たいけど…進路次第、なのかな、やっぱ」
「二年連続三冠、とか」
「出来るかな」
「藤代がいるなら、大丈夫だろ」
「頼もしいキャプテンだな」
「水城部長みたいにはなれないけど」
別に、それは関係ないだろと、変わらないトーンで答えながら、高見先輩と孝成さんだって全然違うのだからなと妙に素直に思えた。その二人が豊峯を選んだのだから、それこそ俺に批判出来る権利なんてない。
「あと、これは顧問からだけど」
「えっ、なに?」
「男女交際禁止ってわけじゃないけど、部活と勉強に支障はきたすなよって」
「はあ?何だそれ」
「サッカー部のマネージャーのことじゃないのか」
「マネージャー?なんでそこでマネージャーが出てくんの」
「さあ…つき合ってるわけじゃないのか」
「付き合ってないし、その余裕あったら進路調査書いてるから」
「そうか」
「はあ〜なに情報だよ」
「加藤じゃないのか」
「……」
体育館内に加藤の姿はない。
春休み中の部活でマネージャーから連絡先は聞かれた。断る理由はないけれど、メールのやり取りみたいなことは出来ないとその時はっきり言ってある。実際、数回メッセージが来たものの俺が返信したのは最初の一回だけ。
それを知っているのは確かに加藤くらいだ。マネージャーとはクラスも違うし、見かけて声をかけるということもない。しても精々挨拶くらいだ。
「めんどくせ…」
「禁止ってわけじゃないから、加藤の僻みとかじゃないの」
「そんな余裕ないってこと、あいつも分かってると思うけど」
豊峯はまた困ったように小さく笑い、「話はそれだけ」と踵を返した。気にしいなのか自信がないだけなのか、どちらにしても俺もまだ信用され切れていないのだろう。今は、マネージャーとどうこうなるとかより、豊峯との信頼関係を築く事の方が先だ。バスケ漬けな上365日勉強に追われ、“恋人”なんて作る余裕は何処にもない。
そのくせ孝成さんの事が好きで、気持ちを伝えたいなんて思っていたのだ。矛盾するにもほどがある
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