12
道路には桜の花びらが無造作に散り、薄いピンクの絨毯が敷かれていた。一年前は、この花びらを「すぐ散るの勿体ないね」と残念そうに呟いた孝成さんが隣に居た。
「あ、藤代先輩おはようございまーす」
「…おお、深丘」
「なんですか、その反応」
「いや、早いなと思って」
「気合い入ってるんです」
「あ、そう」
「藤代先輩だって早いじゃないですか」
癖、だ。
孝成さんを迎えに行っていた頃と、同じ時間に起きて準備して家を出る。そのまま真っ直ぐ登校すると普段より早い時間に着く。孝成さんが引退したあとも、今も、俺はその習慣を変えられず、一年生に混ざって準備をしたり周りより先に練習を始めている。それだけのことだ。
着替えを済ませて体育館に入ると一斉に自分に挨拶が飛んでくる。それに慣れる日は来ないだろうなと思いつつ、その一つ一つに答えていた孝成さんの声が脳裏を掠めて足が止まった。
「藤代先輩? 」
「、ん」
「どうかしました?」
「…いや、なんでもない」
「おはよう」何気ないその一言でさえ、俺は孝成さんに囚われている。香月は双子だから分かると言っていたけれど、俺の顔にも分かりやすく出ていたのかもしれない。端から見て、落ち込んでいるな、と分かるくらいには。そう思うと香月は出ていなかった。ただ、それより分かりやすく髪をバッサリ切ってしまったからな…どっちもどっちか。
モップ掛けされた床はピカピカで、バッシュはキュキュッと気持ちの良い音がなった。
「はあ〜やるか」
「あ、部長も来ましたよ、おはようございます!」
新入部員は例年通り。集まりは悪くない。夏まで何人残るか、ここまで残った自分からしてみたら見物だ。同時に、去年三冠を成し遂げた重圧は俺の肩にも乗っている。おかげで人にも厳しくなっているし、ピリピリしていると思われていそうだ。
深丘は相変わらずなついてくれているけれど…中学の頃は「怖かった」と思っていたくらいだから、今の一年生からしたらその頃の深丘と同じことを思っていても可笑しくない。
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