転校生の目 (1/2)


今日は珍しく、朝早くに教室についた。
クラスメイトたちはチラリと俺を見るだけで、あとは何ら変わりはしない、いつもどおりにお喋りに専念していた。あーあー、俺には誰も挨拶してくんねえの。机に体を預けながら時計を見る。HRまで、あと十五分もある。することはない、つまりは暇だ。
扉が開く音がして、なんとなくそちらを見た。夏目だった。他の連中は夏目を一度も見ることもなく喋り続けている。
夏目は少しだけ目線を落として、自分の席へ向かう。俺の近くを通るとき、声をかけた。

「風邪治ったんだな、夏目」

すると夏目は少し驚いたように俺を見て、すぐにあの嘘っぽい笑顔を浮かべた。

「うん、ありがとう」

俺たちが会話するのを見たクラスメイトは、少しだけ驚いていた。当たり前だな、この前まで何の接点もなかった二人が(しかも両方がぼっち)会話をしていたんだから。

「おまえ、ちゃんと食ってんの? そんな細ぇから、風邪ひきやすいんじゃねえの」
「…そうかな」
「おー、ちゃんと食え。そして寝ろ、俺みたいにな」
「……ああ、そうだな」

なおも会話を続ける俺たちに向けた視線が落ち着かないらしく、夏目の目はなかなか俺を見なかった。なんで自分にこんなに話しかけるんだろう、って目が言ってる。案外こいつわかりやすいんだな。ここらへんでやめとこう。そう決めて、あくびをしてまた机に突っ伏した。
自分の席で夏目はマフラーをとった。あの似合わないマフラーだ。この前 外に出たとき、夏目はすでに家に入ってしまっていたらしい。誰もいなかった。
たしか、一時間目は国語だった気がする。またあの子守唄を聞くのかと思うと、なんだか瞼が重くなる。
そのまま頭の中が溶けていって、俺はいつものように眠りについた。


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