転校生の目 (2/2)


俺は寝ている間に夢は見ない。小さい頃はよく夢を見ていて、それを親に話していた。今日は怖い夢を見ただとか、夢の中でお父さんが僕のプリンたべちゃった! とか、現実ではないのに父さんに怒ったこともあった。
だが不思議なことに、成長するにつれてだんだんと夢は見なくなっていった。自分でもいつから見なくなったのかわからないように。

「…相川」

だから俺は今日も夢なんてものは見なかった。夢を見ないぶん、寝ている時間がやけに短いように感じるような気がする。気のせいかもしれないが。

「相川!」
「おー……?」
「起きろ、相川。次は移動教室だぞ」

夏目の声だった。眠たい目を開くと、夏目が俺の肩を揺すっていた。教室には俺たち以外いなかった。夏目を見ると、どこか焦ったような顔をしていた。

「夏目? 説明プリーズ」
「次は音楽で、移動教室だ。だけど、相川が寝てたから…」
「ああ、なるほど。わざわざ起こしてくれたのか、夏目。ありがとな」
「…いや、大したことないよ。ただ…」
「ただ?」

俺が復唱すると同時に、チャイムが鳴る。あー、たぶん始業のチャイムだな、これ。つまり俺たちは、授業に間に合わなかったわけだ。

「悪いな、夏目。俺のせいで」
「ああ、違うんだ。俺がもう少し早めに起こしていれば良かったんだ」
「あー、ほんとごめん。どうする、今から行くか?」
「え? ああ、そのつもりだけど……相川は?」

どうやら、俺がよく授業をサボることを思い出したらしい。おそるおそるというふうに聞いてくる。

「あー、俺はサボるかな。…夏目、お前もサボんねえか?」
「ええっ? サボる、ってどこで?」
「ここで。あいつら帰ってくるまで一緒に喋ろうぜ。俺の巻き添えくらったとでも言えば、せんせーたちも見逃してくれるし」

夏目は少し迷って、俺の前の席の椅子を引き、そこに座った。意外だな、残らずに授業に行くと思った。
そっから俺たちはどうでもいいことを喋った。好きな味噌汁の具は何だとか、最近ハマってることとか。話してるうちにだんだんと夏目は俺に対する態度が柔らかくなった気がする。夏目はやっぱり一人っ子らしい。俺に兄弟がいると知ると、ちょっぴり羨ましそうな目をした。それと、悲しそうな目も。すぐにやめたけど。三十分、だろうか。結構喋った。俺はふと、気になったことを口にした。

「夏目ってさー、 」
「うん?」

言ってもいいんだろうか。傷つくだろうか。まっすぐに俺を見る目に、なんだか申し訳なくなった。

「今度俺の家に来ねえ?」
「………え?」
「たぶんさ、チビどもが喜ぶと思うんだ。それに、子守が俺だけじゃちょっと不安でさ」

夏目への申し訳なさと、俺に勇気がなかったから、別のことを言った。


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