幽かなる愛(I)

ざっと読んで分かる別物語の顛末
菊弘は、死亡する貝木を助けないと永遠に物語の中から出れない。
「恋」で貝木は殴られる→死亡となるので1回目から63回目までは菊弘は貝木を助けようとするが、そもそも「恋」の時点では貝木死亡が決定しているのでもっと前に戻らないといけない。

その真実に気付くのが64回目。
63回目以降は、菊弘が主犯の存在(サキュー)に気付いたりループしていることに気付いたりすると、サキューが記憶を消して再スタートしていた。しかし、64回目途中でサキューが飽きたので記憶はもう消さないことにした。
すなわち実質菊弘は64回目が1回目の感覚で、本人の中ではぼんやりとループしてたんだろうなあとは思っている。

1回目(64回目)のラストでやはり貝木は殴られ死ぬ。
63回目以降はその後は無くサキューによってスタートに戻されていたため分かっていなかったが、死亡した貝木のもとにラクスが現れたので共犯であることに気付く。
※というよりサキューに同じく物語に投入されているので仕事をこなしているだけなのだが非協力的であるのは変わりない
サキューは勿論、ラクスも味方ではないと判断した菊弘はセルのみとやりとりをすることを決める。
それと同時にサキューがスタートへ送る権利をセルに明け渡し「もう飽きてきたから勝手にやっといて」と傍観に徹することに。
2回目(65回目)に行く前に菊弘とセルは相談をし、「恋」より前の時系列へ戻り、貝木の動きを探ることに。そして「偽」でのおまじないのことに気付く。
※菊弘のくせに遅いと思われるだろうが、本人は2回目(65回目)でやっと貝木に愛着が沸き、自分のせいで(サキューのせいだが自分の責任であると思っている)巻き込まれているので助けてあげなきゃ、早く解放してやらねばという気持ちが芽生えたので。本格的に動き出した。
そして、物語の表舞台に立つことについてセルが疑問をぶつける。
−初めから見ていて不思議に思ったのだが今の菊弘は存在が無いに等しい、エネルギーの欠片も感じられない。もしかしたらこの物語における菊弘が既にサキューによって登場させられていたのなら、「偽」に戻っても言動がカウントされないのではないか?
だから「恋」でどんなに貝木を庇っても、菊弘は無傷で貝木が傷つくのだと確信を得て二人は物語における登場人物として認められている菊弘を探すことに。サキューのことだから貝木に関わっている人物だろうと少しずつ時系列を戻しながら探っていると、貝木が正月に宿泊している宿に違和感を持つ菊弘。
そこは実際には宿ではなく大きな屋敷であり、サキューに言動を操られている貝木は「怪異専門家である知り合い」に会いにその場に訪れ、そして宿泊しているのだった。その屋敷に行くと登場人物である菊弘が「ずっと待っていた」と二人を座敷にあげる。
長髪の菊弘は名をそのまま、熊谷菊弘といい小さな頃から不思議な力を持っていて怪異の専門家として生活してきたという。そしてその力で菊弘たちが現れることを予知しており、菊弘と自分が成り代わるのを既に了承しているという。なんとも都合のいい設定にサキューに怒りを覚えたが文句を言う間もなくラクスが現れ「菊弘がこの物語の登場人物であるその菊弘の座を奪うのであれば、とあるやり方に従って貰わないと同じ名前の魂が二つになってしまうので死神としてはそれは見逃せない」と、菊弘に長髪の菊弘を食えと言うのだった。ラクスの言動に最早怒りも頂点に達した菊弘だったが、長髪の菊弘に「そもそもを終わらせるには貴女は私を食らわなければならない、私はそのためだけに生を許された存在なのだ。それを忘れるな」と宥められる。怒りながら泣きながら自分を食らう菊弘を、ラクスはとても楽しそうに眺めていた。
こうして登場人物として存在することを許された菊弘は、撫子の蛇を自分が祓えば良いのではないかと考え「化(なでこスネイクよりも前)」で単身撫子を誘拐し自分の力で蛇を祓うが、そこで傍観を決め込んでいたサキューに「本筋をいじるのはルール違反だ」と巻き戻され、2回目のスタート地点に戻される。
それを経て菊弘とセルは本筋を変えずに貝木生存ルートを進むのは不可能であると考え、おまじないを流行らせた詐欺師が恨まれて殴り殺されるという結果に注目し、菊弘自らが詐欺師の立場に成り代わることで貝木の死亡を避けようと「偽」の少し前、貝木が街に来る前に飛び、貝木を拉致しワケを話す。
納得しなかった貝木を拉致監禁したまま菊弘は「貝木泥舟」を名乗り、おまじないを流行らせる。
監禁した貝木はセルの便利な魔界道具によって菊弘の記憶を覗き、自分や菊弘がどのような状況に置かれているかを把握する。
自分の言動が都合の良いように改変されていたりしたことを快く思わない貝木は菊弘たちに協力することを約束。それに菊弘の能力は詐欺に大変役に立つので利用しようと考えた。菊弘は一度だけ詐欺に加担する約束を仕方なくする。
※菊弘がサキューの監視下にあった63回目以降は、貝木でさえサキューに操られていたので言動が貝木本人と異なっていたのはそのせい(怪異の存在を信じている、熊谷菊弘という怪異の専門家の知り合いがいるなどの捏造)
火憐に蜂を憑かせ、暦と接触。そして暦とひたぎと対峙。
その時初めて菊弘は「貝木砂櫂(サカイ)」と名乗り、物語の登場人物として確立する。
※ここから菊弘は物語の他の登場人物には「貝木砂櫂」として認識される
そして「恋」にて、おまじないを流行らせた砂櫂は恨みを抱かれているのでこのまま貝木ではなく自分に暴漢が迫るのを待った。
しかし無情にも、貝木は死亡する。
すぐにスタート地点へ戻る菊弘。そして再び「偽」で同じことをし「恋」に望む。それでも貝木は方法を変えて殺される。
もう一度スタートに戻る。「貝木砂櫂」がおまじないを流行らせる。様々な趣向を凝らし砂櫂の存在をアピールした。しかし貝木は死ぬ。
7回目(50回目)そこでサキューが現れ告げる。
「貴様がどんなに分岐を変えてもこのゲームでは<貝木泥舟が死亡>するのだ。貝木砂櫂ではない、貝木泥舟が死亡する」
すなわち、菊弘がどんなに時系列を遡ってもどんなに貝木を死亡ルートからはずそうと足掻いてもサキューのゲームでの<貝木泥舟の死亡は変えれない>のだ。
絶望する菊弘をよそに、サキューは消える。もう一度やり直し。
8回目(51回目)、「恋」よりも前の時系列で、貝木を殺す男に菊弘は自分が貝木泥舟であると思い込ませるがそれも本筋をいじったことにカウントされるのでやり直し。
9回目(52回目)
絶望の中の菊弘は、貝木を殴り殺した男を確保ししかるべき罰を受けさせる。
貝木は身元不明の死体として処理される。物語上の貝木の死は変わらないがここで菊弘はあることに気付き、セルと秘密裏に計画を立てる。
そして10回目(53回目)
「恋」にて男に貝木が殴り殺される。前回同様、菊弘は男を警察に引き渡す。そして現れ、言葉を投げるラクス。
「もう諦めたので御座いますか?何度も死ななければならない貝木殿も貴女様も、哀れで御座いますねえ。流石に同情を覚えます」
「死神は仕事をしろよ、ただそれだけのためのお前だろうに」
笑って受け流しながらラクスは貝木の死体に確認作業で死神の鎌を突き立てシネマティックレコードを眺める。しかしそこには貝木のものであるとは思えない内容のものが流れておりいた、すなわち死神の目の前で死んでいるのは「貝木泥舟」ではなく「その他の人間」であるのだ。
「本来死神は死亡予告者が死ぬ寸前に死神の鎌でその生死を、死ぬべき人間か生きるべき人間かを判断する。しかし何十回も同じ死体を物語の登場人物として確認しなくてはならない怠惰からその作業を怠った。本当はお前は貝木が死ぬ直前に確認しなくちゃいけなかったんだ。何をしている?何を同じことの繰り返しで仕方なく動いているラクス」
登場人物としてのラクスは成り立たなくなった。
死神は死亡予定者を審判しなくてはならない、だがこのゲームではラクスは本来菊弘に残酷な結果を叩きつける役でしかない。
物語で菊弘に貝木泥舟は死んだと伝えなくてはならない死神は、今目の前にある死体が本当に誰だか分からない身元不明者の死体であることに驚愕した。これではラクスは物語の、本筋のルール違反者であるうえに自身の仕事を放棄したと見なされ菊弘との契約違反にもなる。
死体はセルが用意していた。貝木が死ぬのと同じ月日に同じ時間に死ぬ身元不明者。実際は本筋とは関係ないので、いつどこでどのように死んだ人間でも構わない。ラクスは貝木が死んでからしか現れない。そういうゲームのルールで、物語の本筋だ。セルにかかれば瞬間移動もお手のもので、本筋では貝木の死体は身元不明者として処理されるので何も問題は無いのだ。
貝木は、セルの力によってラクスやサキューの及ばない場所で早急に手当てを受け助かっている。菊弘がゲームに勝った。

「ちょっと待ってよ!そんなのてアリ!?」
サキューは手に持っていたポップコーンを投げ出してテレビの画面にしがみついた。画面の向こうではラクスが呆然と菊弘を見つめている。
「私の勝ちだぞ夢魔、ループをやめろ。そしてしばらくおとなしくしているんだな」
菊弘は最大限の魔力を使ってサキューの顔を画面に叩きつけた。

その後サキューとラクスは菊弘によって罰を受け協力体制に戻る。
一話完結の話は別物語が終わってからの時系列になる。

菊弘が絶望に屈し降参するというのが、サキューの筋書きであった。
そもそもこのゲームには<貝木泥舟が生存する>という確定の結末を前提に動いていない。「花」で明らかになるように、貝木は沼地と神原に接触しているのだ。存在は認められている。しかし<生存は確定>されていない。その曖昧な叙述トリックが真実であり、サキューのゲームの前提であった。ならば、菊弘が成した所業は<悪意のある改変>であり、絶対にやってはいけないことだった。修正者として力のある菊弘、物事を改変し再編し編集し修正すると定められた菊弘が成したことは、誰にも修正できない。貝木泥舟は、生きてもいない死んでもいない存在に確定した。
菊弘は責任を取り、はじき出された貝木の本筋への介入を助けるために彼の助手<貝木砂櫂>として協力をする。
その後、菊弘と共に、貝木は曖昧な世界線で活動を続けた。

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