じぞうをくちよせものをさがせ



かぁーごおめぇかあごぉめー、子供たちが輪を作って声を上げている。時折笑い声が混じって、気味の悪い雑音に変わった。
空では、薄い雲が風に流されていく。
町中の公園には遊具が取っ払われていて、噴水の水は止められていた。死んでいる。この場所は生きるのを辞めている。子供たちだけが、無邪気にそこで生きている。

「何をボーッとしてんの」

後ろから声が掛かると同時に、顔の横に缶コーヒーが差し出された。
「そうずっと気を張っている必要は無いだろう」
どうしても反抗的な言葉しか出てこない。
菊弘は、俺の隣に腰掛けてフンと鼻を鳴らした。
「それだから背後からガキに殴られる」
「何だァそれは、知らん」

缶コーヒーを開けずに、そのまま足の間に置いた。ぬくい。
菊弘は、白い息を吐きながら、首元のマフラーを外す。
「寒そうだからつけろ」
「ありがとうよおばあちゃん…見てみろ、子供はまだ短パンで元気に遊んでるぜ」

輪を作って、くるくると回っている子供たちの方に顎をしゃくる。
「子供は風の子って言うしなあ……お前はアホの子ね」
「じゃあお前は頑固」
「……上手く掛かってるな」
短く笑う。俺は少しだけ気持ちが良くなった。

かーごのなーかの、とぉりーはぁ。
いーつ、いーつでぇやあるー。

「鳥か、鳥井か…いつ出るのか出会うのか。今となってはもうどっちでもいいのだろうなぁ」
菊弘は、ココアの缶を開けて一口付けた。
「かごめかごめの話か?」
「知らないのか?地域年代ごとにいろんな歌詞があって、意味合いも解釈もそれぞれ違うんだぞ」
「ああ、徳川埋蔵金だか…天海の謎だとかか」
「遊女のことを歌った唄だとか、流産した妊婦の唄だとかね」
「俺が子供の頃は、もっぱら流産の説が流行ったがね」

よーあーけーの、ばぁんにぃ。

「つーぅると、かぁーめがすうべった〜…だもんなぁ。長寿の象徴が滑る、すなわち悪い意味になる」
菊弘が、子供たちに合わせて声を揃える。

「うしろのしょーめん、だーあれ」

俺は、ぼそりと呟く。
勝手に背筋が寒くなった。
「…子供の遊びとしちゃあ、意味が分かんねえよな。何が面白いんだか」
「自分の後ろに居る人を当てっこするのが面白いんだよ。それに、意味や由来ならちゃんとある」

菊弘は、夕日が沈むのを眺めていた。

「失せ物探しのために、子供に地蔵を乗り移らせる宗教的儀式を、子供が真似て始めたのがそれと言われているよ。大人たちがやっていたのを、意味も分からず真似して遊んだんだ」
「…まるで見てきたみたいに言いやがる、青春時代なのか?」
「そんなわけあるか、室町とかそのくらいのものだぞ」
「失せ物探し…失くしたものを探すために子供に地蔵を乗り移らせる必要性が理解出来ん。何で地蔵なんだ」
「子供にゃ降りやすいからだ、いわゆる口寄せさね。子供を囲んで歌いながらぐるぐる周る…囲まれた子供はトランス状態になって、神が降りた状態になるというわけだね。地蔵なのは…何でだろうなァ」

菊弘は首を傾げた。
「ああ、こんな時に中禅寺さんが居ればいいのに……私はそんなに知識があるわけじゃあないんだ、広く浅くがモットーでね」
彼女の知人の名が出てくる。
「…地蔵と子供の関係性は、賽の河原くらいだよなぁ」
「なるほど?たまにはそれらしい事を言うねえ。子供を助けてくれる地蔵…菩薩なぁ、だから神降ろしに子供を使うのかもね。賽の河原でも、救ってくれるのは親じゃあない…菩薩だからな」
「大人に囲まれてやいやい言われている子供が可哀想で、降りてくるのかもしれんな…探し物くらいなら、力を貸してやろうってな具合で」

子供たちが、輪を作って遊んでいる。

「ま、それでも。…失せ物探しだけに囲んでいたわけじゃなかろうて」

菊弘は、ココアを飲み干してその顔に不気味な影を作った。
くっと上げられた口角は、右側だけだ。
本人はそれに気付いていない。

彼女の中の、永遠の子供が。
神降ろしに、殺人に、魔術に使われてきた子供が、笑っていた。

後ろの正面だあれ。
きっとそれは、夜明けの番人。
誰でもない者。







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