わたしは貘


夏の夜の気怠い暑さから逃れようと布団をまさぐると酷く冷たいものが手に触れた。ぼんやりと夢見眼でそれを見るといやに生白い躰が在った。嗚呼これは先程までの情事の相手だ。しかし死体のようだな。私は男の顔を撫でた。死体のような男の顔は苦悶の表情である。悪夢でも見ておるのかと私はその顔に三度ほど息を吹きかけて、まじないの様に繰り返した。
「ばく、ばく、ばく」
するとどうだろう、死体は苦悶の表情から安らかな微笑みを浮かべて気持ち良く眠り始めたものだから私は余りにも素直過ぎるその男の事が可笑しくって可笑しくって。思わず声を上げて豪快に笑ったのだった。
死体は生き返り、半分寝惚けて迷惑そうな顔をしていた。
明日から男の為に悪夢払いの祈祷でもしなくてはなるまいよ。




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