「遅かったね〜」

ネモはインキュバスを念動力で縛り付け、椅子に腰かけるように座っていた。

「…なんだ、お前閉じ込められてなかったのか」
菊弘は前髪を後ろに撫で付ける。
額にはべったりと脂汗をかいていて、着ている服は汗を含んで少しだけ重かった。

「僕は超能力者だからね」
ネモは自慢げにふんぞり返る。その尻の下では、喋ることも許されないインクブスが呻いている。
「じゃあさっさと私たちを助けてくれても良かっただろうに。…見ろ、セルなんか未だ呆然としている」

菊弘は座り込んで地面を見つめているセルの方に顎をしゃくる。
虚空を見つめたまま、セルは力無く言った。
「お前たちは、このような悪夢を見せられていたのか…?いや、驚いているのではない、驚きではない。事象の理を存じていても、いざ経験してしまうとな…立場が逆転してしまうと、どうも…」
「そうか、お前夢魔のコレは初体験か。じゃあしばらくしんどいぞ、これは慣れない。後で自分で記憶の操作でもするんだな。ところで―」

菊弘はつかつかとネモに歩み寄る。
悪夢を見せられて、怒り心頭の菊弘の顔のそれは、彼女のものではない。
「おい、インクブス」
菊弘は思いっきり四つん這いの悪魔の頭を蹴った。
きゃあ、とネモがそこから転げ落ちる。
そのはずみで、ネモの拘束が解けたので、すかさずインクブスはその場からの逃走を試みた。
だが、肩口に鋭い刃物のようなものが突き刺さり、再び地面と縫い合わされるはめになる。
痛みに声を上げる。
背後では凄まじい魔力を乱暴に霧散させながら、手に禍々しい形をした薙刀を握る菊弘が、相も変わらず凶悪な顔で立っている。

「サキュバスはどうした?魔女も。聖杯はどこだ?」
「え、えっと…サキューはボクが君たちに悪夢をけしかけた時までは一緒だったんだけどなぁ…?た、多分プリンセスを連れていの一番に逃げたんじゃないかな…ははは」

確かに、菊弘の悪夢の中ではサキューとウィステリアの気配を感じ取った。
しかし姿は無い。気配も探るがどこにも見当たらない。

「…聖杯は」
「うぅ、そんなもの…<存在>しないよ。あれはね、ボクら悪魔が愚かな人間共を釣るためのエサさ。魔術師って半ば人間とかけ離れるあまり誘惑に乗り易い、だからボクらはそこに漬け込んで、人間たちを戦わせるんだ。サーヴァント?そんなもの簡単だよ、君だって召喚師だ、悪魔にもそういうことが出来る奴が居る。誰が生き残るかボクらは賭けて、勝者には願いを聞いてやる。たった一人の願い事だ…<聖杯>なんて代物無くとも、ボクら<夢魔>には出来る」

インクブスは喉の奥で笑う。

「聖杯で叶えられるものは、すべて<まぼろし>だと?」
「当たり前だ。何でも願いを叶える<聖杯>?そんなものでたらめだ。おかしいだろ?何でもだよ?摂理も定理もなにもかも無視したものだ、エネルギーが馬鹿みたいに必要なものだ。それが<聖杯>の形をしている!?バカだよ!バカだよなあ君たちは!」

菊弘は表情を変えない。
ただ、ネモだけは珍しく怒った顔をしていた。
「菊弘、こいつうるさいんだよ。だから口を塞いでやったのに」
「お前はなまじこの世界線の人間と関わっているからな、そうも思うだろう。しかし私はこの悪魔と同意見だよ。何でもお願いを叶えてくれる便利なアイテムなんて存在するわけがない。…となると、今回はウィステリアも騙されているんだな?」

菊弘は、薙刀の刃を抜くのではなく、わざと外側に裂きながら抜いた。
痛手を追いながらも、本当に自由になったインクブスはよたよたと立ち上がる。
「今回は?アッハッハッハ…菊弘、君ってとても楽天家なんだね。あの子はサキューのお気に入りだよ?サキューのお気に入りはボクのお気に入りさ。あの子は永遠にボクらのおもちゃだ。ボクらが脚本家、監督、プロデューサー、マネージャー、アシスタントなら。あの子は主演女優、ヒロイン、歌手、キャスト、道化のピエロだ。ボクらはあの子のお望み通り、幻影を造る手伝いをする。じゃ、そろそろ帰らないと心配されるからおいとまするねー。楽しかったよ、みんな」

インクブスは両手を広げて、恭しく礼をした。
背後に光輝く扉が表れて、重々しい扉が開いた。きらきらと光の粒が周囲に散らばり、三人は眩しさに目を細めた。
その視界がぼやけているうちに、インクブスも扉も消えてしまっていた。

セルはやっと立ち上がった。ネモが走ってその体の隣に滑り込む。
支えるようにして腕を組むと、セルは苦笑した。
「今回、かなり役に立たなかったな」
「そんなことないよ!セルがいないと詰んでたよ、ねえ菊弘!」
「ま、及第点だよな」
薙刀を消し、着物の袖にそれぞれ手を突っ込む。
片方の手で自分の顎をさすると、その仕草にとても見覚えがあって気味が悪くなり素早く両手を腰に当てた。
「どうしたの?何で仁王立ち?」

ネモが不思議そうに小首を傾げる。
「…なんでもない。とにかく早く元の世界線に戻って体を戻さないと」
「あっそうだった、居心地が良くてそのことをすっかり忘れてたや」
「楽しかったろう、一人きりの体は」
「反魂は確かに胸が高鳴ったな、魔力の消費がすごいのでわたしはもう二度とやらないがな」

三人でとぼとぼと歩き出す。
世界はほろほろと姿を失い、あるべき形を保てなくなってきた。
この世界線は、消滅する。

「ねえ、菊弘。僕が…というか君がこの体に戻るとこうやって対話することなんてなかなか出来ないよね」
遠くを見つめると、真っ白な空間が見えてくる。

「まあそうだな、例外が無ければ。どうした、気になることでもあるか」
「あの子ら、マスター達はさ。ゼロから作られた人間じゃないんだよね、きっと」
「…まあ、ウィステリアや夢魔たちにゼロから人間を―命を造ることはできないだろうからな。どこかの世界線の人間をコピーして<ヒトガタ>に入れたのだと思うよ」
「そう、だよね」
「お前は気に入った人間にすぐに感情移入するなぁ。私より人間らしくてびっくりするよ」

ほんとにな。セルも笑いながら同意する。

「だって彼女らはコピーにしては感情が完璧すぎた。自分等の存在理由も悟っていて、無駄にあがくことはしなかった。それが嫌にリアルで、僕には作り物の人間に見えなかった。…あの子らは、きっとどこかの世界線で今も普通に過ごしているんだよね?そうだよね」

まるで自分に言い聞かせるように、ネモは言った。

あの子が生まれてきた世界。
あの子が生まれなかった世界。
あの子が男の子の世界。
あの子が女の子の世界。

あの子の後輩が、彼女じゃない世界。彼女の世界。

あの子が主体の世界も、主人公も、モブも、全部有りうる世界線。

きっとどこかで、すれ違える。
誰とでもすれ違い、出会い、衝突し、恋をして、喧嘩して、友達になって、敵同士になる可能性がある。

<あり得ないこと>は、等しく<あり得る>。












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d’srp」¥、。kmjkっっっっっっっっっっっjぶが8gt」d;mvzs、sだふぁぽ;、f;ておるいpvzsまままままままままままままたしっぱ失敗してしまったね。
いいや、失敗なんかじゃないさ。彼女はとても楽しかっただろう。ほうら、こんなにも気持ち良さそうに寝ている。彼女は夢のなかだ。えいえんにたのしいゆめをみるよ。
つぎはなにをしようかぼくのきみ。
つぎはなにをしようかわたしのきみ。

「確か契約違反はペナルティを受けるんじゃなかったっけ?サキュー、どうするの君。ここに居て大丈夫なの?」
「そんな質問をするということは貴様、我輩の崇高な計画に気付いていなかったな?あー呆れた、我輩の半身がここまでおバカさんだとは思ってもみなかった!」
「あのねえサキュー!ボクはそもそも君たちの人外契約ってのがワケわからないの!意味分かんないの!あんなの騙し合いのくっだらない文章読む気にならないよ、誰が読むのあんなの」
「その騙し合いを逆手に取って、今回ラクスの野郎を先に仕留めさせたんだよ。ラクスはペナルティを受ける代わりに、契約を一度そこで白紙に戻すという条件をつけているのだ。そんなのペナルティ終わってからもう一度契約を結べばいいと思うだろ?思ってるね画面の前の君?」
「…だって、菊弘が<人外>のまま存在する限り、君たちは彼女に付き従わなければならないんだろ?」
「あのなあ、ラクスはああ見えてとっっっっっってもねちっこい。陰湿陰険意地悪根暗の鬼だ。あいつだけ契約の約束やらなんやらにめっちゃくちゃ時間掛かるんだよ。それなら時間があるときにゆっくりやりたいよね?」
「まあそうだね」
「だろ?」
「あー…だからもしかして菊弘は今のところサキューにペナルティは受けさせないと?」
「そう!その通り!ここまで読んでワケわからんやつは<作者>に聞け、Twitterでかるーく説明してくれるだろ。とにかく我輩は今のところ自由の身だ、まあ喚ばれれば行くけど。それでもセルだけの戦力じゃ心許ないからな。我輩という絶対武力は、ラクスとの再契約まで取っておきたいわけだよ。分かるかねぇ?読者諸君」
「あのさぁ、必死にメタやってるけどここまで読んでる人ってなかなか居ないと思うよ?」
「必死に文字化けの演出したのに?ふつー気になって最後まで見るっしょ?」
「てか静かにしなよー。プリンセスはおねむなんだよ?」
「ああそうだった、忘れるところだった。さぁてプリンセス?あなたは次は何をする?何をしたい?何でも私たちが叶えてあげるよ!」



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