はじまり


ラプラスの悪魔は
月にいる

『宝石の国』世界観・夢
※オリキャラがわんさか出ます。
※原作10巻までのネタバレ、設定捏造など注意です。
─登場人物─
彼女
ラプラスの悪魔
"師匠"
【シンベエ】
【スコット】

─君には不可能なのか?
友人は、そう尋ねた。
わたしは鉱油で作られたマグカップに口をつけて、紅茶を飲むふりをしている。
この体内に入れても、仕方がないのだ。だが、香りを楽しむことは出来た。
「…不可能、ではない。わたしがソレを作り出せる可能性は無限にある。しかし、わたしが求める完璧なソレは、きっと出来上がらないだろう。結局わたしが求めるものと、わたしが作り出せるものとでは差異があるのだから」
「だが、出来るのならやるべきだ。…可能性を見ることが出来る君には酷なことかもしれない。分かりきった失敗をしろと言っているようなものだからな」
友人は、暗闇の空を見ていた。彼の手元のグラスで、ロックアイスが揺れる。
「僕らは君がソレを作り出せるのなら、ぜひとも協力したい。ソレを知ることが出来るのならば、僕らもきっと無に近づくヒントを得られるからね」
「…たしかに、あなたたちの技術であればわたしの魔力だけに頼らずソレを作れるかもしれない。だがね、あなたたちは知らないだろうが…ソレを自然の力以外で生み出すことはタブーとされているんだ。わたしは、あなたたちがソレを作り出そうと必死に研究しているのも恐ろしくて手出しが出来ない。止めることも手伝うことも。いかに、金剛を起動させるための囮を作るためだとはいえ…人間をイチから……いや、ゼロから自分たちの手で、生殖行動以外で生み出そうというのだから。わたしは恐ろしくて仕方がないよ」
友人は、少し口角を上げた。
“ラプラスの悪魔”が何を言う、とでも思っているのだろう。否、思っている。わたしには分かる。
事象を予め完全に把握、解析する能力を持つ悪魔。作用しているすべての力学的物理的な状態を知ることが出来るシステム。かつて〈ソレ〉が理想論として掲げ、生み出したもの。量子力学に否定され、存在は過去のものになった超人的知性。
わたしは形を変え、そして本来の〈悪魔〉になった。
人間と魂の契約をし、悪魔として存在を固定させた。もともとの能力や知性はそのままに、魔力を得て動く化物へと変貌した。

星は六度の隕石の流星群を受けて砕け、砕けたそれが月になった。そして苛酷な環境で生きるもののみが残ることになった。ソレはいなくなった。滅んだ。形を変えて、進化した。否、わたしから見れば、これは退化であった。または繰り返しであった。

「月の人を統べる王よ。わたしには時間がある。それはあなたたちもだ。確かに、暇つぶしには最適な事項かもしれない」
「ならば」
「だが、仮にソレが…わたしの契約者である彼女が、人間が再びわたしの力によって蘇るというのなら」
「もちろん協力する」
「協力の申し出はありがたい。しかしひとりでやらなくてはならない、やるべきだ。彼女はわたしの特別だ。あなただって、特別なものには触れられたくないだろう?」
わたしは、彼が大事にしている宝石の腕を知っている。見せてもらったわけでも、話してもらったわけでもない。判るのだ。そういうシステムが動いている。
彼はそれを理解しているので、なにも言わない。わたしがそのことをおおっぴらに暴露するつもりがないと知っているからだ。
「…わかった。では、そうだな……君に研究所…いや、自宅を提供させてくれ。いつまでも客人を…友を外の宇宙空間で漂わせておくのは申し訳ないんだ」
彼の言葉に、わたしは笑った。
「あれはあれで楽しいのだがね」

わたしには、月の裏側に邸宅が与えられた。

そして始まる。



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