□その執事、接触



「あーーー〜、やられてら」
ファントムハイヴ家料理長・バルドは、煙草を加えながら言った。
目の前には、見事に噛み散らかされた電線がある。
「電線パスタは、相当お気に召したらしいな。ネズミ共め」
そう、電線をダメにした犯人は…
「またネズミですだか?」
「今年は多いねえ」

同じくファントムハイヴ家・メイドのメイリン、庭師・フィニが脚立の上のバルドを見上げる。
「ロンドンで異常発生してるって聞いてたが、まさかこんな郊外まで足を延ばしてやがるとはなぁ…」
修理を完了したバルドが、脚立を降りてくる。
「こんなしょっちゅう停電させられたんじゃあ、商売あがったりだぜ」
「何の商売ですだ?」
バルドの言葉にメイリンが問う。
「あっ!!」
フィニが声を上げた。
バルドの背後を、ネズミが一匹走り抜けたのだ。
「ネズミ見っけ!!」

フィニは、側にあった大きな像を持ち上げて、ネズミの方へと振り下ろした。
「えいっ!!」
「う゛おおおい!!」
バルドはそれをかろうじて避ける。
しかしネズミは仕留められていない。ただ廊下が半壊したのみ。
もうもうと埃の舞う中、ネズミは逃げ出す。
「あっ……逃げられちゃいました!」
てへっ☆と舌を出すフィニ。背後には、腰を抜かしたメイリンが居る。
「てへっ☆じゃねェ!!オレのことも殺す気かッ」
“バッキャロー!!”

バルドの怒鳴り声が、屋敷に響いた
「……随分と騒がしいな」
ビリヤード台を中心に、七人の者たちが話をしている。
「どうやらココにも鼠がいるようだ」
「食料を食い漁り、疫病ばかりふりまく害獣を、いつまでのぼらせておく気だ?」
椅子にふんぞり返って、ムシャムシャとサンドイッチを食べる、太った男。
「のぼらせる?彼は、泳がせているのでは?」
チャイナ服を纏う、短髪の男。
「そう……彼はいつだってナインボール<一撃必殺>狙い。次もパスなの?」
真っ赤なドレスに身を包む貴婦人。
「…ファントムハイヴ伯爵」

その小柄な体を包み込む、大きな椅子に座り、微笑を浮かべる少年。
ファントムハイヴ家当主、シエル・ファントムハイヴである。
「パスだ。打っても仕方ない球は、打たない主義でね」
「…御託はいい。鼠の駆除はいつになる?」
厳しく眉をひそめ、低く呟く男。
シエルは答える。
「すぐにでも。すでに材料はクラウスに揃えてもらった」
クラウスは、グラスを口元で遊ばせている。その表情には、薄い笑みを浮かばせて。
カンッ。軽い木が当たる音。
チャイナ服の男がボールを打つ。
「巣を見つけて鼠を根絶やしにするには、少々骨が折れる……それなりの報酬は覚悟して頂こうか」
その言葉にシエルは、同じ微笑を浮かべ、言う。
「………ハゲタカめ…ッ」
苦い顔で、それを見下ろす。
「…………」
シエルは、冷え切った瞳で男を見た。
「貴殿に我が紋を侮辱する権利が?鼠一匹しとめられないブラッド・バウンド<猟犬>ばかりに、大枚をはたいている貴殿に」

若きファントムハイヴ家当主の言葉に、男は息を詰まらせる。

「残念、ファールだ。ビリヤードは難しいな」
チャイナ服の男が溜め息をついた。

「次は伯爵か…どうする?」
顔に傷があり、髪を後ろに流している派手な男が、笑いながらシエルに言った。

「そろそろこの下らないゲームも終わりにするか…」

シエルは、ため息をつきながら、重い腰を上げた。
「それで?報酬はいつ用意できる?」
すれ違い様、ブラッド・バウンド<猟犬>に尋ねた。
「…こ…、今晩には…」
歯を食いしばり、やっと答える。
その答えに、シエルは冷たく返した。
「いいだろう」

ビリヤード台に構える。
「後で迎えの馬車を送る。ハイティーを用意してお待ちしよう、サー」
サー、と呼ばれた男は、自分の無力さを呪った。否、自分に力が無いわけではない。この人物が、飛び抜けて優秀なのだ。
自分を侮辱したのは、まだ若き少年。

「ゲームの天才の、お手並み拝見といこうじゃないか」

太った男が言った。
皆が、少年に注目する。
「‘強欲’は身を滅ぼすぞ、シエル!」
忠告にシエルは、短く笑った。
ナインボールは、見事収まった。



「………何をしているんですか貴方達は」
騒がしいこの状況を見て、呆れ顔のセバスチャン。
ファントムハイヴ家の執事である。

「何って、ネズミ捕りに決まってんだろィ!!」
「はぁ……それが?」
バルドが怒鳴る。フィニが猫に噛みつかれている。メイリンは、自分が設置したネズミ捕りに、手を挟んでいた。
「セバスチャン!」
「坊ちゃん」
その中、シエルが書類を読みながら、セバスチャンに声を掛けた。
「今夜、ランドル公の屋敷へ馬車を迎えに出せ」
「馬車を?」
二人は会話をしているが、周囲は未だ喧騒につつまれている。
「今夜は夜会を開く」
主人の言葉に、わずかに反応する漆黒の執事。
そして、何もかも察したかのように恭しく微笑む。

「では馬車の手配を済ませましたら、お部屋にアフタヌーンティーをお持ち致します…本日のお茶菓子は、リンゴとレーズンのディープパイをご用意しております。焼きたてをお持ちしますので、少々お待ち下さい」
「ああ」
シェルは短く返事をして、自室へと戻った。

先程から、ぎゃあぎゃあと騒がしい。
使用人たちが、鼠に手を煩わせている。
「…さて」
セバスチャンは、使用人たちの間をすり抜けた。
一陣の風が吹いて、全てが終わった。手には、目を回した鼠が握られている。
ポカーンと呆気に取られる、騒動でボロボロの使用人たち。
「さ、貴方達も遊んでないで仕事なさい。今晩はお客様がお見えになりますよ」
セバスチャンは、静かに言う。
「…ふぁい……」
三人の使用人は、うなだれながら力無く返答した。
セバスチャンが手に握っていた鼠は、タナカの持っていた網に投げられ、見事に納まった。


ファントムハイヴ家の客室に、一人の男が居る。
「…チッ、もう今日しかチャンスは無いな」
顔に傷がある男。アズーロ・ヴェネル。

「……おい、居るんだろう?」
アズーロは、窓の外に話し掛けた。
「なぁ、グリージォさんよ」

ニヤリと笑ってみせる。
さあッ、と風が吹いた。木々が揺れ、無かったはずのものが現れる。
「その、“ぐりーじお”とは何で御座いましょうか?」
窓に腰掛ける、グレースーツ姿の麗人。
「灰色の、ッて意味だ。あんたにゃ似合いだろうよ」
「はあ、左様で御座いましたか」

麗人の姿が、傾きかけた太陽の光に照らされる。
灰色の髪、しかし毛先は深紅。右房の髪だけ長く、胸の辺りまで靡いている。
整った顔に、アンバランスな丸眼鏡。ガラスの向こうは、毒のような銀の瞳が。優しげに睫毛を震わせている。

「そういやあんた、この家の当主に用があるんだろ?」
「ええ。それ故、貴殿にご協力を申し出たので御座いますが…」
「そう言われたがな。事情が変わったんだ」
グリージォ、は少し困ったような顔になる。
「まさか、その当主を攫おうとしていらっしゃるとは…わたくしめとしては、予想外で御座いました」
「だから、あんたみたいなプロの殺し屋を雇ったんだぜ?」

アズーロは、葉巻を加えた。

「あんたと俺、目的は似たようなもんだしな。あんたはとにかく、ファントムハイヴ家当主と話がしたいんだろ?」
「まあ…簡単に言ってしまえばそうですねえ」
「なら話は早えだろ?」
「しかし…」
「俺たちに協力してくれよ」

“そうすれば、あんたも願いは叶うはずだ”
「金だってそれなりの金額を払う。あんたは仕事をすればいい」
アズーロの不適な笑みにグリージォは、口元だけで笑った。
「…では、そう致しましょう」


物騒な会話がされているにも関わらず、当の本人は、騒がしい使用人たちの声を聞いて溜め息をつく。
「なんでウチの使用人共は、あんなに平和なんだか…」
ブツブツと、独り愚痴る。
そしてその、背後に近づく、影。
「―!!?」
突如シエルの口を覆う両手。
薬品の匂いを嗅いで、幼き当主は意識を手放してしまった。

時は既に遅く、荷台にアフタヌーンティーとパイを乗せ、セバスチャンが部屋の前に現れる。
ノックをして、室内に呼びかけた。
「坊ちゃん、アフタヌーンティーをお持ちいたしました」
いつもなら、“入れ”と短く返事があるはずが、不自然な沈黙が続く。
「……?」
何も返事はない。
セバスチャンは、眉をひそめて扉を開けた。
「坊ちゃん?……!!」

開け放たれた窓。
風に遊ばれ、散らばる書類。
「これは―…」
ふかふかの椅子には、主がいない。

「嗚呼、何という事だ…」
主が居なくなってしまい、執事は驚愕する。
「せっかくの紅茶が、無駄になってしまった………」
しかしその割には、この場に似合わぬ台詞を吐いた。



一方、攫われたシエル。

「英国裏社会の“秩序”。逆らう者は絶対的な力で噛み殺す…女王の番犬」

体はベルトで拘束され、足には鎖が巻かれていた。
「何代にも渡って政府の汚れ役を引き受けてきた、悪の貴族……一体いくつの通り名を背負って、一体いくつのファミリーを潰してきた?」

シエルの耳に届くのは、時計の秒針の音と、男の声だけである。
男は、葉巻をくわえた。
「世界一のオモチャ工事の王様もこうなっちまうと、只のガキだな。なぁ?……シエル・ファントムハイヴ」
シエルの顔は、暴行を受けて血だらけだった。鼻血も出ている。
しかし少年は、その鋭い眼光を緩めない。

「人は見かけによらないモンだ。まぁ…玩具御殿の王様が子供ってのは、妙に納得するけどな」
「…やはりお前か」

シエルは低く言う。
「フェッロファミリー、アズーロ・ヴェネル」
アズーロは、下品に笑った。
「なぁおチビさん、イタリアンマフィアにこの国はやりづらい…非常にやりづらいんだよ」
アズーロはオーバーに困った表情をしてみせる。
「英国人は皆、頭に茶渋がこびりついてやがる…よく考えてみろよ。俺達みたいな稼業のモンが一番稼げる方法はなんだ?」

両手を広げて、シエルに問いかける。
しかしそれは、ただの一人芝居のセリフだ。
「コロシでも、運びでも女でも内臓でもねぇ……ドラッグだろ?」


「成る程、そういう事でございましたか…」
机の向こう側で、腕組みし落胆した表情を見せる…麗人。
「貴殿は、ファントムハイヴ家当主を攫うばかりか…命まで奪うおつもりで?」

「!?あんた……いつから…!」
「先ほどからお邪魔させて頂いておりました」
銀髪の麗人は、恭しく腰を折って礼をした。
「聞けばアズーロ殿。貴殿はご自分の仕事のために、この若き伯爵殿を殺害すると…そういったお話を今しがたなさっていましたね。それは真で御座いますか?」

麗人の問いに、アズーロは答える。
「俺達売人が、円満なビジネスライフを過ごすにはやりにくいんだよ…この国は<番犬>が睨みを効かしているせいで、芳醇な香り一つたちゃしない」

「鼠(売人)と疫病(ドラッグ)はのさばらせるなと、女王のお達しだ」
シエルが言う。
「ほれみろよ、ヤダヤダお堅いねえ…これだから英国人って奴は嫌いなんだよ」
アズーロは、嘲笑の笑みを浮かべる。
「女王!女王!女王信者ばっかりだ、ハハハッ」
それを黙って、麗人は眺めている。
垂れ目を伏せて、男を見ていた。
その視線に気付かぬアズーロは、シエルに話しかける。
「結局、俺達は同じ穴のムジナだろ?どうせなら仲良く一緒に儲けたい」
「悪いが、薄汚い溝鼠と馴れ合うつもりはない」
シエルの態度は変わらない。
「あんたはそうでも、他の奴らはどうかな…。今はただ番犬が怖くて大人しくしてるだかもしれないぜ。闇の掃除人、シエル・ファントムハイヴがな」
アズーロは、振り返る。
「あんたもその口じゃねえのか?え?グリージォさんよ」

そう投げかけると、麗人はうっすらと笑みを浮かべた。
「さあ、似たようなもので御座いましょうか」
「そうさ、誰だってこんな裏の仕事してりゃお天道様に顔向けできねえってもんだ。だからこそ…俺達闇の人間はよ、仕事の仲間として仲良くやるべきなんだ」

アズーロは肩をすくめる。
「わざわざイタリアではさばかないようにしていたのに…こんなに早くアシがつくとはな…。まさかクラウスを使ってまで手に入れてくるとは思わなかったよ、これだから俺は半人前なんだよなァ!またボスにどやされちまう」
アズーロは、部下達と笑いあう。
麗人も笑っていた。

「さて、もう用件は解ったろ?ブツの在り処さえ吐いてくれりゃ、首は繋がったままおうちに帰してやるよ。おチビさん?」

「僕が戻らなければクラウスの手から政府に証拠が渡るようになっている。…残念だったな」
アズーロの言葉に、シエルは挑発的に答えた。
その態度に、男は機嫌を損ねる。
「大人を舐めんなよ、お坊ちゃまが!」
アズーロは銃を構えた。
「すでにお前の屋敷に部下を待たせてある…。ブツはどこだ?早いとこ吐かねえと、一人ずつ使用人ブチ殺すぞ」

「!」
その言葉にシエルは、俯く。そしてすぐに、とびきりの微笑でこう返した。
「可愛い飼い犬が、ちゃんと<とってこい>が出来ればいいがな」

「…………フ」
アズーロは呆れたように笑った。
そしてすぐに、少年の顔に足を入れた。
「聞こえたか?交渉決裂だ…殺せ!」
咥えていた葉巻を吐き捨て、その場で踏み消した。

「…アズーロ殿、交渉決裂で御座います」
静かに響く声。振り返ると、そこにはボスに言いつけられて雇った、殺し屋が居た。
銀髪に赤メッシュの麗人が、ゆっくりと歩み寄ってくる。
相変わらず物腰は丁寧である。
しかし、口調だけはどこか一変して、威圧感があった。

「交渉決裂だぁ?俺は別にあんたと交渉してたわけじゃあない」
アズーロは笑う。
「俺は…俺達フェッロファミリーは、あんたを雇ってるんだ。あんたが俺に文句をつける筋合いは無い。そうだろ?」
「当初、わたくしめはそこでボロ雑巾のようになっている伯爵殿を無傷の状態で引き取るのを条件として、貴殿らに雇われたので御座います」
「…グリージォさんよ、確かにそう言ってボスと契約したのかもしれねえ。だが、それはもう聞けねえな…こいつを生かしておいちゃあ俺達が困る」

アズーロは、おどけながら言う。周りの部下も笑っている。
それに比べ銀髪の麗人は、微笑を称えていたが、その目は冷たかった。

「伯爵殿の身の確保は私事では御座いますが、それが確立されないとなると…わたくしめが申し付けられたお仕事を済ませることは出来ませんねえ」
「なあ、殺し屋さんよ。じゃ、あんたの言うとおり<交渉決裂>だよ」

アズーロは吐き捨てるように言った。

「…今、何と仰いましたか?」
「交渉決裂だ。あんたは今から俺達の邪魔者だ。そこで、おチビさんと仲良くしてろ」
アズーロが、再び銃を構え、今度は銀髪の麗人に狙いを定めた。
「…………承知致しました。では、大人しく<人質>になりましょう」

急に気を抜いた感じで、そのままスタスタとアズーロを追い越した。
倒れているシエルの側へ、正座をする。
呆気に取られるアズーロ。
「は?あんた、一体何のつもりだ?」

周りの部下も呆れて笑い出す。
「たった今から、私めは伯爵殿と同じ<人質>になるのでございます」
「は、ハハハハハハハハ!!あ、あんた頭イッてんのかよ!?」

フェッロファミリーたちは、銀髪の麗人を嘲笑った。
「わざわざボスが連れて行くように言ったから、どんなスゲエ奴かと思えば…ただの腰抜け気違い野郎じゃねえか!<人質>だと?あんたら揃って、これから殺されるってんだよ!」

倒れたまま、シエルは麗人に視線を移した。
ゆっくりと麗人の顔を見る。

「伯爵殿、同じ人質同士…仲良く致しましょう」
麗人は、そんなことを囁いてシエルの肩に手を置いた。
シエルは訝しげにそれを睨みつける。
垂れ目の銀色の瞳。
顔にアンバランスなサイズの丸眼鏡。
殺し屋と呼ばれているが、全く信じられない。
シエルは、ただ麗人を警戒した。

その時、アズーロの電話に、部下からの連絡が入った。
「おう、なんだよ。使用人は仕留められたのか?」
『すまない!失敗した』
「失敗だぁ!?この役立たず共がッ」

アズーロは側の机を蹴った。派手な音が響く。

「これだからカスはよお!テメーらはもういい、一旦戻れ!」
『待ってくれ!邪魔が入ったんだ………!!!!!』

『なんだありゃァ!!?』
急に電話口から、大きな声が聞こえた。
思わずアズーロは受話器から耳を離す。
「なんだぁ?熊でも出たか?」
アズーロのきり返しに、部下達も笑う。
しかし、すぐに部屋の雰囲気が変わった。

『うわああああ!』
男の叫び声。
何かに怯える声、そしてタイヤの軋む音。
スピードを出しながらも、ハンドルを切って何かから逃げているような、必死の悲鳴。
「何だお前ら…キマりすぎか!?」
流石にアズーロも異常に気づき、電話の向こうに問いかける。
しかし、相手側はそれどころではないらしい。
アズーロの問いかけには答えない。
代わりに、悲鳴しか聞こえてこない。

『ダメだ!来る!!』

「おい、何がだ?冗談は…」
切り裂くような叫び声。
「…い、いい加減にしろよテメーら!!」
アズーロは怒鳴った。
『ダメだ!!!来た…ッ』

激しいブレーキ音。そして悲鳴。喉から振り絞るような。

「…………オイ?」
長く尾を引いた叫び声は、消えた。静まり返る、こちらとあちら。
「オイ!!どうした!?」

アズーロの声に反応する者は、いない。
じわじわと、自分の顔から血の気が引いていくのが分かった。

ふいに、笑い声が聴こえた。

くすくす、くすくす…。
それは、先ほど自分が蹴り飛ばした少年の声だった。

「どうやら…<とってこい>は失敗したようだな」
笑っている。

アズーロは寒気を覚えた。
そしてそれを紛らすために、怒りに変える。支配しているのは自分であると奮う。
「黙れッ!!糞餓鬼がァアアアア!」

むちゃくちゃに蹴り続ける。
麗人は、おっと…と小さく声を漏らし、それをただ見守った。
肩で息をするアズーロ。
「おい!テメーらいい加減にしねえとぶっ殺すぞ駄犬共が!!オイ」

『もしもし?』

アズーロは、文字通り凍りついた。そちらには誰も居ないはずだ。部下は、死んだ。
『もしもし?私、ファントムハイヴの者ですが』
低い、落ち着いた男の声が耳の奥で響く。
『そちらに当家の主人がお邪魔しておりませんか?』

なんとも間抜けな問いだろうか。
しかしアズーロは呆然として、咥えていた新しい葉巻を落としてしまった。
『もしもし?どうなさいました?』
今自分が話している相手は、恐らく、人間じゃない。

「わんっ」

少年が、吠えた。
『…かしこまりました。すぐにお迎えにあがります。少々お待ちください』
電話は、切れた。
“わん”と吠えた少年はというと、相変わらずの仏頂面で、血反吐を吐いた。
「如何致します、アズーロ殿?」
麗人は、冷笑を浮かべながらアズーロに言った。
「どうやら…形勢逆転のようで御座いますが?」
「ッ!!黙れ!まさかテメエ!…最初からソッチの仲間か!?」

アズーロはつかつかと歩み寄って、麗人の胸倉を掴んだ。
「何を仰っているのです。わたくしめはフェッロファミリーに雇われている殺し屋で御座います。一度契約を交わした相手…従うべき御方を欺くような真似は…」

麗人の言葉はそこで切れた。
男が、顔面を殴ったのだ。
バキィ、と鈍い音がして、麗人はその場によろめいた。
「信用ならねえ…!」

「まぁそれはそうで御座いましょうなぁ…それで?アズーロ殿、わたくしは仕事をするべきで御座いましょうか?<人質>としては伯爵殿しか価値が有りませんからねえ」
麗人は、不適な笑みを浮かべ言う。
上に吊り上がった口の端からは、血が流れていた。
「わたくしなんぞの相手をするよりも、己の身の安全を確保されたら如何でしょう?もうすぐ、伯爵殿のお迎えがいらっしゃるのでは?…噂に聞けば、ファントムハイヴの番犬は大変お強い方であるとか…」
その言葉を聞いて、アズーロは顔面蒼白する。
「ファ、ファントムハイヴの番犬が乗り込んで来んぞ!!」

アズーロは直ちに部下へ命令を出す。

「門を堅めろ、ネズミ一匹通すんじゃねえッ!」
部下は次々に銃を取り、それぞれの場所に向かう。
「非常配備だグズグズすんな!!とめろ!!絶対にだ!!そいつを一歩も屋敷に入れるな!!」

屋敷の前は、アズーロの部下達が配備についた。

しかし、のん気な声が降りてくる。
「いや〜、立派なお屋敷ですねえ」
門番たちが振り返ると、そこには、漆黒の燕尾服に身を包む男がいた。
「なっ…!?」
「何だテメーは!!?どっから入った!!」
銃を構える。
「ふむ…何やらお忙しそうですね。誰かいらっしゃるん」
「バトラーが何の用だ!ドコの輩だ!?」
「私?」
一同が銃を構え、バトラーに狙いを定めるなか…
「ああ、申し遅れました。私…」
セバスチャンは答えた。
「ファントムハイヴの者ですが」



「どうやら、いらしたようですね」
麗人は、相変わらず笑っている。
「あ、あんたな…俺達に雇われてる身なら、ちょっとは助けようとは思わないのか?」
「おや、助けて欲しいので御座いますか?」

アズーロは、苛々と葉巻を咥える。

「そうだよ!どう見たって緊急事態じゃねえか!俺達が殺られれば、あんたにゃ報酬は入ってこないんだぜ!?」
「……はぁ左様で御座いますね」
「何、気ィ抜いてんだよ他人事みたいに!テメエの命もアブねえんだぞ!!」
麗人は立ち上がる。

「そうは言われましても…。わたくしめの仕事は貴殿らを手伝うこと。しかし今しがたわたくしめは人質となり、自由を奪われたので御座います。伯爵殿を無傷でわたくしに差し出すという条件が叶わなくなった今、貴殿らファミリーとは再び新しく何かしら条件を付け加えて再契約をしなくてはなりますまい?」
「じゃあ、やっぱり…あんたは只の腰抜けだった…ってワケだな」

にっこりと、アズーロに笑いかける麗人。

「何とでも申してくださいませ。オチが見えている茶番劇なぞ、最後まで見ていても面白くはありません。悪役が足掻くことをしないのならば、さっさと幕を引いていただきたいものです」

叫び声と、破壊音。発砲音。
扉の向こうから、それが聞こえてくる。
「あんた…さっきからワケわかんねえよ」

アズーロは、震える手を励ましながら、銃を構えた。
「俺の力にならないのか。あんたは」
「ええ、そういうことで御座います。そうですねぇ…もし今すぐにでも自首してくださるのなら、未だ面倒にはなりませんから。しかしそうは致しませんでしょう?ならばわたくしめは、ただの邪魔者。人質の価値も無い」

シエルは、側に立っている麗人を見上げる。
何か、おかしい。この者は、ちんぷんかんぷんなことを言っている。

「ああ、邪魔だ。そして役立たずだ…。だから」
「フフフ…だから?」
麗人は、含み笑いをする。口元を隠して笑みを見せないようにしているが、その語尾が明るい。
―誘導している?
シエルには、そういう風にしか見えない。
しかし、それは何故だ?
なぜ、わざわざそういうことを…?

「だから、あんた……死んでいいよ」

ズガァン!!
アズーロが放った銃弾は、麗人の額をぶち抜いた。
それは、シエルにもはっきりと見えた。
絶命した銀髪の麗人は、ぐしゃりと床に倒れ込む。
やがて、床に赤いシミを作りだした。

「……ったく、この気違いが…!どいつもこいつもイッてやがる!」

アズーロは興奮している。
一体どうなっているというのだ。

息が自然と上がる。
これから、何が起きるというのだ。
ぜえぜえと、自分の息がうるさい。と、そこで、辺りが急に静かになっていることに気がつく。
ふと耳を澄ませば、辺りから散々聴こえていた悲鳴や発砲音が、止んでいた。

終わったのか…?

少し安堵した。
しかし、アズーロの耳に、しっかりとした靴音が届いた。
一歩一歩、ゆっくりと、それはこちらに歩いてくる。

軋みながら開く扉。まるでホラー映画のワンシーンだ。

「お邪魔しております」
「…………!?」
「主人を迎えに参りました」

(バトラー!?)
アズーロは驚愕した。
己の目の前で、場違いな礼をする男を見る。
漆黒の燕尾服。どこからどう見ても、執事である。

「は…は、驚いたな。あれだけの人数を一人でヤッちまうなんて…」
アズーロは、引きつった笑みを浮かべる。
「参ったね、どんな大男が来るかと思えば燕尾服の優男とは…。あんた何者だ?ファントムハイヴに雇われた殺し屋か?」
殺し屋。
アズーロは、背後の死体を気にした。
「SWAT上がりの戦争屋か?…ただの執事じゃねえだろう」

「いえ、私はあくまで執事ですよ。…ただのね」

セバスチャンは答える。

「は、そうかい…とにかく俺ァあんたとヤりあうつもりはねぇよ執事さん。降参だ……だがな」
アズーロは、それを自分の方に引き寄せた。
「手に入れたブツは置いてってもらうぜ」
人質の、シエルの頭に、銃を突きつける。
「可愛い坊ちゃんの頭の風通しを良くしたかねぇだろ?…執事ならどうするべきか、わかってるよな」

「……貴方がたの欲しがっている物は……」

セバスチャンは、静かに懐から小箱を取り出した。が、執事の頭は、銃弾が貫通した。


「セ」

シエルが、執事の名前を呼ぼうとした。
しかしその後もセバスチャンの体には、銃弾が叩き込まれている。
けたたましい発砲音が続く。
やがて、それが止むとセバスチャンは、執事は倒れた。

「や…ったのか…?」

アズーロは、冷や汗を流しながら、確かな勝利を確信した。
セバスチャンの、セバスチャンだった死体の手元には、例のブツが落ちている。
「…はははっ、悪いな優男。このゲーム、俺の勝ちだ!…せっかくのお迎えが来たのに残念だったな、オチビさん」
シエルの髪を掴んで、顔を上げさせる。
潜んでいた部下達も、やがてわらわらと現われた。
「相手は<女王の番犬>だ。俺だって切り札ぐらい持ってたさ…!あとはお前を殺せばパーフェクトだ。前々から邪魔だったんだよ!警察みたいに俺達を監視しやがって!ええ?」

アズーロはシエルの顎に銃口を突き付けた。

「お前を消して…俺たちの方法で天下を取ってやる、この英国でな!」

痣だらけのシエルの顔。暴行の跡が、ありありと残っている。
しかし当の本人は、未だ絶望の光を目に宿さない。
しっかりと<溝鼠>を、アズーロを見据えている。

「だが…あんたはバラすには勿体無い顔をしてるな、おチビさん」
アズーロは、銃口でシエルの眼帯を外す。
「ちょっとばかり傷物にしちまったが…アンタなら内臓でなくても値段がつくだろう。…なぁに、怖がらなくていい。どうせ変態に引き取られる頃には何もわからないようにしっかりと漬けてやるさ。上手く」


「おい」



シエルが、低く言った。

「いつまで遊んでいる?床がそんなに寝心地がいいとは思えんな」


「…!?」
このガキは、誰に話しかけている?

「いつまで狸寝入りを決め込むつもりだ?」

その声に、死体が反応した。

「そ…そんなバカな!!」
ヤツが、まだ生きている!?有り得ない、あんな銃弾の雨を食らっておきながら、生きているわけがない!
アズーロは、奥歯がかち合うのを必死に堪えた。

「……やれやれ」

死体は、ゆっくりと起き上がった。
「最近の銃の性能は上がったものですね。百年前とは大違いだ」

セバスチャンは、掌に銃弾を吐いた。
「お返ししますよ」

「何してる殺せぇェッ!!!!」

その声と同時にセバスチャンは、銃弾を放った。掌から、直接。
「嗚呼、何という事だ。服が穴だらけになってしまいましたね」
セバスチャンは、困ったように言った。
「遊んでいるからだ。馬鹿め」
シエルは眉をしかめた。
「私は坊ちゃんの言いつけを忠実に守っていただけですよ。それらしくしていろ…とね。それに…なかなかイイ格好をされているじゃありませんか。芋虫の様で、とても素敵ですよ?小さく弱い貴方によくお似合いだ」

段々と、近づいてくる化物。
アズーロは、悲鳴を上げるしかない。
しかしそれは、二人には届いていないようだ。それに構わず、会話を続けている。

「しばらくその姿を悪くないと思ったんですが」
「…誰に向かって口を聞いている」

「止まれ!!と、止まれって言ってんだろ!!」
アズーロは、シエルの頭に銃口を突きつける。
「止まれぇえええ!」
アズーロは叫ぶ。
そこでやっと、セバスチャンが立ち止まった。
「と、ととと止まれって言ってんだよ!それ以上近寄ったらブチ殺すぞ!!」

「…さあ。どうしましょう」
セバスチャンは、わざとらしく言う。その顔は余裕そうだ。
「早くしろ、腕が痛い」
シエルは飽き飽きしたように言う。
「う、うるせえ黙れ!!」

「ですが坊ちゃん、私が近づけば殺されますよ?」
セバスチャンは、馬鹿にしたように笑う。
「貴様…契約に逆らうつもりか」
「とんでもない」

アズーロは、完全に流されている。

「あの日から私は坊ちゃんの忠実な下僕。坊ちゃんが願うのならどんなことでも致しましょう…捧げられた犠牲と、享楽を引き換えに」

悪魔の瞳には、あの日のことが映し出されている。

「さぁ…」

アズーロは喚く。
「何ワケわかんねえこと言ってやがる、変人共がぁ!」

「おねだりの仕方は、教えたでしょう?」
妖艶に、悪魔は囁く。
シエルの、右目の紋章が浮かび上がった。

「命令だ、僕を助けろ!」

「黙れェエエエエエエエ!!」

拳銃は、確かにそれを放った。銃口から、煙が出ている。アズーロもその反動を感じた。
しかし、腕の中の子供は、生きている。
「な、なんで…死んでね…」
シエルは、耳元で発砲されたため、耳鳴りが酷く顔をしかめている。

「お探し物ですか?」
執事の声が、耳元で聴こえた。
「弾丸、お返し致します」
セバスチャンはそういうと、アズーロの胸ポケットに弾丸を落とした。
背後から、腰を折って男の顔を覗き込んでいる。

「こちらは主人を返して頂きましょう。まず、その汚い腕をどけて頂けますか?」

震えるアズーロは、もう何もすることができない。

セバスチャンは、指をすっと動かした。
「ぎゃ、ぎゃあああああああああ!」
すると、アズーロの腕は、勝手に伸びた。めりめりと不気味な音を立て、骨が砕かれる。

「今回のゲームも、さして面白くなかったな」
シエルは、縛られたままセバスチャンに抱えられた。
セバスチャンは、主を椅子へ降ろす。

「ま、待てよォあんた!ただの執事だろ!?」
アズーロは、ぼろぼろになった腕を抱えながら言う。
「俺はッこんなところで終われねえんだよ!用心棒として給金は今の5倍…いや10倍出す!!酒も女も好きなだけ…だ、だから俺につけ!!」

「残念ですがヴェネル様」

セバスチャンは、怪力でシエルの拘束具を千切った。

「私は人間が作り出した硬貨などには興味がないのです…私は、悪魔で、執事ですから」
セバスチャンは怪しく微笑んだ。

そこで、アズーロの何かが消失した。
怯えることも出来ない。未だ脳が事態を把握しきれていない。

「坊ちゃんが契約書を持つ限り、私は彼の忠実なイヌ…<犠牲><願い>…そして<契約>によって私は主人に縛られる」
セバスチャンは手袋を外した。
その手には、シエルの右目にある紋章と同じものが描かれている。
―その魂を引き取るまで。

悪魔から、闇があふれ出す。

シエルは、椅子に座ってそれを眺めている。
「残念だが、ゲームオーバーだ」
勝者によって、幕引きが行われた。




沈黙の後、拍手がそれを破った。
「素敵な茶番劇で御座いました」
セバスチャンは振り返る。
「……お前は…!」
シエルは声を上げた。

先ほど隣で死んでいた、麗人。

セバスチャンは身構える。

「そう警戒しないでくださいませ。わたくしめは、怪しいものでは御座いません」
にっこりと笑う。
「…坊ちゃん、このお方は?」
セバスチャンは警戒しながら、シエルに耳打ちした。
「さっきまで、僕と一緒に人質になっていた男だ。アズーロに殺し屋として雇われていたが、銃で頭を撃ち抜かれて」

死んだ。
シエルは、違和感の正体を知った。この者は、生きていても死んでいても、感じられるものが同一だったのだ。
麗人を睨みつける。
「貴様、こうなると知ってわざと殺されたな?何が目的だ、見る限り…只の人間ではないだろう」

「わたくしめの正体は未だお話出来ないので御座います」
麗人は、二人に近づいた。
「勿論、悪魔では御座いませんが…しかし人間と呼ぶには全く違うもの」

「そんな御方が、一体どういった目論見で?」
セバスチャンが尋ねる。
「時間もあまり御座いませんので、手短に言いましょう。伯爵殿、貴方の<保護>が、わたくしの目的で御座います」

「保護、だと…?」
「ええ、簡単に言えば貴方をお守りするというのがわたくしめの任務で御座いまして…話せばややこしくなるので、ここでは申しませんが」

銀髪の麗人は、ふと、真剣な表情に戻った。
「ところで、如何でしょう。わたくしと商談を致しませんか?」
「…商談、取引か?」
シエルは言う。相手の手が読めない。
「そうで御座います。今わたくしが出来ることが、三つ御座います。…一つはこの現場の証拠隠滅。一つはフェッロファミリーの抹消。もう一つは」

「貴方たちお二方の、秘密を黙っておくこと」
三本の指を立てて、にっこりと微笑む。
「執事の…セバスさんと言いましたか?貴方が使用した銀食器…あれをそのまま死体に放置していると、やがてファントムハイヴのお屋敷の物だと解ってしまいますよ?」

「おや、そこまで優秀な警察がいらっしゃいましたか」
セバスチャンは笑いかける。
「ああ、それに関しましては。わたくしが警察の皆様にお教え致すという方法が御座います。オーダーメイドの銀食器ならば尚更…、購入ルートさえ分かれば、ね」

自分の血で汚れていたはずのグレースーツは、いつの間にか元の通り綺麗になっている。
「それに…悪魔が執事をしている、そんなことが知れ渡ったら伯爵殿はお困りになるでしょう?」

麗人は、妖艶に微笑んだ。企みを含む笑み。
「…それで、僕は何を?その全ての条件を飲むとして、僕は貴様に何をすればいい」
シエルはそれを睨みつける。
これはただの脅迫である。

「信頼していただけるのならば、わたくしには何も要りません」

恭しく、腰を折る銀髪の麗人。
「とにかく今は屋敷にお帰りくださいませ。お忙しいでしょうから」

「…………」
二人は沈黙する。


「安心してください。数日後にまた、貴方の元にこちらから訪問させていただきます…では、またお会いしましょう」

麗人は窓を開け放ち、窓枠に足をかけた。
「あぁ、無礼なことばかりで申し訳ありません。これも仕事で御座いますので…お詫びは後日お会いした時にでも」
そう言って、颯爽と飛び降りた。

「あっ!待て…!」

シエルは立ち上がる。
「坊ちゃん、ご安心ください。あの方は我々の秘密を暴露する気なんてありませんよ」
そんなシエルの肩に手を置き、微笑むセバスチャン。
「…何を根拠に」
「あの方が何者かは見抜けなくても、嘘は見抜けました」
「…それでも有能な執事か。何者か分からないのなら何も安心できないじゃないか」
シエルは、ふん、と鼻をならした。
「手厳しいですね坊ちゃん。しかし…あの方が私達に協力的なのは、確かですよ…ご自分のお体を見てください」

「…?」

シエルは言われて、己の体を触ってみる。
「……おかしいな、肋骨ぐらい折れているかと思っていたが」
「あの方が、治してくれたのでしょうね。そんな形跡がみられます」
セバスチャンが微笑んだ。

「あの時か…」
シエルは、あの麗人が急に自分の方に寝返り、己の体にそっと触れたのを思い出した。

「…重ねて、奴は一体何なんだ?」

こうして、ラクシャーサ・ネリテイは伯爵との接触を果たした。



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