侍さわぎ


真田 幸宗(サナダユキムネ)27歳
171/61
長州藩預りの元藩士
解決屋(何でも屋)
「戦乱の赤鬼」の異名を持つ
サバイバル戦術や様々な武術を得意とする
元気いっぱいモテ体質
処女未貫通

土方 歳郎(ヒジカタトシロウ)24歳
180/72
信選組参謀及び副長「鬼の副長」
クールに見えるが実はセンチメンタル
ヘビースモーカー
黙ってても女が寄ってくる
経験豊富なテクニシャン

沖田 翔吾(オキタショウゴ)19歳
168/59
信選組一番隊隊長
無邪気な好青年
決してドSでは無い
ジャニーズ顔なのでモテモテ
脱童貞済み

長倉 新八(ナガクラシンパチ)21歳
170/64
信選組二番隊隊長
ツッコミ担当
爽やか童貞
婚約者がいるのでセーフ

斎藤 初(サイトウハジメ)25歳
179/71
信選組三番隊隊長
女にトラウマがある
フレンチホモ
土方の幼馴染み
脱童貞はトラウマ女で男の経験ナシ

近藤 勇美(コンドウイサミ)25歳
185/78
信選組局長
侍になるために上京した
明るく活気なイイ男
美人が苦手(B専)
非童貞

山崎 ススミ(ヤマザキススミ)31歳
162/??
信選組監察方
大人しく無口だが性格はいい
真田の監視をしている
詳しい事は不明

松平 固真理(マツダイラカタマリ)45歳
165/56
国家保安庁信選組総司令官
気怠けダウナークールガイ
真田とは攘夷戦争の時の旧知
16歳で脱童貞
万年発情期

桂 小吾朗(カツラコゴロウ)27歳
176/59
元長州藩士の攘夷思想家
指名手配とまではいかないが危険視されている
真田のことになると過保護になる
非童貞
こう見えて結構遊んでいる

高杉 親作(タカスギシンサク)28歳
175/65
元長州藩士の過激攘夷志士
指名手配犯
真田を執拗に追い回す
変態(マニアック)
非童貞で遊廓常連




信選組副長・土方歳郎(ヒジカタトシロウ)は、夜の見回り中だった。
商店街はすっかり静けさに包まれていて、土方は少しだけ、その雰囲気に圧されていた。
一人きりの夜歩きが不安な訳ではない。
なんだか背中の奥から、じわじわと這い上がってくる≪予感≫めいたもの。
日常が、非日常に変わる予感。

その不明瞭な感覚に気だるさを覚え、土方は、茶屋の外に出しっぱなしになっている長椅子に腰を下ろした。

すると一迅の風が吹き、と同時に、何者かが屋根の上から飛び降りた。
その高さを物ともせず、砂利を踏みしめて綺麗に着地した。

月の光に照らされた、藍色の髪。
黒く、ぬらぬらと反射を見せる刀。

土方が何か声を上げる前に、土方が立ち上がりその人影を確認する前に、それは駆け出してしまった。
あっという間の出来事で、土方は追おうとも思えず、なんとなく見逃してしまった。

その人物が、今まで追っていた者であるにも関わらず。





「あら、そんなに板切れとにらめっこしても永遠に決着はつきませんよ。土方さん」

信選組一番隊隊長・沖田翔吾(オキタショウゴ)は、仏頂面の土方に笑い掛けた。
「にらめっこしてるわけじゃねえよ」
「へえ、じゃあ土方さんは文字が読めないんで?」
沖田は変わらぬ調子でからかう。
「読めらァ。人斬り捜索の立て札だろうが!」
素直に土方は怒って声を張り上げる。
「もお、毎日毎日飽きずに熟読していらっしゃる。一体何が気に食わないんですか?」
「人斬りが、気に食わねえだけだよ」
「気に食わないも何もないでしょうに…あっ!ちょっと!」
さっさと立ち去る土方に沖田が呼び止める。

「昼飯!」
土方はそれだけ返した。


人斬り出没。
立て札には赤い字で大きく書いてあった。

最近この歌舞伎町付近でも、≪攘夷≫が行われるようになってしまったのだ。

攘夷。

正しくは尊皇攘夷。天皇を尊ぶ、そして外敵を排除する。

国は、否―地球は、地球外生命体を認識しそれと共存する道を選んだ。
宇宙の技術は、地球に過大な影響を及ぼしそして発展へと導いた。
しかし良い点ばかりではない。悪い点もある。
それを吟味せずに、宇宙のものを全て自分達のものにしようと諸外国は貪欲になり、諸惑星との衝突もあった。

宇宙戦争。
地球軍、アメリカとロシア、そして中国北朝鮮。
そして宇宙軍との宇宙での大戦争が勃発した。
期間は2年、勝敗は宇宙軍説得の地球軍降服。のちにこれをファーストウォーと呼んだ。

この戦争があって、諸外国は宇宙との関係を改め、宇宙と共同政治で法律を作った。こうして宇宙との関係は良好になった。
しかし地球で犯罪が減らないのと同様、宇宙でも犯罪は減らず。
しかも地球という新しい地にて、悪どい商売を始めようとする宇宙組織もあった。

そんななか、日本国は鎖国を続けていた。
諸外国の介入を許したばかりの日本国は、宇宙の技術に、宇宙の政治に慎重だった。
宇宙技術を一刻も早く取り入れたかった諸外国は、日本国を糾弾し、同盟を切った。
そして宇宙軍に攻撃をさせた。

宇宙での戦争、ファーストウォー終結の数ヵ月前、日本国を開国させる攻撃が始まった。
宇宙軍による、アームストロング砲攻撃で、江戸城が崩れ落ちた。

この砲撃によって終わった戦争が、攘夷戦争である。
薩摩潘と長州潘の藩士(侍)たちがメインの兵士、兵力。
九州から諸外国と宇宙軍の侵略が始まり、それを抑えたが砲撃には敵わなかった。

攘夷戦争は、約五年続いて、そして終わった。

日本にも、宇宙の技術や政治が入ってきて、徳川家は政治の権利を失い、お飾りの将軍となってしまった。
京都には天皇がいるが、こちらも宇宙や諸外国と関わりはあるものの、もはや日本国は、日本だけのものではなくなってしまったのだった。
潘制度も終わった。藩主も、藩士も無くなった。

落ちた将軍、天皇に対して裏切られた藩士…侍たち。
数々はそのまま刀を捨て、新しい時代の住民になることを選んだ。

しかし、数々は自分達を使い捨てにした元・主君を恨んだ。

そのような侍を≪攘夷志士≫と呼ぶ。
そしてそれを取り締まるのが、江戸と京都に配置する信選組である。


「赤髪の人斬りか」

土方は咥え煙草のまま、口の中で呟く。

歌舞伎町は、とある噂で持ちきりだった。
人斬りの目撃情報が『赤髪』という情報だけなのだが、日本人―攘夷戦争を知っている者たちにしてみればそのキーワードは十分すぎるヒントだった。

攘夷戦争で、大層目立った侍がいる。
長州潘預かり(本来は長州出身ではないのだが訳ありでそこの潘に所属する者のこと)の侍。

赤い髪を靡かせ、そしてその双眼は鮮紅に光る。

黒の刀は一度も刀身を見せず、ただただ打ち込まれる棒のよう。

やがて人はそれを、戦乱の赤鬼と呼んだ。

赤髪で人斬り、そう聞けば戦争を知っている者はその≪戦乱の赤鬼≫を連想するのだ。

しかし土方は気に入らなかった。
人斬り?赤鬼が?

(赤鬼は、人は斬らねえ)

凶悪な顔を一層凶悪にして、土方は昼食を摂るためにとある食堂に入った。
すっかり顔馴染みの店である。

「おや土方さん、今日は独りですかい?」
店の主人が、昼時の忙しい時間だというのに声を掛けてくれる。
「沖田と一緒だったがね。飯くらいは静かに食いてえからさ」
「ハッハッハ!ここはそれでも騒がしいがね」

主人の隣で中華鍋を振るその妻が、元気な声で笑った。
「いつものだね土方さん!」
「応、頼む」

土方はそれだけ言うとセルフサービスになっている冷や水を取ってカウンターの席に座った。

「こんちは〜っと」

食堂はなかなかに人気で、飯時はそこまで混まないがある程度席は埋まってしまう。
新しく入ってきた旅人姿の男は、きょろきょろと辺りを見回し、申し訳なさそうに土方に話し掛けてきた。

「あのー、申し訳ないねお兄さん。席、隣でいいかなぁ」
笠を被ったまま、旅人は肩に掛けていた荷物を土方の隣の席に置いた。
「ああ、構いやしねえよ」

土方は少しだけビックリして、その旅人を見た。
信選組というのは、攘夷志士を取り締まる警察機関の一種だが、その活動内容や隊士らの粗暴さから、一般市民には嫌われていた。

堂々と文句を言ってくるわけではないが、混み合った店の中で、隣の席には座らないくらいの、避けられようだった。

(こいつ、田舎から上がってきたお上りさんか…)

あまりジロジロみるのは忍びないので、横目で観察する。
群青色のロングコート、その下は少し今風に改造してある着物で、土方らと似たような洋風の黒いスラックスを履いて、靴は金属のプレートがまるで防具のように施されたブーツだった。
年期の入ったものらしく、所々プレートには凹みや傷が付いていた。
それを見て土方は、隣の旅人が只者では無いことに気が付いた。

「あんた、江戸には奉公に来たのかね」
土方は水を飲む。
旅人はコートを脱ぐと、その腰のものを見せた。
「まあ今の時代少し珍しいかもしれないがね、奉公というよりは自分で仕事始めるために出てきたのさ。お兄さんも出で立ちから見て…軍関係?いやはや、お勤めお疲れさまですねえ」

土方は旅人の腰のベルトに差してある、それに気を取られて、自分に話題が振られているにも関わらず無視した。

そこには刀が差されているだろうに、旅人のそれは、トンファーだった。
長さは日本刀と変わらないが、少し太く、そして黒くコーティングされたれっきとした武具。

「ああ、これ?帯刀免許証は持ってるんだけどね。性分に合わなくて代わりに」
旅人は、笠を取って席に座った。

「世の中物騒ですから、自分の身を守るためにね」

ブランド物のサングラス。
赤い髪。
肩くらいの長さに無造作に揃えられた赤い髪が、少しだけ汗に濡れて光っていた。

騒がしかった店内が、一気に静かになる。
皆、旅人の方に注目する。

「うーんと、なにしようかな〜」
しかし旅人はそんな視線丸っきり無視して(気が付いていない)、メニューを眺めながら鼻唄を歌っている。

隣の土方も動かない。

「あ、そうだ。お兄さん何かオススメあります?」
赤髪の旅人が笑い掛けると、土方はやっと動いた。
「とりあえず事情聴取」
「じゃあそれで〜…って、ジジョウチョウシュ?は?何それ?江戸にゃそんな警察用語みたいな物が…」
「よし、じゃ連行な」

ガチャリ。

重々しい手錠が旅人の両手を拘束する。

「ん?ん?え?ちょっとあの、すいません?これは一体?」
「13時24分、不審者を現行犯逮捕。○○地区まで応援頼む」

土方は襟元の小型無線に話しかける。
返事がすぐに帰ってきたので、土方はさっさと旅人を連行しようと立ち上がる。

いつの間にか店の中の緊張は解け、土方の動向を見守っている。
「すまねえなオヤジ、俺の注文はキャンセルで頼むわ」
「はいよ、お仕事なら仕方ねぇさね」

「ちょっとあのー、ほんとすいません説明してください」
旅人は苦笑いしながら自分の顔の前で手錠をじゃらじゃらと鳴らす。
「あ?説明も何も、あんた知らねえのかい。赤髪の人斬りはね、俺たちに取り締まられなきゃならんのよ」
「はぁー、なるほど。そういえばそんな立て看板がいくつかあったねえ。…いや待ってよ!そりゃ赤い髪だけど!?違うから!人斬ってないから!誤認逮捕だから!」
「ごちゃごちゃうるせえな、いいから黙って連行されてろ」
「横暴だ!事情も聞かないで即逮捕!?そんなの許されないでしょうよぉお巡りさん!あ、アレだ。役職!階級!名を名乗れ!」

興奮した旅人が、同じく立ち上がり土方の前に対峙する。

「俺ァ攘夷取締及び治安維持、将軍預り信選組江戸屯所、参謀及び副長・土方歳郎だ」

「よっ、信選組!」「副長決まってるねえ」
土方の名乗りに冷やかしのヤジが飛ぶ。
「うるせえお前ら!黙って食ってろ!」
「あー…聞いたことがあるぞ、攘夷志士を取り締まる新しい組織、信選組…」
「おやおや、お上りの田舎侍でも俺たちの噂はご存知ってか。ありがたいねえ。ついでに屯所観光と行こうじゃねえか、な?」
「ぐぬぬぬぬ…ついてねぇなあ!昨日から散々だもう!」

旅人は土方に肩を捕まれ前を歩く。
店から出ると、遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。

「アイテテテ!もうちょっと優しくして!」
「ったくいちいちうるせえ奴だな…黙って歩け!」
「あ!てゆうか将軍預りって言ったよな!?つまり将軍の下の組織ってことだよな!?」
「そうだ、天下の将軍の実直の組織ってわけだ」

旅人は相変わらず抵抗を続ける。
「荷物の中に、将軍直筆の登城手形が入ってる!それで分かるだろ!?私は将軍に会いにここまでやって来たの!」
「はあ?一介の浪人が将軍直々の登城手形を持ってるだと?そんなわけあるめえ、てゆうかあんたさっき自分で江戸には起業しに来たって言ってたじゃねえか」

言い合っているうちに、パトカー2台が店の前に横付けされる。
「土方さんあんたァ、仕事熱心なのもいいですけど昼休憩にまで仕事せんでもいいでしょうに」

沖田が運転席から降りてくる。
「俺たちは年中無休だろうが。それよりもこいつ、例の人斬りの疑いで逮捕な。荷物もよく調べろ、将軍直筆の手形持ってるとか抜かしやがる。もしかしたら攘夷目的の窃盗も付くかもしれ…グッ!?」

土方はパトカーの助手席のドアに触れる前に、急に後ろに引っ張られた。
隊服の首根っこを、両手でしっかりと付かんで引っ張ったので、うまいこと体ごと後ろへ持っていけた。
それに土方の身体能力が優れているので、後ろに倒れることなくいけるだろうと、旅人は踏んだのだ。
旅人は、両手を手錠で拘束されたまま、パトカーから距離を取った。
後退すると同時に、手錠の鎖を土方の首の前に通す。
「おっと、絞殺するつもりはないので大人しくしてチョーダイ」

土方は既に鯉口を切っていたが、その手を離して手錠の鎖をどうにか外そうとした。
しかしその前に旅人が土方の首を鎖で絞めた。
身長差があるが、背後の旅人はそれを難ともせず力技で土方を拘束する。

「ありゃあ、鬼が呆気なく捕まっちまった」
沖田が驚いた顔をして言った。しかしその口調は楽しそうである。

「っく、沖田!テメェぼっとしてないで助けろ!」
「あっダメダメ!動くなー動くなよー」
「んぎぎぎぎぎ…」

旅人は暴れる土方を抑えるため、鎖をより食い込ませる。

「土方さァーん、あんた一体どんな恨みを買ったんです?」
「副長さんに恨みはない!とりあえず私はめちゃくちゃ急いでいるのでここで拘束されるわけにはいかないだよね、だから頼む!見逃して!」
「み、見逃せる、わけ…ねえだろ!」

土方は旅人の両手と手錠を掴んで、思いっきり投げた。
土方の頭を越え、そのまま地面に倒れ…るかと思いきやしっかりと両足で着地し、逆にもう一度土方を掴んで投げた。

「きゃあ」
沖田は飛んでくる土方を避ける。
パトカーのボンネットに思いっきり強く頭から突っ込んだ土方。

その隙に旅人が逃げる。

「あらら、土方さん大丈夫ですかい?」
「…テメェな翔吾、避けてんじゃねえよ。しっかり受け止めろよ」

額から血を流しながら、土方は抜刀した。

「いやですよう、土方さんが俺の運命のお姫様じゃ無いでしょうに。私はそのお人しか抱き止めませんよ」
「そーだね!テメェはそういう奴だよね!いいから追うぞ!」
「応援呼びますねー」
「テメェも来いクソガキ!」

旅人は手錠をしたまま、川辺に逃げ込んだ。
隠れられるような背の高い草もなければ、川は深く向こう岸まで遠い。
そのまま川辺を走って逃げようと駆け出したが、すぐに目の前に刀身がキラリと光って落ちた。
間一髪。

旅人は土方の一振りをかわした。

しかしすぐに背後から沖田の突きが飛んでくる。
それを避けると同時に、旅人は鎖をその刀に絡めて沖田の上体を崩した。
おっとっと、沖田が前のめりになるとその隙に土方が斬りかかる。
素早く旅人は手錠の鎖でそれを受け、そして土方は鎖もろとも斬った。
そして目の前の旅人も斬った。

つもりだった。
ぎぃいいん、と金属音が響く。
旅人は土方の刀目掛けて足を突き出し、刀ごと前蹴りしたのだ。
例の靴。そこに新しい刀傷が刻まれた。
押し戻される土方。
蹴った衝撃を吸収するため、背後に飛び下がる。

「へえ、こりゃあ…」
沖田が舌舐めずりをして、土方と並ぶ。

(只者じゃねえな)

土方は煙草を噛み締めた。

「はぁーやっと両手が使えるわぁ」
旅人は左腰に差してあった例のトンファーを右手に握った。
ひゅんっと風を切ってそれを回すと、左手には何も持たず握り拳のまま、まるでこれから武闘でもするかのように構えた。

「まあ二人くらい、なんとかなるか」
旅人は、その構えのまま腰を少しだけ落とした。

隙がない。
土方と沖田はじりじりと間合いを詰めたが、やがて沖田が構えを解いてにっこりと笑った。
「ま、二人ならなんとかなったでしょうがねえ」
「…ん?」

旅人は首をかしげる。
沖田の態度に、土方も勘づいたらしく構えを解く。
「ったく、手間取らせやがって…」

土方が右手をスッと挙げると、一斉に旅人の体に赤いポインタが、いくつも表示された。
狙撃の準備が、整っている。

そしてぞろぞろと、信選組の隊服を着た者たちが現れて旅人を囲った。

「あっちゃ〜油断したぁ…ハイ、降参です」
旅人は両手を高く挙げて、トンファーを落とした。




「おい、起きろ。…起きろコラ!」

土方はパトカーの中でぐっすりと眠る旅人を揺り起こした。
「ん?ああ…やっと着いた?」
「暢気にぐーすか寝てんじゃねえぞ、これからみっちり取り調べだ!」
「だってさぁ〜昨日から散々でさぁ…言ったっけ?とにかく飯食って寝たいんだよね…」
「ほんとあんた自分が何したか分かって無いようだな…、おい沖田!こいつ俺が担当するから、お前はこいつの身元調査頼むわ」
「はぁい」
「えー?ドカタ君がやるのー?やだやだ〜さっきのジャニーズみたいな可愛い子…沖田?君がいい〜!ドカタ君はやだー」
「ひ・じ・か・た!うるさい!あんたホント無駄口多いな!」

ぎゃあぎゃあと騒ぎながら土方は旅人を連行した。

無機質なコンクリートの部屋。
ただっ広い部屋の中には、パイプ椅子がひとつ。
薄暗い、月の光のみの夜空のような照明レベル。マジックミラーになっているであろう大きめの出窓。

「よし、ここで座って待ってろ」

言いながら土方は旅人の手錠を後ろ手にかけ直し、そして違う鎖で手錠と部屋のフックを繋げた。
部屋の中を動き回ることは出来るが、到底ここから脱出することはできない。

「ちゃんと監視が向こうに居るからな、変な真似はするんじゃねえぞ」

土方は扉を閉めながら言った。

旅人はそれを見送ると、大きなあくびをひとつして、また座ったまま眠り込んだ。

「寝るな!!」

結構早く土方は戻ってきて、入るなり旅人の頭を叩いた。
「んがっ…あ、結構すぐに来たね…」
「どんだけ眠てえんだ、一体昨日から何してやがった」
「あ、もう尋問始まる感じ?」
「始まる感じ」
「えーっと、とりあえず最初から話すと…私の生まれは」
「ちょっと待て遡り過ぎ、昨日―いや、江戸に来たとこから話せ」
「はあ?それで土方君が理解できるならいいけど?大丈夫?」
「心配はご無用だボケ!あんた、何で捕まったか分かってるか!?」

土方が旅人の胸元を掴む。
「えーっと、最初は人斬りの容疑だったか?んでぇ、お巡りさんをボコろうとしちゃったから捕まった」
「ああその通りだ、人斬り及び攘夷の疑いで逮捕、それと公務執行妨害だ。よく分かってるじゃねえか…っと、所持品検査にそれも出さねえとな」

土方は旅人の掛けていたサングラスを失念していた。
「忘れちまってた」
普段ならそのようなミスは起こさないのだが、今回はなんだかんだと手間が掛かってしまいケアレミスがあった。

「あ、それは」

旅人が何か言う前に、土方はサングラスを取った。
「なんだ、隠しカメラでもついてるの…か…」

土方は旅人の顔を見て言葉を失った。
サングラスの暗い色で隠されていたその目の色。

薄暗い部屋の中、月夜のような光の下。
赤色だった髪は藍色に。そして同じく瞳の色も…

土方は扉のそばの照明リモコンを半ば乱暴にいじった。

すぐに蛍光灯が付いて、部屋がぱっと明るくなる。

蛍光灯の光で、旅人の髪は赤に。

そして瞳は赤に。

「…あんた、その目は…」

土方が呆然としていると、旅人は何だか罰が悪そうに笑った。

「いやぁ…あはははは、江戸には色んな人種が居るって聞いたから、そこまで目立たないとは思ってたけど。副長さんのその反応を見るとやっぱりこれは、悪く目立つようだ」

「いや、そういうことじゃ」
「まあいいんだいいんだ!馴れてるし!驚かれるって分かってるからサングラスしてるんだし!さ、気にせず尋問続けてくださいなー。何でも答えるよ」

土方が、口を開けないでいると取調室のドアが開いた。

沖田である。
「土方さん、驚きました。その人ね、本当に将軍のお客さんです。すぐに釈放せよとお上(カミ)からの命令がありましたよ、松平さんがカンカンで」
「…ああ、分かった」

沖田の言葉を聞いて、旅人がしおらしく従っていた態度を一変させた。
「ほらな!?言ったじゃんね!ちゃんと私言ったじゃんね!手形があるーって!仕事しろぉ信選組!」
「…沖田、パトカー出してこいつ城に送らせろ」
「りょーかい」
「ちょっと聞いてる!?無視する!?もうっ私が抵抗したことに怒ってる?私は心が寛大なので、今しがた逮捕されたこととか水に流しましたけど?ねえちょっと聞いてる?」

旅人がぎゃいぎゃいと喚くなか、土方は一層気配を凄めた。
手錠と鎖を外してやる。
「はー、やっと自由の身だ〜。あ、そうだそれ返して」

旅人は土方の手からサングラスをひったくる。
鼻唄を歌いながら取調室を出ていくその背中に、土方は短く言った。

「あんた、名前は」

「んあ?真田ー。真田幸宗〜(サナダユキムネ)」

んじゃあねえ〜、真田は後ろ手で手を振りながら土方と別れた。



平隊士に真田のことを任せ、沖田はすぐに取調室の土方の元に戻った。
パイプ椅子にだらりと座る土方は、煙草を吹かしていた。
「あーここ禁煙なのに」
「いいんだよ。副長特権」

一気に脱力したような土方に、沖田はやれやれと肩をすくめると笑いかけた。
「真田幸宗、攘夷戦争で活躍した長州預りの侍ですよ。例の」
「戦乱の赤鬼だろ」

土方が沖田の声を遮る。
「おお、知ってました?知ってますよねえ、だって土方さんは赤鬼のだ」
「将軍に呼ばれたって言ってたな、あれは確か攘夷戦争で深傷を負って植物人間になってると聞いていたが」

やはり沖田の声を遮って土方は話した。
「沖田、すぐに監察に真田を見張らせるように言え。将軍に召還されたとしても、攘夷の可能性はゼロじゃねえ」
「はいはい、副長のお望みのままにィっと。松平さんあんだけ怒ってるのにまだ首突っ込むんだから、土方さんは」

沖田のジョークに何も返さず、土方はただ空を睨んでいた。





「あーあ、将軍様のお話は校長先生も及ばねえ程の長話だ…ちょー疲れたぁ」

真田は城を後にし、とぼとぼと歩いて帰路についていた。
「なんだよもう、信選組も送ってくれたんなら迎えに来てくれてもいいじゃん?」

あくびをしながらぐだぐだと独りごちている。
既に日は傾き始めていて、真田の影は長く通りに姿を落とす。

寂れた民家、そして店。
城下町の賑わいは無くなっており、真田はそれを眺めて改めて攘夷の驚異を感じた。

城下に住めば、攘夷と疑われるのだ。
真田も今回城に呼び出されたのは、その件であった。

旧知の松平とは、新しい将軍になってから彼の立場もあって会うことが減っていた。
かつて、真田たちは将軍のために戦争をした。
しかし今城におわす将軍は、かつて仕えた将軍の弟。
もはや尽くす義理もない。
時代は変わったのだから。

「戦乱の赤鬼殿とお見受けする」

真田の背後に、ひとりの浪人が姿を表した。

「…あのさぁ、あんたらって私の本名知らないわけ?赤鬼赤鬼って、それ他人が勝手に付けたあだ名だからね?」

「赤鬼であるのなら、本名は何であっても構わない。こちらは恨みを晴らしに貴殿の元に来たしがない浪人だ。そちらも今やしがない浪人であろう」

日が沈み、真田の赤髪が鮮紅を失う。
真田はサングラスを、自分の頭の上に押し上げた。

「恨み?私が同志に何をした?同志ならば私のことを存じているはず。時代は変わったぞ、私も変わった」
「いや、変わったからこそ貴殿はここで斬る」

浪人は、抜刀し上段の構え。
真田もトンファーを回しながら構える。
すぐに斬り合いは始まった。

容赦無い上段からの斬撃。
真田はその力を上手く逃がしながら、トンファーでそれを受ける。

「貴殿も将軍を見て悟っただろう!この世は腐った!腐りきったぞ!我々がどんなに志高く悪を斬っても!人斬りだと罵られるばかりだ!」

「なるほど?じゃあ件の人斬りはあんたってわけだ!」

真田は斬撃を受けながらも、トンファーでそれを押し返し浪人を怯ませた。

「ふん、好きに呼べばいい。人斬りとでも辻斬りとでも!」

浪人の髪が月明かりに照らされた。

茶。濃い茶色。
無造作に後ろで纏められた長髪。

(人斬りの情報ってのは、赤髪じゃあなかったっけか?)
でなくては、真田は人斬りと疑いを掛けられるわけがないのだ。

真田は構え直し、浪人と対峙する。

「赤鬼!攘夷のために、死ね!」
浪人は刀を大きく振り上げる。
真田は深く腰を落とし、踏み込んだ。
大きな跳躍。地を這うような、蛇のような足の歩み。
その早さに浪人は目が追い付かない。

しかしこの刃を振り下ろしてしまえばこちらのものだ。
浪人は自らの懐に飛び込んでくる獲物目掛けて刀を落とした。

しかし真田はそのまま懐には入らず、左に避けた。
衝撃と共に真田の姿は左脇をすり抜けていった。
浪人の刀は地面を叩いた。

「な、に…」

そのまま姿勢を建て直そうと、柄を握り直したとき。
浪人の左脇腹がビキビキと嫌な音を立てた。

(折れた!?折られた!?いつの間に)
真田が自分をすり抜けた時か?まさか、ありえない。
そのような芸当、人間には無理だ。

浪人が真田を否定したとき、背後の真田はその脳天に、自分の武具の柄を振り下ろしていた。

「はーいちょっと待った!!」

しかし突如その動きは阻止された。

強い閃光。スポットライト。
けたたましく鳴り響くパトカーのサイレン。

すぐに浪人は逃げ出す。
「お前らはあっちを追え。俺はこっち」

「えー…なにこれ、デジャヴ…」

浪人を追って何人かが走っていった。
銀髪パーマの男が、真田の両手を掴んで、手錠をガチャリ。

「はい、城下町内での斬り合いの現行犯で逮捕ね」
「もーう!違うのになあ!違うのになあ!!で!?お兄さんは信選組の誰!?」

真田はキレ気味に言う。
「おーおー俺は信選組三番隊隊長、斎藤初(サイトウハジメ)さんだよ。じゃあ行こうか」
「あははははー…人生でこんなにパトカーに乗るとは思ってもみなかったなぁ…」
「よかったねえいっぱいパトカー乗れて〜。ほーらブーブーでお巡りしゃんと行きまちょうねぇ〜」
「わぁいブーブーだ〜うふふ〜…ってバカか!やめろそういうの!」
斎藤に連れられ、真田は再び信選組屯所へと足を踏み入れた。




「で、本当にやっこさんの事は知らねえと?」

本日二度目の取調室。
「知らないもんは知らないさ、私だって急に因縁付けられて斬りかかってこられたら応戦するさぁね!普通のこと!正当防衛だもの!」
「でも仲間割れってことあるかもしれないしね」
「あっちに聞けばいいじゃん私じゃなくて」
「逃げられちゃったからお前に聞いてるんでしょうがァアア!」
「なんでキレてんの!?なんで私のせいみたいに言ってるの!?意味分かんないよー怖いよーお巡りさん怖いよー…あっそうだ!あれ呼んでよ、あれあれ、ほらあの人。そしたら私の誤解も解けるはず」
「何のヒントも無いから誰を呼べばいいか分からないんだけど」
「あのー黒髪で…」
「めっちゃ居る」
「短髪」
「居る居る。もうちょっとこう、特別なやつ欲しいな〜そいつの個性丸出しのヒント」
「うーーーーん煙草を吸う?」
「アッいいよ!今ので六人に絞ったよ!」
「目付きが悪いー!」
「はいあと二人!頑張って!」
「なんかクールに見えて実はすっごくセンチメンタルで感動屋、その人柄の良さから自然と人が集まるみたいな、真面目で誠実だけど実は女たらしそして同時に女泣かせみたいな奴」
「ああ、土方副長ねオッケーオッケー待ってて」

即答かい、という小さな真田のツッコミに対して斎藤は返事はしない。
気だるそうに取調室から出ていくと、しばらく帰ってこなかった。

マジックミラーになっている出窓の向こうで、何か怒鳴り声がずっと聞こえていたが、真田には何が起きているか分からない。

「テメッこら真田ァ!誰がセンチメンタルだボケが!」
「いやいやいや、私は適当に言っただけでね。斎藤って奴が肯定しただけだからね知らないから君がセンチメンタルだとか…ってあっちの部屋で見てたんなら最初から助け船出してよ!」
「誰が何の義理があってあんたを助けにゃならねえ」

土方はぷへぇーと煙草の煙を真田の顔に吹き掛けた。
咳き込むこともなく真田は額に青筋を浮かべる。

「へーふぅんそーなの、そういう態度取っちゃうの?私は真理ちゃんにちゃーんと信選組は何も悪くないから処分は無しでお願いしたのになぁ」
ニヤニヤと悪人面の真田。

「はぁ?真理ちゃんて誰だよ」
「松平固真理、信選組の総司令官!」

土方と真田の間に、静寂が蔓延った。

「…よ、よし。今までのことはお互い水に流そう、な?」
「いいよぉー?そちらさんが分かってくれればそれでいいんだから」
「でもな、人斬りに間違われたと思ったら次はその人斬りに遭遇したって話だが?それじゃあ都合良すぎるだろうが、あんたの疑いは晴れちゃいねえよ」

土方は携帯灰皿に煙草の灰を落とす。

「だからさ、もう全部話すってば。信選組の副長さんは私のこと根っこから疑ってるみたいだし?しつこいストーカーまで増えちゃこちとら何も出来やしねえ。私がすっかり話してしまえば、あんたらも仕事が減るだろうよ」

(こいつ、監察が尾行してたのに気付いていやがったのか…)

「そりゃあ助かるねえ。俺は正直松平公とも繋がりのあるあんたが怪しくて仕方がなかったところだ」
「そもそも真理ちゃん…松平とは戦争時代からの旧知だ。私はご存知の通り長州藩の侍だ、しかしそれでも預りの身であるからそこそこ自由な行動が許されててな。真理ちゃんは戦争を早く終わらせたかった、被害者…私たちの中から死者をこれ以上増やさないやめにな」

松平固真理。
彼は信選組の総司令官として新時代の生き方を決めた。
その前は将軍の元―江戸で、軍を仕切っていた。

「俺も松平公の性格を知ってる、その行動にゃ納得だな」
土方は相槌を打つ。
「終戦間近にはお上もさっさと戦さ終わらす気であれこれ諸外国と話をつけてたんだ、しかし納得の行かない薩長軍もいる。私は薩長軍の特使として真理ちゃんと色々話し合ってたんだ。私も死者をこれ以上出さないという点は同意見だったし」

でも、

「でもやっぱり戦争は終わらなかった。どんなに説得しても私の声も、真理ちゃんの声もどこにも届かない。お上は薩長軍を切り捨てろ放っておけと言う、私は、鬼兵隊は―」

真田の声はそこで詰まった。
土方は続きを待ってやる。

「、まあとにかくごちゃごちゃ揉めて揉めてそしたらでっかいビームがばーんって来て城ががらがらどっしゃーんで、私は宇宙軍の残党にぐしゃーってやられてあぼーんってなって入院したし」
「おいおいさっきまでまともに話してただろうが。急に擬音語だらけになったぞ大丈夫か…。まああんたの話には嘘は無いようだな、こっちで手に入れた情報と示し合わせてもおかしな点は無い」
「なんだよ!知ってたのかよ!」

真田は元気にツッコむ。
「攘夷の疑いを掛けてあんたを捕まえたが、それも無さそうだな。攘夷戦争終結と共にあんたは萩(長州藩領地)の病院に重症患者として運び込まれてる。それから三年間、あんたの目撃情報はぱったり消えてる」
「目撃情報?」
「赤鬼のな」

赤鬼、と聞いて真田は息を飲んだ。
「…今回江戸に召喚されたのは、あんたらと同じ…新しい将軍様が、私が攘夷に走るのではないかと恐れての面談だったわけだよ。かの戦乱の赤鬼が、攘夷志士になれば大打撃だと」
「それに関しては、俺たちからも否定の報告を入れてやった。あんたが生還してから攘夷志士との接触は確認されていないってな」
「生還、ねえ…」

土方は資料を見ながら言う。
「懸念されているのは、攘夷志士・桂小吾朗(カツラコゴロウ)と高杉親作(タカスギシンサク)との接触のみ」
「あー…あいつらね。あいつらは根っからの藩士さんだからねえ…」

真田は、かつての旧友を思い出しているのか少しだけ楽しそうに笑った。
「で、だ。今回の騒ぎは明らかにあんた狙いの事件だと俺は踏んでるわけよ」

土方はその双眼の光を強めた。
厚ぼったい二重まぶたに涼しげな、いや最早冷気を含んだその目にこうも睨まれては女は勿論イチコロだろう。

(似てる、な)
真田はその視線を合わせたまま、別の男を思い浮かべた。

「今後も赤鬼が復活したとなれば、攘夷志士はもちろん桂や高杉が動くだろう。だからあんた、」

土方は煙草の煙を吐いた。

「信選組に入らねえか」




「信選組に入れば、あんたの疑いはまっさらに晴れる。それに俺たちもその方が監視しやすい」

「…それは、私が攘夷志士、桂や高杉の間者かもしれないのにいいのかい?」
「それはない、こっちで調べが付いてる。桂はあんたの見舞いに度々訪れていたみたいだが、攘夷活動をするために京に上がってからはそれっきりだ。桂自身、派手に動いちゃいねえしな。あいつは他の志士と違って≪思想家≫として危険視されているだけで、お上も事実上野放しだ」

「へえ」

真田は感心してみせる。
本当にかつての旧友の現状を知らなかったようだ。
それもそのはず、今回の将軍が真田の召喚を命じた時点で、将軍家の直々の部下が派遣され今までずっと監視していたというのだから。
桂とも、高杉とも接触していないのは確かだ。
「高杉はあっち行ったりこっち行ったり動向が掴めねえ奴でな、危険因子であることは確かだ、だからお上もアイツだけは指名手配している」
「そうかそうか」
「で、これはこっちで手に入れた情報だが。あんたは江戸についた時―もう三日前だな、その時に攘夷志士に襲われたな?」
「そーうなんだよ!いきなり襲いかかってきたんだよ!何か誰か助太刀してくれたんだけど、邪魔だったからどっちも撒いて逃げてきたんだよねえ。それで逃げ回ってお腹空いたから、土方くんが居たお店に入ったわけ!」

土方は説明する。
助太刀したのは、例の将軍家が派遣した見張り。

見張りを撒かれてしまったので、騒ぎになっていたところで信選組が真田を逮捕したのだから、それはもう大騒ぎになった。
松平もてんやわんやで、カンカンに怒っていたというのは半ば信選組にへの八つ当たりである。

「だからあんたは、俺たちの元に入れば監視も付けなくていいし、攘夷志士からも守ってやれる、万事オッケーってわけだ」
「もし、私が信選組に入らなかったらどうなるんだい?」

その言葉に、土方は眉をひそめる。
「攘夷はしない、将軍家にもつかない、信選組にもつかない。それじゃあダメなのかねぇ」
「…あんたが松平公と将軍に仕えるのを断ったから、松平公は俺にあんたを勧誘しろって言ったんだけど?」
「えっそうなの、じゃあ堂々巡りじゃんね。でもごめんねー私は組織めいたものに関わる気は二度と無いんだわ〜。だから信選組も入らない!」

真田はまるで大学のサークル勧誘を断るかのような気軽さで断った。
マジックミラーの向こう側はざわついていた。

「そう、か。入らねえか」
「まあ心配だったら監視でも何でもつけてよー。信選組の監視なら別にいいよ、撒いたりしないし」

ヘラヘラと笑い掛ける真田をよそに、土方はそのまま無言で部屋を出ていった。


マジックミラーの向こう側。
控え室。

「フラれちゃいましたねえ土方さん、大ファンなのにねぇ」
沖田が笑いを堪えながら言う。
「あーあー、戦乱の赤鬼なのにねえ。土方副長憧れの赤鬼なのにねえ」
斎藤もポテトチップスを食べながら言う。
「人をからかうんじゃねえ。斎藤ここ飲食禁止だろうが!」
「はぁー?土方副長もここ禁煙なんですけどー?」
「まあまあそれよりも真田さんですよ、本当に放っておくんですか?」
「さっきも言った通り、監視は付ける。山崎を常に張らせておくから心配は要らん」

土方は斎藤からポテトチップスの袋を奪うと、自分もそれを食べ始めた。
「じゃあもう釈放ってことでいいんですね」
「おう、送ってやれ沖田。奴はテメェがお気に入りだと」
「えー?やだなあ土方さん、男の嫉妬は見苦しいですよ〜」
「うるせえさっさと行け!」

けらけらと笑いながら沖田は控え室を出る。

「ちょっとぉもういいッスかね!?食べ過ぎだからアンタ!」
斎藤が土方から袋を引ったくる。
「そうだ、斎藤テメェが持ってるんだっけか?真田のデータ」
「あ、貰うだけ貰って見るの忘れてたッス。はいこれ、土方副長は赤鬼の大ファンだからって沖田くんがいっぱい集めてくれたみたいッスよーよかったねぇ」
「あーハイハイありがとうありがとう!テメェも後で目くらい通しとけよ!」

土方は散々からかわれて、斎藤から資料の入ったファイルを受け取った。

攘夷戦争の時の資料は殆ど紛失しているが、ある程度見聞での情報でまとまっているのでそこは別にいい。
ただ、土方も戦争が始まってから参加はしないものの赤鬼の噂は耳に入っていたし(というか自分から情報を手に入れていたのだが)、土方が見たいのは、真田の入院していたときのカルテだ。

「流石に細かいところは個人情報云々で伏せてありますけどね」
「ん、まあいい」
土方は、当時の怪我の様子や、現在の健康状態さえ知ることが出来ればよかった。

運ばれてきた当初の身長体重。怪我の状況。
背後から大剣で左脇腹を斬られ、出血多量、心肺脈拍共に正常。だかここまでの負傷で正常なのは、異常だ。
カルテには、赤で≪正常≫にアンダーラインが引いてある。
背骨のところで大剣が止まり、目撃者によれば患者本人がその大剣を押し抜き、反撃までしたと言う。
患者は両手に切り傷を作っていた(証言通り、大剣を押し抜いた時の負傷だろう)。
大量の輸血と、長時間の外科手術を終えると、患者は静かに眠りにつき、そして目覚めることは無かった―。


土方は資料を目が滑らないように、しっかりと文字を追っていく。

血縁者、父・人間、母(故)・月兎族。
「月兎族って言やぁ、あの宇宙由来の民族か」
土方の問いに斎藤が答える。
「ですです、ビックリしましたね〜。まあでも、それならあの強さは納得ですわ。月兎族は皆、人間と変わらねえ容姿してるが、筋肉や内臓の発達が凄まじいんですって」
「テメェのとこの居候も、確か月兎族の女だったか?」
「ええ、相変わらず元気ッスよー」

そりゃなにより。土方は少しだけ笑った。

―母親が月兎族ということで、負傷したときの超人的な動きには納得、そしてのちに、この患者の深い眠りは体を治療するための休養期間であったことが判明する。

医者のコメントが、日付と共に書いてある。
『眠っている間も観察を続けたが、何の後遺症も発症せず、徐々に健康体へと戻りつつある患者。しかしまだ目覚めず』

一番新しい日付のコメント。
『患者がついに目覚める、回復速度と健康状態から覚醒の目安はついていたがここまで早いとは思わなかった。左脇腹の傷もほとんど目立たない。ただ、患者本人が運動したとき等に赤く目立つようだ。その他は何も問題なし。近々退院予定』

「なるほど、な」
土方は読み終わった資料を、ファイルに戻す。
「あれ?ちゃんと最後まで読みました?」
斎藤は、ポテトチップスの袋を小さく丸めながら言う。
「あ?ちゃんと目の前で読んだだろうが、テメェより読み込んでるよ」
「あー違う違う、最初の方ッス。あんた最初の方読み飛ばしてるっしょ」
斎藤はニヤニヤと笑いながら、土方からファイルを奪い取って資料を取り出す。
「ほら、病院のカルテ。俺これだけは先に読んだんスよ!土方副長、かなり大事なところ見落としてますって」
「はあ?怪我の状態とかそういうのしか書いてねえだろうが、何言ってんだ」
斎藤はカルテの隅を指した。
「あーこれこれ!あんたこれちゃんと見ました!?」

そこには真田の名前と、生年月日と血液型と性別が記してあった。

「…別に何も見落と………」

真田 幸宗 ○○年○月○日 O型 性別:女



「……見落として……」


性別:


「見落としてなんか……」






「………………女?」

女。女性。女の子。woman。ウーマン。女子。男の反対。
射精しないやつ。月イチで股から血を流すやつ。

「は?………女………?」
「ぶっは!!!!この人!!マジで!気付いてなかった!」
斎藤は大草原不可避である。
しゃくりあげながら笑う。

「き、きづいてたし…」
「嘘でしょー!嘘嘘!俺あんたの嘘分かるから!伊達に幼馴染みやってないから!これ絶対気付いてなかったからー!」
「う、うるせえ!テメェ斎藤ッ言葉遣いがなっちゃねえぞ!切腹しろ!」

土方は顔を真っ赤にして抜刀する。
「おわァアア!危ないから!すいませんでしたー!危ないから仕舞って!?」
謝罪の言葉は述べるものの、斎藤の顔は笑いに歪んだままだ。
土方は大人しく納刀し、すぐにスマホを取り出した。そして電話を掛ける。

「沖田か!」





「はいはい、沖田ですよぅ。一体どうしたんですか?」
『もう真田は送り届けたか』

沖田は、自分の隣でコンビニの肉まんを貪る真田を見る。
そしてスマホのスピーカーをオンにした。
「いいえ?今二人でコンビニ寄ってたところでね」
『はあ!?テメェ勤務中だぞ何やって』
「あーもう、何の用事ですか?」

沖田がやれやれと肩をすくめると、真田は社畜だねぇと呟いた。
スマホからは土方の不機嫌そうな声が響く。
『テメェは、知ってたのか…』
「知ってたって何を?」
『その、真田が…』

真田は、沖田と同じように首を傾げた。

『真田が、女だってテメェはいつから知ってたんだ』

「お、ついに土方さんも気付きましたか?私は身元調査しろって土方さんに命じられた時に知りましたよ〜。いやはや、確かに本人を目の前にしてみれば気付きますって」
沖田は大爆笑しそうになるのを我慢していた。
そして隣でそれを聞いている真田本人も、罰が悪そうに笑っている。
「あ〜やっぱり?一定数は絶対勘違いしちゃうんだよねえ、まあ私が女らしくしてないってのがいけないんだけどサー」

『おい沖田!?テメェこれ真田に聞かれてねえだろうな!?』
「えー?大丈夫ですよぉー心配性だな土方さんは」
相変わらず沖田は意地悪く笑っている。

『いいか、テメェ…斎藤にも言ったが…真田に、俺が赤鬼に憧れてるってのは秘密だからな!?絶対言うなよ!?』
「んぐっ!?…ふふふふ…!はっ…ハハハハハハハ!」

真田が我慢しきれず大声で笑い出す。
「ああ、ダメですよぅ真田さん、バレちゃいます」
「だって!我慢できない!無理無理ー!これは笑う!いや、アハハハハ!そうですか〜鬼の副長は私の大ファンでしたか!」
『アァ!?その声は…!お、沖田テメェ!…ッ』

「いやーすいませんね土方さん、俺たち思いの外仲良しになっちゃって…ってアレ?切れてる」

土方は怒りのあまり、スマホを壁に叩きつけた。




「と、言うわけなんだが」
土方はそこで言葉を切った。
「ふむ…なるほどな」
向かいに胡座をかいて座っているのは、信選組局長・近藤勇美(コンドウイサミ)である。

「松平のとっつぁんの話によると、真田は、このまま江戸に残って≪解決屋≫をやるらしいから特に危険視する必要も無いだろう」
「解決屋?」
「まあ簡単に言うと何でも屋だな、名前に関しては色々とアレだったんでちょいと捻った、と…」

なんだそりゃ、土方は小首を傾げる。

「ま、まあ!とにもかくにもだな!真田に関しては、とっつぁんの協力もあるし、ワシ個人の知人からの情報から考えるに、真田は信頼できるとワシは判断したよ」
「個人の知人?例の貿易商か?」

土方は、一度だけ会ったことのあるその近藤の知人を思い浮かべる。
「そうだ、坂本さんも攘夷戦争に少しだけ参加してたらしいからな。真田とも知り合いらしいぞ」
「ふむ、そうかね」
「聞くだけでも気持ちのいい人物だった。ワシも早く会ってみたいよ」

近藤は、手元の資料をめくる。

「…まぁ、もうすぐ会えると思うぜ」

土方は意味深に、そんなことを呟いた。


人斬りの目撃情報は、とある甘味屋の女主人からの聴取によって作成された。
数有る攘夷志士の活動は、大方お上への不満をぶつけるために、将軍幹部などの各会議やサミット等のテロが大半を占める。
しかしそれでも主要幹部の暗殺は行われる。
それを≪人斬り≫と呼ぶ。
逆に、無差別に人を殺すことを≪辻斬り≫。

すなわち、今回の騒ぎは攘夷志士による、志を持った革命の殺人なのだ。

土方は、女主人の聴取に付き合っていた。
「そうです、あれは間違いなく人斬りです」

「あたしはしかとこの目で…ああ、夜だったから顔は見てないんだけど、赤髪の攘夷志士が人を斬るのを見ましたよ。斬られたのはホラ、アメリカさんと付き合いのあった議員さんでしょう?人斬りですよ、人斬り」

ただの勘違いだと思った土方は、女主人にふっかけた。
「あんた、そりゃあ辻斬りって言うんじゃないのかい」
「やだよぅ副長さんとも言われるお人が!辻斬りは、無差別殺人だろう?私が見たのはれっきとした人斬りさぁね」




「…近藤さん、あんたも来てくれ。今回の捕り物は大事になるぜ」
「おお!例の人斬り、既に掴んだか!」

近藤は興奮して立ち上がる。

「なぁに簡単なことだった。月の光に照らされた赤髪は、赤には見えんのよ」




日が沈み、街灯の少ない通りは、薄暗闇が広がっていた。
「こんばんは、ちょいといいかな?」

真田は、歌舞伎町の外れにある甘味屋を訪れていた。
「あら、お客さんもう店は閉めちまったよ」

甘味屋の女主人は、店の前を箒で掃いているところだった。
「もっと早くに来てくれなきゃ」
「あっはっは、それは申し訳ない。ここ数日ゴタついててねえ…さっきまで寝てたんだ」

真田は店の前の長椅子に腰を下ろす。
「まあ、いけないよお侍さん。夜寝て朝起きる、お天道様が出ているうちに外に出ないとダメだよ」

その隣に、女主人も腰かけて笑う。
「そうは言うけどねえ、江戸に来てからどうも物騒で物騒で。私みたいな者は日陰の方が似合ってるのさ。時にお姉さん」
「はいな?」
「どうかな、日の沈んだこの暗い場所で、私の髪は赤く見えるかね?」
「髪…?」

女主人が笑顔をひきつらせた。

背後の店内の明かりが点いた。
ぱっと光が広がり、真田の髪が真っ赤に写し出される。
「ね?夜、こんな光の無い場所じゃあ私の髪は」

真田が何か言う前に、店内の扉が吹き飛んだ。
女主人を抱きかかえて、真田は通りのど真ん中に転がった。
「よーお!昨日ぶりだね…って昨日?今日?なんか変な時間に寝ちまったからこんがらかって来たな…」

店内から瓦礫を蹴飛ばしながら、例の茶髪の浪人が抜刀して現れた。
「時間など関係の無いこと、貴殿が生きているのなら斬るのみ!」

「ああもう!ほらほらッお姉さん守りながら闘える自信が無いからねー!さっさと逃げて逃げて!」
真田は女主人を半ば乱暴に押し退けた。
するとそこに、容赦の無い斬撃が打ち込まれる。

「は、話が違うじゃないかァ!あたしのことは助け」
「バカだねえ!こいつら自分の志のためなら何人殺しても構わないんだよ!」

その斬撃をかわしながら、女主人を庇いつつ真田はトンファーで応戦する。
「そんな…そんなァ…」
「なーに上手いこと言われたか知らないけど、これに懲りたらあんたも堅気になれ!帯刀してる奴にロクな男は居ねえぞ!」

呆然とする女主人を、真田は叱責した。
真田の言葉を聞いて、女主人は顔をひきしめ、ふらつく足で精一杯駆け出した。
それに追撃しようと、人斬りが間合いを詰める。
しかしそれを真田が許すわけがない。

トンファーをぐるんと回して、人斬りの手元に打ち当てる。
人斬りは刀を落とすまいと強く握り直すが、既に真田の二発目の攻撃が繰り出されている。
トンファーを打ち出した流れのまま、それを活かして己の足を旋回する。回し蹴りが、人斬りの首元に当たった。

「ぐぅうッ!」
左側への打撃は、先日真田が折った脇腹の骨折に響く。
人斬りは激痛に耐えきれず、その膝を折って地についた。

真田はくるりと回って正面に向き直り、トンファーを振り下ろす。

(…ッ防御が、間に合わな…!)

人斬りは、ただただ正面の者の赤い目を見詰めた。


そこには 何も映っていない。


冷え上がるような風が吹き、真田のトンファーが人斬りの刀を叩いた。
衝撃に耐えきらなかった人斬りは、その刀を離し、そして真田はそれをすぐに蹴り飛ばして通りの隅に追いやった。

「な、なにを!?」

人斬りが狼狽える。

「しがない浪人同士、刀さえ無きゃ只の人でしょう」

真田は、笑ってみせた。



「確保ォ!」

突如二人にスポットライトが当たり、何人もの信選組隊士が一斉に人斬りを拘束した。

「うわわわわわッやっぱり来てやがったか信選組!ええい、居るなら最初から出てくりゃいいじゃねーか!仕事しろ信選組ィ!」

真田は、閃光に顔を背けながら叫ぶ。

「おう、ご苦労だったな真田」
「あっテメー土方君!これはどういうことかなぁ!説明しなさいよ!」

土方は煙草を吹かしながら、ゆったりと歩いてくる。
「んまぁ大方あんたの想像通りだ。俺たちはあんたが攘夷をしねえって確証が欲しかったんでね」
「いやーアッハッハッハ!素晴らしい動きを見せてもらったよー!見事見事!あっワシは局長の近藤だ、これからもよろしくなー」

土方の後ろから近藤がせかせかと歩いてきて、真田の両手を握って上下にぶんぶんと振る。
その歓迎の握手を受けながら、真田は困惑する。

「は?なになに?これからもよろしくって…私は普通に歌舞伎町で商売を…」
それに土方が答える。
「お上はあんたが攘夷しないとなれば、俺たち信選組への協力を義務付けたのさ。まあ、商売っていうのも依頼したら何でもやるっていう≪解決屋≫らしいから?いいじゃねーか?依頼料もきちんとウチが支払ってやるし。なんなら副業してくれても構わねえし」
「はぁああああ!?なにそれ!?明らかに攘夷志士に狙われるじゃんね!?バカなの!?そんなことしたらッ」
「だーから、あんたの監視もやるって言ってるじゃねえかよ分からない奴だな…」

土方は懐から、一枚の紙を取り出した。


指令書

真田幸宗は、将軍配下への参入は拒否したが
これから江戸に住まう者として、市民としての
ルールを守ってもらわなくてはならない。
従って、個人の事業も兼ねて
攘夷志士を取り締まる
信選組への協力を


強制する


なお、これを拒否することは出来ない

「…しかしながら、協力をするに当たって住まいの家賃光熱費その他雑費は全額免除することを保証する…ワァー好条件だ〜」

沖田の運転するパトカーの後部座席で、指令書を読み上げながら真田は感嘆した。
「ああ…無茶苦茶なこと言われてるけど…全額免除……全額免除は捨てがたい…」
「住まいは一階がスナックになってる、あんたが住むとこはその二階だな。で、これが間取りな」

隣で土方が、真田に再び用紙を渡す。
「ほぉ〜、結構広いじゃんね…、あ、ここを客間にして…こっちの畳の部屋を寝室にすれば…ぐあー!これはもう住む!住むわここ!」
「じゃあ住んじゃえば?断る要素無いわけじゃん?」
助手席の斎藤が言う。
「そうだよね〜もう住んじゃうわ!他のとこめっちゃ家賃高いしねータダで住めるのは即決だわ」
「じゃあこれにサインな」
土方はペンを真田に渡す。
「はーい」

真田は、土方の膝の上でサインを書き込む。
土方はそれに文句を言おうと口を開いたが、すぐに止めた。

「さな…だ、ゆき、むねっと。いやー!ありがとうねえ、なんか住まいまで手配して貰っちゃって〜。実はしばらく野宿のつもりだったからホント助かったわー!」
「ああ、それねぇ。ビックリしましたよぅ。昨日送り届けるつもりで出たら‘テキトーにその辺で寝るからいいよ’とか言うんだから真田さん」

沖田は運転席で笑いながら言う。
「慌てて土方さんに連絡して、馴染みの宿に連れてきましたけど」
「いやいやホントに沖田君には足を向けて寝られません!ありがとうございます!」

真田は頭を下げる。
「いえいえ、私の金じゃないんでね」
「そうだぞ、俺の金だ」

土方が言う。
「土方副長が赤鬼様を野宿させるわけにはいかないッ!って宿の手配してくれたんスよねえ」
「あーっ土方君はホント私のこと好きだな!?どれどれ、サインを上げようか」
「い、要らねえよ!斎藤も余計なこと言ってんじゃねえ!」
「ふっふっふ、でももう一言だけ言わせてくださいよ。ねっ土方副長☆」

赤信号で、パトカーが止まった。
「…なんだよ、言ってみろ」
「ねえねえ幸宗さんッお家決まってよかったけど…それねーえ?…信選組屯所のお隣のお家なんだYO!」
「…えっ!?はぁ!?嘘でしょ!?隣!?」

真田は土方を見る。
土方はポーカーフェイスのまま、ふいと顔を反らした。
「ちなみに家の手配したのも土方副長な」
「うわああああ土方君怖い!ストーカーじゃんね!?ファンとかそういうレベルじゃないじゃんね!?ちょ、下ろして!?やだやだ実家帰るわ!」

真田は混乱して、後部座席のドアに手を掛ける。

「バッカ!危ねえだろうが!?」
土方がすかさず手を伸ばして、ドアロックを落とす。
「ひゃあああ襲われる!?嘘でしょやめてぇええ!」
「ち、違う!そんなつもりじゃッ…ちょ、落ち着」

「あぁ〜急ブレーキでさぁ〜すいませんねぇー」
運転手の沖田が、わざと急にブレーキを踏んだので、真田と土方は二人してごちゃごちゃになりながら、足元に転がった。

「おやおや、お二人とも…もしかしてもう出来上がっちゃってる感じ?さすがに俺たちがいる車内ではヤらないでね?」
「ちょッ斎藤!?マジで止めろ!?マジでフラグとか要らないから!早く退いてよ土方糞野郎!」
「あでででで!テメェがそうやって俺の服ひっ掴んででるからッ…立てねえんだよ!」

「え?勃つ?何言ってるんですか土方副長、サイテー」
「斎藤ォオオオオオオ!!!!!」


四人を乗せたパトカーが、アニメ的表現で道路から垂直に飛び上がった。
そして真っ暗にフェードアウトして、最後に主人公の顔の部分だけ丸がぽっかり空く。

「なんだこれ!?ラブコメじゃねえよな!?」





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