名前変換グレル夢小説


※名前変換は出来ません※

拳銃を握る力が弱まり、思わず落としそうになった。
限界が来ている。
目の奥がじんじんする。耳もよく聞こえない。
その場に崩れ落ちる。このまま眠ってしまいたい衝動に駆られたが、まだ油断は出来ないのだ。
膝立ちの状態で周りを見回した。
死体ばかりだった。
(部下は、殺られたんだろうか)
一緒に居た部下たちへ連絡を取ろうとした。が、ケータイが見当たらない。この騒ぎで失くしてしまったらしい。
私はため息をついて立ち上がった。

「…大勢の奇襲に、たった一人生き残るなんて。コレって何かの運命じゃなァい?」
ふざけた声が響いた。
私はそちらを振り向く。
「勝ち残った騎士(ナイト)がお姫様(プリンセス)と愛し合うことが許される…。嗚呼!なんて素敵なラブストーリーなの!?」
そこには、一人の女が笑っていた。
「お嬢さん…ここはもうすぐヤードが来る。早く逃げたほうがいい」
私は対して気にする力も残っておらず、ただふらふらと歩いた。目の前がくらくらする。
「そうネ、こんなに死体がいっぱい出るなんてアタシも予想外だったワ」
女は私の隣に並んだ。
私は女の顔を確認する。下がった眉に、つり目がちな黄色い瞳。不適な笑みに真っ赤な髪。黒いスーツ。
「お嬢さん、娼婦じゃないなら同業かい?」
「同業がマフィアなら、違うワね」
女が含み笑いをした。
私は嫌な予感がして、女から離れた。背後は壁だ。
「あら、何ヨ」
「殺し屋か?」
「はァ!?まッさかぁ、何を根拠に言ってんのヨ。まあでも、…似たようなもんかしらネ」

リボルバーの中には、一発しか残っていない。

「なァに?殺すの、アタシを?」
女は、歯を見せて笑った。
鋭く尖った歯。不気味に光る、その双眼。
「ンフッ、まるで映画のワンシーンみたい。いいワ、付き合ってアゲル。アンタの命が」

エンジン音。
「アタシに刈られるまでネ!!」
チェーンソーが私に襲いかかる。私は転がるように飛びのいた。掠ったコートは、千切れた。
「馬鹿な…!そんなブツで仕事をしているのか!?」
私は、チェーンソーの騒音とともに叫んだ。
「何言ってんの?ワケわかんなぁい」
本物の気狂いか、それともただの阿呆か。
そんな大きな音がする凶器を、殺しの際に使用するなど言語道断である。
それなのにこの女は、チェーンソーを扱っている。
(…しかし、チェーンソーとはまた奇抜な発想だな)

そんなことを考えながらも、次の手は繰り出されている。
情けないことに、それを避けるのも危うい程、体力は残っていない。
「アラ…人間のくせに結構やるのネ。手加減してたら時間かかっちゃうワ」
女は、垂れ下がった眉をもっと下げて、困ったような表情をした。
呑気なものだ。こう見えて相当手馴れたプロなのだろう。
私の目の前は、だんだんぼやけてきている。
先刻で既に限界が来ていた。息が乱れる。

「んー、イイ顔してるワねアンタ」
女は身を震わせて喜んだ。
「なんだかあっさり殺っちゃうのが勿体無いワ。イケメンだし♪」
「…それはどうも」

私は力無く返答した。

そして刹那―、
チェーンソーの刃が、私の胸元を掠った。
偶々、ふらついたのが幸運で服が裂けただけであった。奇跡的に無傷である。その場に転がる。するとすぐに女が、次を繰り出してくるのが見えた。
凄く早いはずだが、私にはスローモーションに感じられた。

その時、無意識に手が動く。一発の弾丸しか入っていない銃を、構えていた。


「ンフッ、おバカさん」
女の薄ら笑い。
力の入っていない右手は、女の長い脚に蹴り上げられた。
銃は、いとも簡単に手から離れた。

―終わった。
冷たい路地に押し倒され、乗りかかられた。

「つ〜かまえた」

女はニタリと笑った。
「さ〜てどうやって殺そうかしらネ。もちろんチェーンソーでぐちゃぐちゃにしてやってもいいケド…それだけじゃつまんないでショ?」
「せめて、晒すことだけは止めてくれないか」
名の知れたマフィアの幹部(私)が、路上にて死体を晒されるのは、部下も耐えられないだろう。
「あ、そうネ。イケメンだしネ…アタシだけのモノにしちゃうのもいいワね」

…会話が成り立っていない。

「よぅし決めたワ。とりあえずお持ち帰りしちゃいましょ。そんで時間掛けて犯してあげるワ!たっぷり、アタシが満足いくまでネ」
「な、なんだって?」

何なのだ、この…殺し屋は。

「んん?…あれ?アンタ……」
女は私の服を剥ぎ取った。すでにぼろぼろである。肌が露になる。
「あ、アンタ女なの!?イヤ〜ンびっくり!美青年を責められると思ってたのに!まさかの女!?」
「お嬢さん…まさかと思うが、殺す標的のことは何も知らされていなかったのか?」

殺す人間の性別も知らないなんて…一体どんな殺し屋なんだ?
女は、心底驚いている。
さっきの戦闘での緊張感はどこへ行ったのやら…。
「おかしいワね。たしかここに名前が…」
女は首を傾げながら、懐から分厚い本を取り出した。そんなものがそこに収納可能なの、と、私はギョッとする。
「え〜?だって最初に死んだ奴がジョーン・マックレイで、次がジル・ドレ、三番目四番目五番目…ひいふうみいよ…ん?」
女が、本のページを捲りながら呟く。
「えっと、最後がアーサー・エセックスっていう三十三の男で…それがアンタだと思ってたんだケド」
とんだ人違いだ。
「私は“ヴァミキュラス・ファミリー”のボスをやっている#name#という者だ…」

「あら、生き残る奴がアーサーじゃあなかったのネ。えーっと…#name#って言った?」
女はまたもや分厚い本のページを捲った。
「ああ、無いワねそんな名前」
“アタシの勘違いだったみたい”。女は、舌をぺロッと出して言った。

「まあ…それはいいが…。取りあえずどいてくれるかなお嬢さん」
私は起き上がる気力も無いが、呟いた。
「あん、ごめんなさいネ本当に」
女は私の胸を仕舞った。そういえば出しっぱなしだった。忘れていた。
「早く行ったほうがいい、騒ぎを駆けつけたヤードに見つかると、ややこしいことになる」
そのチェーンソーを持っているのなら、尚更だ。
「アンタはどうするのヨ、ここでくたばっとくの?」
女は、ちょっと笑いながら尋ねた。…私から降りる気はないのだろうか。
「残念ながら、もう指一本動かす力も残っていなくてね」
「…ふうん、それならアンタこそややこしいことになるじゃない」
「そうだな…」
私が力無く笑うと、女はなんだか悲しそうな顔をした。


と、いうわけで私は何故か安ホテルの一室にいる。
女が私をここまで担いで来たのだ。女は優しく私をベッドに寝かせ、ぼろぼろになった服を脱がせてくれた。ズボンだけになる。
「なぁんだ、外傷は全く無いじゃない。アンタって頑丈なのネ」
「…まあ、それが取り柄だしな」
「ふーん」
女は、いちいちニマニマと笑った。
しかし私は、その笑顔の裏なんぞ探る余裕はなかった。
ヤードを避けられた安心感と、脱力感でいっぱいである。
「すまない。礼はする」
私は短く云った。

「あらホント?じゃあ体で払って☆」
女は、どこから持ってきたのかわからない新しいシャツを手に、答えた。
「…あなたがそうしたいのならすればいい」
私は真意にそう思った。
命を救ってくれた恩人なのだから。云うことを聞くのは当たり前だ。
「……ヤダ、本気で言ってるの?」
女はくすくすと笑った。
「い…いや、しかしだね。私は女同士の、その…そういうことは…」
「あ、アハハハハハハハ!!」
女は、堪えきれずにゲラゲラと笑い出した。
「アンタ面白いワ!最高!」
「な、何が?」
私は上半身を起こす。
「…ンフッ」
女が、私に乗りかかった。
「アンタ、アタシが女だと思ってたの?」
「…は?」
女は、私に口付けた。
触れるだけの接吻は、だんだん深いものになっていく。
やがてそのまま押し倒され、唇が離れた。

「アタシ、こんなんだけど男だから」
「………そ、うか」
「自己紹介、まだだったワね」
女…もとい男は、ベッドから降りた。
「グレル・サトクリフ」
男はシャツを私に投げた。
「じゃ、アタシまだ仕事が残ってるから。この部屋、好きに使っていいワよ?アタシの名義で借りてるとこだから。何日居たって構わないワ」

グレルは言いながら、自分のスーツを羽織った。
よく見たら、それは喪服だった。
「あなたは戻ってくるのか」
私は、シャツを着ながら尋ねた。
「…あら、戻ってきて欲しい?」
グレルはニヤッと笑った。尖った歯が覗く。
「大丈夫ヨ、また逢えるワ」

そう言ってグレルは、部屋を出て行った。


色々思うことがあったが、私は心底疲れていたので眠ってしまった。
いつもどおり朝焼けと共に起きた。
起きると、側にコート(新しいもの)と、私の物が置いてあった。
昨夜で失くしたと思っていたケータイと、グレルに蹴り飛ばされた愛用の銃があった。
(わざわざ探してくれたのだろうか)
私は、めきめきと唸る体を伸ばして、早速外に出た。
冷気が私を包む。
そう云えば、彼の唇も、これぐらい冷たかったような気がする。
思わず笑みが零れたので、ごまかすためにケータイを取り出した。
「もしもし、私だ」
やけに、朝日は眩しかった。




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