悲観的ナルシスト


「はい、脱いで」

「……やだァん、阿草ったら大胆〜」

「包帯も自分で解けるとこまで解いて下さい」

「……………………ああ…包帯変えてくれるのね。ハイハイ」


雑渡は落胆しため息をついて、服を脱ぎ始めた。淡々と脱ぎ捨てて褌だけになる。

包帯もそろそろと解く。
たまに傷が膿んでいて、包帯にくっついているのが辛い。

「阿草ーこれとってぇ、痛い」

「?…あぁはい、ちょっと痛いですよ」

目を瞑る雑渡。

「…うわ、取れない。くっついてますね。貴方が毎日包帯変えないからこうなるんですよ」

「痛くしないでね、痛くしないでね………イタァッ!!」


べりっという派手な音がして血と膿でくっついていた包帯が取れた。

「痛くしないでねって言ったのに!」

「いい歳した大の男が目に涙を溜めて言わないで下さい。仕事中はどんな傷を受けようがケロリとしているのに…」

「それはそれ、これはこれ」


ついでに、阿草は包帯を全て解いてやる。かさぶたが剥がれてしまった傷に薬を塗り込む。

「はい、しばらく乾燥させましょうね」

「あーい」


包帯を解いて褌だけになった雑渡は、髪の毛をわしわしとかきむしった。
「痒い…」

「来週辺り、薬湯につかりましょう」

「え、やだ。あれピリピリするもん」

「きちんと汚れを落とさないとよくなるものもよくなりません。火傷だって治ってきているのに、貴方が包帯をずっとつけっぱなしになるから悪くなってるんです」

「そんなこと医者は言ってくれないもん」

「ほら、風呂に入らないから髪の毛ごわごわだし頭皮バリバリ。貴方乾燥肌なんだから気をつけましょうよ」

「そんなこと医者は言ってくれないもん」

「医者は貴方のお世話係ではありません」


きっぱりと言い捨てる。
「医者に頼りきりではいけませんよ。彼らは怪我と病気の治療だけをするんです。心の治療はしません」

「それって私が心の病気ってこと?」

「言ってしまえば貴方のソレは自傷行為ですよ」

「…医者はそんなこと」

「言いませんね。貴方に少しでも関わらないようにしていますから」

「………だろうね」

「そりゃ避けられますよ、組頭」

阿草は目を伏せて解いてしまった包帯をたたみ始めた。


「かまってちゃんにも程がありますね。医者は治そうと頑張ってるんです。それなのに貴方がそうなら医者も厭になります」

「そんなの、医者の勝手だ」

「医者だって人間ですから、貴方の傷を気持ち悪がるでしょうし貴方のその行為にうんざりするでしょう」

「…………」

「しかし医者が患者の陰口を叩くようであってはなりませんね」

「…………気持ち悪いって言ってたの?」

「あぁそうそう、この包帯どうです?私が少し手を加えました。あまりにも白いと暗闇で目立ちますから灰色に近い色で染めたんです」


分かりやすく話を逸らす阿草。

「ちょっと、今更誤魔化さないでよ。私も知ってるんだから言って」

雑渡は阿草の肩を掴む。

「―それで、阿草も私の傷のこと気持ち悪いと思ってるの?」

「…貴方何も知らないんですね」



阿草は肩に置かれた手を払う。

「何で私が貴方の治療を徹底して行っていると思います?貴方の主治医がこの城から消えたからですよ」

「……………えっと…」

「何で私が貴方の主治医が貴方の陰口を叩いていたことを知っていたと思います?たまたまそれを私が聞いたからです」



「………う、うん」


ペラペラと喋りだす阿草。包帯をたたむ手は止まらない。

「……………まだ言わなければいけませんかね」

「……いや、いい」



雑渡は思い出した。
城にいる医者の一人が、脱走した疑いで始末されたことを。

一体何をしたんだろうか……そんなことを考えていると、阿草が雑渡の火傷に触れてきた。

「私は好きです」

「えっ」

「この火傷と傷が」

「あ、私じゃないんだ。でも嬉しいなぁ、こんな気持ちの悪いものを好いてくれるんだから」


雑渡は包帯をたたみ続ける阿草膝を枕にして寝転んだ。
阿草はそれに上着をかけてやる。


「ええ好きです、グロテスクで」

「ひでぇ」


これを俗に
ヤンデレという。
(なんか違う気がする…)









※一瞬に入浴フラグを立てたかっただけだったりする



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