スナイパー射止めよ射止めよ


「ね〜、ね〜ってばあ」


上司である雑渡は、畳の上でゴロンゴロンと転がっている。
阿草はそれをいつものように無視し、精神統一をしていた。


「ねえーねえー…なぁおい。なあ。なあ〜」


見えてはいないのだが、声があっちに行ったりこっちに行ったりしているので大体どんなことをしているのかは察せる。

上司……雑渡は36にもなる良い歳した大人だというのに駄々をこねているのだ。


「なあー…なぁん。なんなん」

ゴロン、バタン。
ゴロンゴロン、バタン。

大の男がその体を転がしては畳を叩く。

「なーん!なーん!」


…呼び声だったものが、段々と奇声に変わってくる。

「わんわん、まーお、まーお阿草にゃんにゃ〜ん」



「………何事ですか阿草さん」

阿草の部屋の障子の向こうから声が聞こえた。さすがに部屋に入るは避けている。

「気にしないでちょうだい諸泉君。阿呆がとち狂っているだけだよ」

瞑想したまま阿草が答える。

「阿呆とはなんだい阿草ー。上司に対する態度がそれかい!もう!いい加減になさいよ!」

「いい加減にするのはそちらでしょう!馬鹿ですか!大の大人がなんです、急に部屋に現れたと思ったら“かまって”?仕事はどうしたんです組頭!」


ぎゃいぎゃいと言い争いが始まった。

「もう済ませた!だから来たのに阿草ったらかまってもくれないし喋ってもくれない。今は喋って(言い争って)くれてるけど、目も開けてくれないしい」

「諸泉君、山本さんを呼んできてくれる?この暇人に新しい仕事を与えるためにご相談をしたいんだ」

「…わっ……かりました〜」



阿草の声には凄みが含まれていた。
まだ一度も顔をあわせていないのに、猛獣に睨まれたみたいに寒気を覚えた。


「尊、阿草の言うことなんて聞かなくていいから」

こちらも似たような寒気を覚える。

諸泉はこういう時にはとりあえず逃げるようにしている。二人と顔をあわせていなかったのが幸運だった。




「……ねえ」


暇人な上司・雑渡は低い声で呼び掛ける。
それに、眉だけを動かして反応する阿草。

ずるずる、ずる。


おそらく雑渡が這いながら近づいてきている。

額がぴりりと痛んだ。



阿草は目を開ける。




「………なんです」

鼻が触れてしまう程近くに、雑渡は居た。

「ねえ、接吻してよ」


これで甘えた声ならば阿草だって素直に応じた。だが雑渡の声は、有無を言わせぬ“命令”の意味も含んでいたのだ。


せめてもの抵抗として、雑渡の口布はそのままで口付けをした。







私は狙撃手

君は 的







「組頭、暇なら武器庫の銃の手入れをお願いしますね」

「………はいはい」









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