保護者
はぼーっとその光景を眺めていた。
はしゃぐ子供たちに混ざる自分の上司。
いいとこ行くからついておいで、と言われて何だろうと思い素直に従ったら、忍術学園への不法侵入だったというわけだ。
上司は忍術学園の保険委員会が特にお気に入りらしく。
忍術学園の保険委員会も上司がお気に入りらしく。和気あいあいとした雰囲気で茶を飲んでいる。
しかも、上司は膝に生徒を抱きかかえている始末。
(あれが、雑渡昆奈門ねえ…)
阿草と雑渡は、一緒に仕事をすることが多かった。
確かにいつもどこか抜けているような男だが、やる時はやる男だ。
それを知っている阿草にとって、この光景にはぼーっとするしかないのだ。
落胆でもなく、なんだろう…
この感情は。
「ねえ、聞いてるー阿草」
「は?はい?」
聞いていなかった。
「プロ忍がぼーっとしちゃだめでしょ。忍術学園に入学して叩き直してもらう?」
「は、いえ…流石に歳が」
「真面目に答えないでよ」
雑渡は碧眼で笑った。
「僕、阿草さんは真面目な人だから好きだなあ」
伊作がニコニコと笑いながら話す。
「そうですね、阿草さんだったら反抗する気も起きないし…言うことは絶対に聞きます」
「ちょっと待ってくれ。伊作くん乱太郎くん…何の話だい」
阿草はおいてけぼりを食らってしまい、あわあわする。
「えー?阿草は伊作くんたちにだけ優しいんだよ。仕事とか、厳しいんだからね」
「だ、だから組頭…一体何の話ですか?」
阿草は雑渡に問い掛ける。
「本当に聞いてなかったんだねぇ。いやほら、私たちって家族みたいだねって話」
「…………は?」
「伊作くんたちは息子ね、それでお母さんが阿草なの」
「……………………………………組頭は、ペットか何かですか」
「お父さんだよ!?それしかないでしょ何言ってるの」
雑渡は“信じられない”というような顔をする。
「家族かぁ………」
言われてみればそんな気もしないことはない。
伊作はしっかりしてるし、保険委員会の生徒…いや忍術学園の生徒たちは良い子ばかりだ。
きっと、この『いつも何を考えているかわからない』上司はそれが好きでここに来るのだろう。
帰路。
木々を飛び移りながら城を目指す。
ご機嫌に鼻歌を歌う上司の隣で阿草は考えていた。
上司の戦場での姿も好きだが、ああやって子供たちと遊んでいる上司も好きだ。
(……落胆ではなく、ただ優しい気持ちになっていただけかもしれないな)
癒し、にはまだ程遠い。阿草は“家族”を知らないから…
「ねえ母さん、今日の晩御飯は何かな」
雑渡がポツリと言った。
「もうお腹が空いたんですか?」
「ペコペコだよ〜帰ったらすぐにでも食べたい。ああ、たまには母さんが作ったものが食べたいなあ」
「だめですよ組頭、きちんと手を洗ってうがいをしてからじゃないと」
「……えっと…あそーちゃん」
「はい」
「………私はお前の旦那様的なポジションで喋ってて」
「え?マザコンの息子じゃなくて?」
ひどい!!
夫婦…妻というか保護者なのですね。
終
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