女友達
彼女は魔人だ。
けれど私がよく知っている魔人とは、いろんなものが違っていた。
あのドS魔人は『謎』以外のものは食べない。てゆうか食べれないのかな?
だから興味も無い。
でも彼女は、食べ物に関しては普通の女の子と同じくらい興味津々だった。
「…甘いケーキをたらふく食べたいな」
そう呟いたとしても、何の違和感も感じなかった。
私は。
「魔人が人間のオナゴのようなことを、よくさらりと呟けるものだな」
ドS魔人は小馬鹿にしたけど。
「じゃあセルさん!一緒にケーキの食べ放題行こうよ」
「今からかい?」
「ちょうどサービス券持ってたんだ〜」
「そうか、ならば行こう」
「おい、ヤコにセル。貴様ら仕事を放棄するつも…」
「行ってきまーす!」
「留守番は頼んだぞネウロ」
と、いうわけで私たちはケーキの食べ放題に来ている。
「一時間半だからね!元を取らなくちゃ!」
「お前の場合、元を取るどころか店側が大損失するレベルだがな」
そんな冗談を言う彼女も彼女で、皿にたくさんのケーキを盛っていた。
…そりゃ私もたくさん積んでるけど。
なんだか異様な光景だなぁ、と思った。
もう夏も本番を迎えるのに、彼女は黒ずくめのロングスカート。長い赤髪は結わえもしない。
そんな彼女が私みたいな至って普通の女子高生……至って!普通の女子高生!と一緒にケーキを食べまくっている。
「セルさんって、夏服とかに着替えないの?…ネウロは暑さを感じないみたいなこと言ってたけど。セルさんは…」
私はショートケーキとモンブランを両手に尋ねた。
「暑いな、せめて黒いのを白くしようかなと思っているよ」
「え〜勿体ないよ、セルさんスタイルいいんだからさ。今度二人で服を買いに行こうよ!」
「あまり…派手な服は苦手なんだ」
「大丈夫大丈夫!ちゃんとコーディネートするから」
私はガトーショコラを頬張りながら言った。
うんうん。
セルさんをイメチェンさせるのは、とても楽しそうだ。
セルさんはロングスカートが好きみたいだから、淡い白のフワッとしたワンピースをおすすめしよう。
髪はオーソドックスにポニテにして……
「楽しそうだな、弥子」
「ほえっ?」
私はアップルパイを食べる手を止めた。
「ケーキを美味しそうに食べているし、何やら考えているのも楽しそうだ。可愛らしい」
セルさんはにこりと笑った。私はすごく恥ずかしくなる。
セルさんはこういうことをさらっと言ってくるので困る。素直だ、どっかの魔人とは違って。
「じゃあ弥子の都合の良い時間に連絡してくれ。行く」
「うん!学校帰りにでもメールするね」
セルさんとこうやって話したり出掛けたりするのは、なんだか女友達と遊んでるみたいで楽しい。
私は、ロールケーキを一本口に頬張りながらニコニコしていた。
「……弥子、まだ時間はたくさんあるのだからもっとゆっくり―」
「ダメだよセルさん!まだまだ遅いくらいだよ!!」
おわり
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