その屈辱を味あわせたい

「いやだ」「やめて」「おねがい」「ゆるして」と

恋人(あくまで恋人)に云わせたいアーカードのお話。



【夢魔サキュバリエスの場合】


女が恥辱を味わってそのポーカーフェイスを真っ赤に染める姿を見たくなった。
なんのきっかけもない、ただの思いつきだ。



その日は珍しく皆がインテグラの執務室に居た。
インテグラは勿論机に向かってバリバリ報告書を読み漁っていて、ウォルターはその横でアシスタントをしていて、セラスはそんな二人の邪魔にならないようにソファーで大人しくしていて、サキューはサキューで好き勝手に茶菓子をつまんでいた。

アーカードはセラスの隣に座るサキューを眺めて、ふと思った。
こいつは人間の体を模っているわけだから、摂取したものは体に吸収されるし要らないものは排出するのだろう。

「サキュー、お前トイレとか行くのか」
「ああ行くよ」

アーカードの急な問いかけにも驚きもせずに答える。

「ふうん」
「…なぜだ？」
「いいや、気になっただけだ」

訝しげな視線を寄越すサキューに、アーカードは紅茶を勧める。
するとサキューは何の疑いもなくそれを受ける。

「インディー、そろそろ休憩したらどうだ？」

サキューはアーカードが注いでくれた紅茶を啜りながら、インテグラに声を掛ける。

「…そうだな。私も紅茶をいただこう」
インテグラがセラスと向かい合わせに座る。
隣に座った主に、忠僕は紅茶を注ぐ。
それを意外そうな顔で見るのはインテグラだけで、サキューはなんとも思わないようだ。

セラスも不思議なものを見るような目で見ている。

アーカードのおかしな行動に気づいていないのは、サキューだけであった。


「それはそうとインディー、この間我輩に“その格好は寒いからやめろ”と言っただろう？」

サキューは話題を切り出した。
「あ、ああ。言ったなそんなこと」

“こいつ気づいてないのか”と、インテグラは呆れながらも答えてやる。

「そうですね、サキューさんのその格好…流石に寒そうですよね〜…」

セラスもいちいち自分のマスターの企んでいることに口は出せないので、スルーして会話に参加する。
アーカードは、空になったサキューのカップにおかわりを注ぐ。

「そうかなぁ。そうでもないんだけど」
「お前、人間の体なんだろうが…寒さとか熱さとか、感じないわけではないのだろう？」
「まあ多少は丈夫に出来ているから、我慢できないわけではないのだ」

「それってただ鈍感だってことじゃないですか」
セラスが笑う。

女子組は、楽しそうにガールズトークを続ける。
アーカードはその間、サキューのカップが空にならばまた注ぎ、おかわりを与える…作業を繰り返していた。

「……おいウォルター、紅茶の湯がなくなったぞ」

やがて空になるのはティーポット。
アーカードは執事に申し付ける。
「いや、もういいぞ我が愚弟。流石に飲みすぎた」

サキューが慌ててアーカードを止める。
「……………そうか？」

アーカードは、にやりと笑った。
「うむ、水っ腹になってしまったよ。ちょっと席を外させてもらう」

サキューはすっくと立ち上がり、執務室を出て行った。





※※※


「何故ついてくるのだ、我が愚弟？」

サキューは笑顔で振り返った。
アーカードも笑顔で答える。

「いいではないか、一緒に行っても」
「…なんだ、そんなに珍しいものか？」

サキューはまだ男の企みに気づかない。

シャワー室とトイレが一緒になっているそこは、地べたはタイル張りでなかなかに高級感が出ている。客用でもあるので、設備は整っているのだ。
どこにでもあるような洋式のトイレが三つほどあって、大きな鏡が手洗い場に設置されていた。

「どこまでついてくる気だ」

鏡に映りはしないが、背後に確かな気配を感じてサキューは立ち止まった。

「さあ？」

アーカードは含み笑いを漏らす。
そして、女の体を乱暴に引き寄せ壁に押しやった。

対して驚くわけでもなく、サキューは抵抗もしない。
「一体何をしているのかね？我が愚弟」

アーカードは、露出している女の腹を撫でる。
つ、と指を滑らせてそのままショートパンツのベルトに手を掛けた。

「急に滾ったのだ」

素早くそのベルトを外し、下着のサイドに指を入れた。

「我輩はトイレに行きたいのだが」

「かまわん、ここでやれ」

股の間に膝を押し入れて動きを封じる。
この状況が愉しすぎて笑っていると、サキューは肩をすくめた。
「やれやれ、そんなに私が漏らすところを見たいのか貴様」

「そうだとも我が師」

耳元で囁いて、首筋を舐める。
サキューが吐息を短く発する。それを聞いてアーカードは堪らなく愉しくなった。



「………ならばそこで独りこいてろアーカード。命令だ」


サキューは、アーカードに命令した。
名前を呼んで、命令だとはっきり告げた。

それは、契約である。名を呼べば逆らうことの出来ない命令になる。

「…なッ！？」

逆らうことは、出来ない。

「ほらどうした。さっさとベルトを外せ」

サキューは淡々と告げる。
とん、と軽くアーカードの肩を押すと、アーカードはよろよろと向かい側の壁に背をついた。

「聞こえなかったかアーカード、ベルトを外して、ズボンを脱げ」

「くっ……」
アーカードはわなわなと震えながらベルトに手を掛ける。
それを無表情で見続けるサキュー。
その痛い視線に耐えながら、アーカードはベルトを外した。

「ズボンは？どうするんだっけ？」

「…本気か…！」
「ホラ、さっさとその立派なものを披露したらどうだ？え？」

サキューは言いながらトイレに入る。

「簡単なことじゃないかアーカード」

悪魔は囁く。

契約を交わしている限り、命令を聞かねばならない。

トイレの水が流れる音が聴こえる。

「やり方ぐらい、知っているだろう？」

相変わらず悪魔は囁き続ける。
「う…うう！…」
アーカードは歯を食いしばる。
このまま言うことをきいてたまるか。このまま言われるがままになってたまるか！

理性はそう叫び続けているのだが、己の体は言うことを聞かない。
アーカードの両手は、チャックを掴んで下ろそうとしている。

「どうしたアーカード？早く見せてくれよ」

いつの間にかサキューは用を足していた。
目の前にツイと顔を近づけて、酷く妖艶に笑っている。

「お、お前…サキュバリエス……っ」

「できないのなら手伝ってやろうか、どォれ」

サキューはそう云って素早くアーカードのズボンを下ろした。
「！？」
「出来ないのだろう？我輩が、シテやるよ」

ニコニコと素敵な笑みを浮かべ、サキューはアーカードの下着を……



〜ここからは二人の台詞のみでお楽しみください〜


「い、…いやだッ」

「今更何を」

「やめてくれサキュー…」

「ふうん？」

「お願いだ…！お願いだから！」

「もう一声」

「ゆ…ゆるしてくれッ！」




サキューは、パッと手を離した。
「よかろう？水に流してやるさ。トイレだけにな」


ヒハハハハと、特徴のある笑い声を残して夢魔は去って行った。



作戦、失敗
End

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