よろしい、ならば雪合戦だ


その日、英国は雪が降った。



「道路も結露してしまっているな…」

ゆっくりと進む車内の中で、インテグラは呟いた。

「まあお嬢様、仕事の息抜きだとでもお思いください」

運転席のウォルターが、微笑む。


「まあ…そうだな」

執事の気遣いに和み、インテグラはふと窓に視線を移した。

もうじき我が屋敷である。


既に敷地内に入っており、見えるのはいつも車で出掛ける時の風景である。

(今朝方はあまり積もっていなかったのにな…今じゃ足首ぐらいまではあるんじゃないか?)


膨大な敷地内には、芝を植えてある。
コンクリート以外のところには雪がかなり残っていた。


ゆっくりと進む車。
暖房も効いていて、大変心地好い。


しばらくまどろんでいると、急に車体が揺れた。
ぼんっという音がした。

「屋根の上に何か…」


ウォルターが口を開いた時、目の前のフロントガラスに白い塊が現れた。
「なっなんだ!?」

インテグラが声を上げる。
ウォルターが慌てブレーキを踏んだ。

しかし車道は結露している。
そんな状態で急ブレーキを掛けては車が…




思わずインテグラは目を瞑る。


しかし…恐れていた事態は、起きなかった。



「いや〜すまないなあ我が女帝」


呑気な声が、外から響いた。


「…サキュー殿」


ウォルターが驚く。
サキューは外に居た。車の目の前に立って、ボンネットに手を置いていた。

車を止めたのはサキューらしい。

窓を開けて、インテグラはサキューに笑いかけた。

「すまないなサキュー…助かったよ」

「いやなに、車に当たってしまった我輩も悪いのだ」


にっこりと笑って首を傾げるサキュー。

「………当たってしまった…だと?」

インテグラの顔に疑惑の色が浮かぶ。

「ふむ、ちょっと逃亡中に着地を誤ってしまってな。車の上に転がり落ちてしまったのだよ」

「おっお前が原因なんじゃないか!馬鹿者ー!」

「そう怒鳴るなよ我が女帝〜、だから謝ったじゃないか…」


サキューはインテグラに怒鳴られてしまい、肩をすくめた。



「逃亡中…とは、一体何から逃げておられたのですか?」

ゆっくりと進み出す車の隣を歩くサキューに、ウォルターが尋ねる。

「誰ってそりゃあウォルター、我輩が逃げるって言ったら一人しかいないだろうよ」
サキューはケラケラと笑った。

「…アーカードを怒らせるようなことをしたのか?」

インテグラが眉間を押さえる。

「大丈夫さインディー、貴女の迷惑にならないことはしない」

「そもそも…何をしているんだ?こんな寒空の下で」


サキューは、その質問を待ってましたと言わんばかりに顔を輝かせた。


しかし、その顔には…



音速をゆうにこえる雪玉が直撃した。

キィン!という音がしたあと、サキューの顔面が潰れる音がした。



「ク、クハハハハハハ!馬鹿め…呑気にお喋りなどしているからだ」


遠くから悠々と歩いてきたのは、アーカードである。

サキューはしばらく雪上に伏せていたが、アーカードが寄ってくるとムクリと起き上がった。
既に顔は元に戻っている。

「貴様の主の車がスリップするところだったのだぞ。今のはタイムの範囲内だ!卑怯だぞ」

「卑怯も糞もあるか。戦争には休憩も何もなかろう」


サキューは立ち上がる。

「私は最初にルール説明をしたはずだが?」

「雪の玉を作りそれを敵に投げる。それしか聞いていない」

「ほお〜減らず口を…。貴様の主であるインテグラが事故ってしまえば、忠僕である貴様は契約違反なんだぞ」

「スリップするとわかれば私が助けたさ」

「助けなかったじゃないか」

「お前が助けただろうに」

二人は低レベルな言い争いをしている。



「訊くのもアホらしいが…まさか二人して雪合戦をしているのではなかろうな?」



呆れ返るインテグラに向かって、二人は声を揃えて答えた。


「「雪が積もってやることと云ったら、雪合戦しかなかろう」」





大きな姿をした子供二人を見て、インテグラはものすごい脱力感を覚えた。



End


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