夢を魅せる悪魔


お前は、負けたのだよ伯爵。

「私が…負けただ、と?」


突き刺さる白い杭。
私の目の前に居る黒い服を着た男が、ぐいぐいとその杭を強く、強く食い込ませる。
嗚呼、私の心の臓は砕かれていく。
嗚呼、私の身体に死が訪れる。

そのときの、私は


私の感情は、狂喜か悲哀か。



もう今となっては分からない。


























腐乱し干からび、骨に皮が少々残った死骸に。
何故か意識が戻った時。

私は何を思ったのだろう。

死が訪れぬ運命を呪ったか。もしくは祝福したか。
見えない神に感謝したか。もしくは地獄の悪魔を罵ったか。


干からび腐り乾いた、私の唇に


深い口付けが落ちた時。
甘く美麗な香りが、体内を満たしたような
既に溶けて無くなった脳が、再び蕩けたような
愛しき女と交えた時のような

耐え切れない快楽が、私を支配した。


思わず両手が、目の前の者を抱きしめた。
もっと、もっと

もっと私に快楽をくれ。



死の痛覚はとても寒かった。
死の所業はとても痛かった。
死の愛撫はとても厭だった。
寒さと恐怖と悲しみと憎しみ。それしかない私の中を、

快楽で満たしてくれ。







気が付くと、私は私の棺桶の中で女を押し倒していた。
いつの間にか棺桶は開かれていたのだ。
私は、女の上に覆いかぶさっていた。

「…お前が、私に何かしたのか」

私は、無いはずの声帯で言った。

「お覚えてないのか?」
女は、笑いながら言った。

「お前は私に口付けをした。気狂いか、女…」

「何故気狂いかと思うのか?」

「死体に、私の死体に口付けをするのだ。そんなもの、気が狂っているか魔性の者か。どちらかだろう」


私は、言いながら


ひどく何かを欲していた。

嗚呼、嗚呼!

咽喉が乾いている。


「私の■を飲め、伯爵」



女は、絡みついている腕に力を込めた。
私の顔が、女と近づく。

「■?」

その言葉に、ひどく興奮した。

「■が、欲しいのだろう…?×××××伯爵」




荒れる息。口が、むず痒い。高揚する感情。





私は、女の首筋に歯を立てた。





「いたッ…」



女の、小さな声がした。
そこで私の目は醒める。隣で、女がこちらを見ていた。私たちは上等な白絹のベットの上だ。棺桶ではなかったせいで、眠りが浅かったようだ。

「………早い目覚めだことで、我が愚弟」

女は、呆れたように言った。
その首からは、少量の血が流れている。私が噛み付いたようだが、自覚が無い。

「すまないな、寝ぼけていたようだ」
「ほお…貴様でも寝ぼけることがあるのだな。面白い」
女は眠そうな顔で笑った。右手で血を拭う。

「せっかくだからやろう」

そして拭った右手を差し出した。
手の甲に、赤い血がこびりついている。
私は、その手を掴んで舐め回した。ああ、この味だ。
「夢の中でも、このような味がした…」
「そりゃそうだろう。私の血だからな」

女は、満足そうに笑っている。
私は、ふと思うことがあり顔を上げた。
「…待て、サキュー……お前」
「何だ?我が愚弟」

女…サキューは小首をかしげる。

「お前が見せた夢か」
「さあな。知らぬ」

サキューはくすくすと笑う。
この、悪魔め。


私は、サキューの手を自分の方へ引っ張った。
すぐに唇を奪う。腰を掴んで私の膝に乗せる。服の下の肌を撫でる。嗚呼、この感覚だ。

「ヒハハハ、くすぐったいな」

サキューは嬉しそうに言った。
「そんなに我輩が欲しいか」
「そうさせたのは、お前自身だろうサキュバリエス」


夢魔(サキュバス)の血を飲んだ吸血鬼は、




快楽を求める。


その血と共に






End


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