雪溶けと血





「は〜寒い…」



グレル・サトクリフは溜め息と一緒に愚痴を吐いた。

「んもう、なんで年末にお仕事しなきゃいけないの〜…意味わかんない〜…」


屋根の上に座り込んで、仕事のパートナーを待つ。この風景はすでにお馴染みで、仕事のほとんどはパートナーであるラクスが全て円滑に済ませてしまう。

いや、もちろんグレルもやるときはやるのだが。
グレルの場合、派手にやりすぎるので…


「本日38人目の死亡予定者、マフィアの幹部…いやぁね………年末にドンパチドンパチ」

グレルは膝を抱えたまま、自分の爪をいじる。


「………遅いワね」



ラクスが現場に消えてから数十分経った。
死亡予定者が死亡する時刻はとっくに過ぎている。


(まさかシシーに限って)


殺られた…というのは





「ありえないワ」


グレルは立ち上がった。
口では否定しつつも、思考が先走るのを止められない。


死亡するのはマフィアの幹部数名。
死亡する原因は、マフィア同士の撃ち合いで頭に弾丸食らって死亡。


「…撃ち合いに巻き込まれて」



グレルは足元のデスサイズを蹴りあげた。
蹴りあげたデスサイズを持って、構えた。

唸る刃。


「グレル」



構えたデスサイズ…チェーンソーを、茶色い手袋をした手が止めた。

ギャリッという鈍い音がしたのに、手はなんともない。

後ろから包み込まれるように、背後から覗きこまれた。

「おや、こうすると私の方が高くなるね」


グレルよりも少し高いところで、クスクスと笑っているのはラクスだった。


「あっアンタ」

「ごめん遅くなって。これを買ってたんだ」


ラクスは紙袋をグレルに渡した。
グレルはすっかりラクスのペースである。
紙袋をあけると、中には赤色のマフラーが入っていた。

ラクスはボーっとしているグレルをよそに、素早くマフラーを取り出し、グレルの首に巻き付けた。

「雪が降るよ、もうすぐ」

「なっ…わかるの?」

「うんまぁ」


けろっとした顔で、自分の分のマフラーを巻くラクス。

「……やっぱ神様だからわかるのカシラ」

「うん?さぁどうだろうね」


適当な返事に肩をすくめ、じと目で睨むグレル。

「もうっ…終わったんならさっさと帰ってきなさいヨ」


背後でニタニタと笑っているラクスの腹を殴って、身を翻した。

ラクスは鉄拳を食らってよろめく。


「だから、言ったじゃないか…マフラー買ってきたって」

「知らないワよ!」



プンプンと怒って、グレルは屋根の上から飛び降りた。
ラクスも続く。


「グレル」

「…なにヨ」



つかつかと歩くヒールの後ろにつく。
大きな歩幅。華奢な体。すらりとした脚と腕。

整った顔。

ラクスはにっこりと笑って言った。


「私のことを心配してくれたんだろ?」

「………………………………………」

「ああ、そうか心配してくれたんだね」


黙り込むグレルの横顔を覗き込んで、ラクスは満足気に笑った。


「ん〜もう!ばか!ばかシシー!」

顔を真っ赤にして、グレルはラクスの肩を殴った。

「いった!殴ることはないだろ?」

「うるさいワよ!脳味噌筋肉!」


ぎゃあぎゃあと喚く二人。

大通りに出た二人は、人の視線も気にせず言い争う。

「だいたい何ヨっ年末に仕事だなんて!」

「それは仕方ないだろう?年末とか年始は人間たちがはしゃぐから、予定者がどんどん増えるんだよ」

「年始!?年始も仕事!?信じられない!」


グレルはマフラーの中に口を隠した。

「ふふ、まあいいじゃないか」

ラクスは優しげにグレルの手を取った。

「二人で年末年始を一緒に過ごせるんだからさ」

「あのねぇシシーちゃん…」

グレルはラクスの手を握り返す。


「そういうセリフは、男の方が言うのヨ」

「………ぷっ」

「ちょ!何ヨ!何吹き出してんのヨ!」

「今のセリフをグレルが言ってるところを想像したんだ」

「ンマァ失礼ね!アタシだって…」






もうすぐ日が暮れ雪が降る。
二人の死神、雪上で
他愛もない言葉を交わしながら

あわれな 人間のたましいを


二人の死神、雪上で


雪溶け誘う、血を流す


あわれな、
人間のたましいを狩る

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