上条当麻は平凡な男子高校生である。成績はどん底、入学早々不良の方々にしつこく追いかけまわされ遅刻をしてしまい教師から目をつけられ、少しでも目立とうと精一杯髪の毛をツンツンに立たせている。恐らく平凡すぎて、どこにでもいそうな、まさにそれだけの存在。だけどそんな平均男子にもめでたく彼女がいる。彼女は、百合子という日本人の慎ましい雰囲気をいっぱいに詰め込まれた名前とは裏腹に、かなり奇抜である。入学早々なぜか髪の毛を真っ白に染めたり、言葉が汚かったり、食べてるのかと不安になるくらい身体細かったり、自分とは正反対の意味で注目を浴びていた。あの子のどこが好きなの、とある日の昼休み、いつもの馬鹿三人で寂しく弁当をつつきあっているところをクラスの女子に聞かれ、上条は首を傾けながら素直じゃないところとか、意外とウブなところとか。すぐに真っ赤になって、口ごもるところも、大好きで堪らない、と言うと女子はわあっと泣き出してしまった。すると青髪を携えた男は、微笑みを絶やさずに上条の肩を叩いた。

「カミやんは死ねばええんや!」
「え!?」
「なにが平凡な男子高校生にゃー。あんなに綺麗で頭のいい彼女を作っておいて厚かましい」
「釣り合わないのは承知してます」

青髪ピアストと土御門の愚痴から、嫉妬と羨望の言葉が投げかけられる。「ざまぁみろ、俺はリア充だ!」 と勝ち誇るのも悪くはないが、そうするとダブルパンチを必ずくらう。とりあえず理不尽な暴力からは逃れたいので、口にチャックをする。

「お、噂をすれば鈴科さんが」

土御門が、廊下の窓の向こうを指差すと、そこには噂の彼女がいた。鈴科は、何やら長身の男と喧嘩していた。どんな汚い言葉を浴びせているのかは分からないが、多分心をズタズタにしているのだろう。恐ろしい。

「げっ、あいつ、溝端を殴りやがった…」
「股関じゃないだけでも幸せだぜぃ」
「ああああかわええ!百合子ちゃん、あんなに儚げなのに強気で俺っ子とか!どこのご令嬢様なんやあ!カミやんにはもったいない!!」
「うっせえ!百合子を見るな変態糞野郎!!」
「ぐおおおお!カミやんの馬鹿!」

ハンカチを噛みながら、うっすらと涙目の青ピには萌えを感じられず、すっと彼女がいる場所へと視線を動かす。そこには百合子はもうおらず、溝端にパンチを入れられた長身茶髪ホスト風イケメン男だけがまだ腹を抱えて廊下に立っていた。

(……あいつ百合子とよく一緒だよな)

彼女とはクラスが違う。一緒だったら良かったのだが、こればかりは仕方ない。どう頑張ったって上条にクラスメイトを操作する力は持ち合わせてはいない。長身の男は、確か百合子とクラスメイトだ。そして最近、彼女が『気持ち悪いメルヘンの男』が激しくうざいと愚痴っていた少年だと思う。しかし彼は上条の悩みの原因だった。釣り合うとか釣り合わないとか考えるのもうんざりだが、イケメンの彼を見るたびにそういったどうしようもない事実をぐさりと突きつけられる。まるで彼と自身は月とスッポン。

「よォ、上条」
「…百合子…さん」
「元気ねェな。まァどうせまた不幸に巻き込まれてンだろ」

サラリ、と棘がはえた言葉を彼女は言う。いちいち気にしてたら、ここで喧嘩になるのだろう。だけれども上条と百合子は今までずっと喧嘩友達のような関係だった。彼氏と彼女になってからというものの、喧嘩すらできなくなっていた。それどころかデートをしたり、手を繋いだり、一緒に昼飯を食べたり、高校生らいし甘ったるいことは一度もしたことがかない。二人は幼馴染で、親友だった。どうしたって友達のような関係から抜け出せずにいた。上条は百合子に恋をしている。それは百合子も同じだ。高校に合格して想いを伝えた。だけどそれ以上に『幼馴染』という関係が邪魔をする。そして、こんな関係から脱せない2人にもやもやとしているのは何も本人たちだけではない。

「百合子ちゃん今日もぜっこうtyp「かみやん、俺たちはおいとまするにやー」

土御門は、鈴科に抱きつこうとした青ピの脳天を思いっきり殴った。青ピは予期すらしなかったその衝撃にふらふらと倒れこむ。そんな意識のない青ピの巨体を重そうに引きずりながら去っていった。意味深な微笑を浮かべながら。土御門もまた、一進一退なカップルに苛立ちを感じていた一人だ。そんな友人の協力と犠牲を無碍にすることは出来ない。

(変わるんだ。このままじゃ、俺も百合子もいつか絶対傷つく。大好きな子が傷つく姿なんて見たくない。なぁ、そうだろ、上条当麻!!)

ごぉっと上条の心の中が火山のマグマのように熱さを宿す。上条も百合子も人の気持ちに鈍感だった。しかし自分の気持ちくらい理解はできている。

「なンだあいつら」
「忙しいんだろ。それよりもさ」

伝えたいことは言葉にしなきゃ伝わらないのだ。


ルーズリーフ
(まずは手を繋ぎたい、です)


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