さくらんぼのようなぷっくりとした赤い唇に自身の唇をそっと重ねて、離す。きょとんと大きく驚愕と戸惑いに染まる円らな青い瞳が、美琴のアーモンド型の茶色の瞳を見つめる。美琴はインデックスのその初々しい反応にくすりと笑みをこぼして、今度はその額にキスを落とした。ようやく自分が今何されているのか理解したインデックスの顔が熟れた果実のような赤さに染まる。

「ななな、何するのかな、短髪!」
「…なんだろうね」
「暑さで頭おかしくなったのかも。今すぐ病院に行くべきなんだよ!とうまの行きつけのお医者さんはとってもいいひとだから紹介してあげるんだよ!」
「うん、いや、大丈夫。ねえ、それよりさもう一回してもいい?」
「…本当にどうしたの?」
「なんとなく、アンタとキスしてみたいなあって思っただけ」

これは恋ではない。美琴はインデックスに対して彼を前にしたときの想いは持ち合わせていない。彼と手に触れたときの高鳴りも、彼の言葉だけで強くなろうと思える自分はいない。インデックスだってそのはずだ。互いは同じ異性に恋心を抱くライバルでもある。一生分かち合えないとも思えるような、そんな存在だ。
それでも自分より小さな、それでいて強く、真っ直ぐな心と瞳を持つこの少女に触れてみたかった。
彼がこの少女だけは泣かせたくないという理由を、どうしても知りたかった。

「短髪、」
「もっと、気持ち良いこともしようね」

りんごのような、イチゴのような、果実の甘酸っぱい香りが、口と鼻いっぱいに広がる。あの少年とキスするときとは全然違う。
女の子の柔らかさに、さらりとした肌に、美琴の心臓が、小さく、色づきを放った。

/乙女の余韻とおきに召すまま

BGM I Kissed A Girl/Katy Perry