私たちは幼い恋心を何処かに置き去りにしてきた。空に浮かべてしまった風船のように、ずっと遠い場所に忘れてきた。見えなくなってしまった風船なんてすぐに破裂してしまうというのに、私たちは頑に目を逸らしたまま、耳を覆ったまま、無知な振りをした大人になってしまった。でも、もう終わり。終わらせよう。幼稚で拙い子供ではないのだから。そう言うとぼろぼろしょっぱい水が何処からか頬を伝って落ちてきた。堰を切ったような涙の海が、ずきずきと痛む胸の奥深くが、後悔ばかりを募らせているような気がしてより一層私を惨めにした。このままじゃ駄目だというのに、私はこの現状に甘え享受してしまっている。手放したくないとさえ思っている。それでも終止点を打つことが、互いが幸せになれることを私たちはとっくの昔に気づいている。それなのに、私は臆病で弱虫な子供のままだ。ぐちゃぐちゃ雁字搦めになっていき、止まらない涙を必死に堪えようと唇を噛み締めていると、不意に初春の柔らかい手のひらの感触と、温かい声が降り注いだ。

「佐天さん、私、佐天さんが好きです。大好きです。離れたくありません。もうそれだけでいいでしょう」
「でも、私たちはもう子供なんかじゃない。このままでいたって幸せになんかなれないよ」
「大好きな佐天さんとこうやって二人きりでいられることが私はもう幸せなんです。これ以上は何も望みません。佐天さんは、どうですか」
「…私もね、離れたくなんかない。初春とこのままがいい」
「なら、それでいいんです。それだけで、いいんです」

初春の昔のままの変わらない笑顔につられて、思わず私も笑みを零した。

「好きだよ、初春」

ねえ初春。私たちは大人になれないまま、まだこんなところにいるよ。

/ふたりぼっちの恋