大学生パロ

大学生活にもようやく慣れ始めたころ、先輩という理不尽な存在に未成年という主張を完全無視されて居酒屋にずるずる連れてこられた。飲酒に関してはこれと言った抵抗感も法律違反だという罪悪感もないので問題はない。子供の頃から先輩以上に理不尽な義父に良く飲まされていたものだと苦い記憶を掘り返しながら、味わうようにゆっくり嗜む。だが、と一方通行は隣で机に突っ伏している男に呆れた視線を投げかけた。酒を飲むのは初めてではないと言っていたくせに、どうしてこの男はあっさり酔いつぶれてしまったのか。理由は簡単だ。どうやら彼は恋煩いという病気を抱えているらしく、彼曰わく想い人は遊びに行こうだとかメールアドレスが欲しいだとかアタックしてもアピールしても全く気づかない鈍感ちゃんらしい。鈍感大王と名高い上条にそこまで言われるなんて一体どこのアホ女なんだと聞けば、ため息だけが返ってきて自棄酒し始めた。一部の仲間は上条の恋のベクトルを知っているらしくにやにやしながら励ますために、テンポ良く空になっていく上条のコップにビールを注いでいった。こうして酔っぱらいが完成したわけだが、これは上条にとっても一方通行にとっても良い事態ではない。一方通行は上条を起こそうと肩に手をやり、身体を揺すった。

「オイ、起きろ。家でシスターが待ってンだろォが」
「う…、いいって一日くらい…、どうせ冷蔵庫のなかあさってますのことですよー」
「明日噛みつかれても知らねェぞ」
「はは、なに、一方通行、心配してくれてんのー?」
「…そのウニ頭ミンチにされてェのかオマエ」
「なんだとーなら、そげぶしてやるぞ、そ〜げぶ〜!」
「チッ、完全に酔ってやがるコイツ」

一方通行は上条のレベルアップした面倒臭さに鬱陶しげに顔を歪めた。こんなことで貴重な能力の無駄使いなどしたくないが、こうなってしまえば致し方ない。あの大食らいシスターの被害を被るのはなにも同居人だけではない。一方通行も飯を集られた上に、長ったらしい愚痴(主に上条当麻の女性関係についての文句)をぶつぶつ聞かされるのだ。そんなこと喜んで聞くほど一方通行も暇ではないしマゾヒストでもない。

「アルコール抜いてやっからさっさとシスターのとこ帰ってやれ」

徐に首筋のチョッカーに手を伸ばす。が、スイッチを入れようとした瞬間上条の日に焼けた腕が一方通行の細い腕を掴んだ。一方通行はその行動が理解できず、眉間に難しい皺を寄せ、酔っ払いを睥睨した。

「悩ンでンのは分かるけどよォ、愚痴聞かされる身にもなれ」
「嫌だ」
「はァ?」
「嫌だ!」
「三下のくせに俺に刃向かうとは良い度胸だなコラ」
「だって、俺、お前と、いたいんだ」
「俺と?何言ってンのオマエ」
「だから、俺さ、頭が良くて、真っ白で、強がりで、何だかんだ言っていつも助けてくれるやつに恋しちゃってるんです」
「は、」
「好きだよ、一方通行」

囁くような突然の告白に一方通行は瞠目した。上条は突っ伏していた上半身を起きあがらせ、一方通行との距離が縮ませていく。酔っているせいか少し赤い顔が、密かにずっと憧れていた少年が、少しずつ近づいてくる。

「か、上条。酔ってンだろ、おおお、落ち着け。そンな非生産的なことしたって後悔するだけだ」

上条の肩をぐっ押し、元の距離を作る。鼓動がやけに騒がしく喚いている。こんなのおかしい。一方通行は未だにこちらをじっと真剣に見つめてくる上条に、体温が高くなっていく感覚を覚え目を逸らし、俯いた。自分が自分じゃなくなっていくようで、ぐちゃぐちゃに雁字搦めになっていく頭を何度も整理しようとするが上条の甘い言葉がそれを阻む。

「酔って、る、けどさ。多分、いや、まじで、上条さん、一方通行が好きなんだよ」
「…っ」
「なあ、一方通行」
「…ンだよ」
「こっち見ろよ」

息が詰まる。心臓が熱い。もしかしたら自分も少し酔っているせいなのかもしれない。一方通行はそう自分に言い聞かせ、ゆっくりと近づいてくる上条の顔を見ないように目蓋を閉じた。


/二十億光年先の求愛行動