アルミ缶に貼り付けられたラベルをじっと見つめる。ブラックと格好いい字体で書かれたそれをインデックスは飲むか飲まないかで迷っていた。飲まないのが一番安全だということくらいはインデックスは理解している。しかし、彼女のお腹の中はもはや空っぽ、欲求にありふれた汚い音が鳴り続けている。ぐるるるる、る。

「っ、もう、我慢できないんだよ!」

インデックスは目をカッと見開き、猛スピードでブラックコーヒーのプルタブを細い指ではじけさせる。途端に部屋中に広がる苦味を含む香りに顔を歪めることもせず、欲望のまま口につけ空っぽの胃袋に一気に流し込んだ。

「……おい、生きてるか」
「……だめ、かも、げふっ」

インデックスは空っぽになった缶を床に転がし、あまりの苦味にくらくらする頭を抱える。一方通行はこれだからガキはとめんどくさそうに缶を拾い上げ、ゴミ箱に放り投げる。

「あんなの飲むだなんて、あくせられーたが、信じられないかも」
「あァ?」
「それにくらべて紅茶は偉大なんだよ!なんたって、イギリスの歴史を支えて、いまもなお世界中に愛されてるもん」

まるで紅茶こそが正義だ、と言わんばかりに薄い胸でふんぞり返る少女に一方通行の眉間は不機嫌一色に染まった。紅茶は嫌いではない、しかしコーヒーをバカにされて黙ってられないのがこのカフェイン中毒だった。

「はン、コーヒーの良さがわかンねェ英国人は国に帰って、寝てろ」
「な…!?」
「コーヒーだって歴史的背景はあンだよ。そもそも日本に流通してンのはアメリカンだからブラックつったって薄いンだよ。まァ、所詮お子様には無理な代物なわけだ。流石、コーヒー」
「むむむ、」

ぷっくり。まさか反撃されると思っていなかったインデックスの頬がまんまるに膨らむ。

「紅茶が一番に決まってるんだよ!」
「はいはい、そォですねェ」
「むきーっ!わたしは今、真剣にとうろんしてるんだよ!!」
「そォだったなァ」
「…っ、」

適当にあしらわれたインデックスの機嫌が一気に最低ラインを突き破る。ぎらり。愛らしい唇から象牙のような歯がちらりと剥き出しになる。

「あくせられーたの、」
「ン?」
「バカぁああああああああ!!」

がぶり。


/低速ティータイム