宙ぶらりんになった傷だらけの手のひらを掴んであげなきゃいけない。だけどミサカがどんなに強くその手を握っても、食べかけのパスタのようにあちこちでちぎれた心は、もうつなぎ直すことはできない。だからそっと手のひらにのっけて包んであげようとしたら、ふわりと風に吹かれてどこか遠くに漂っていき、蒲公英の綿毛のようにくるくる回転しながら真っ青な空に吸い込まれ、綿雲に隠れていった。太陽の輝きで遮られた存在は、どんなに探しても見つかることはない。目立つはずなのに、ミサカの小さな体じゃどこにも行けない。精一杯に伸ばしたつもりの腕は空気をさまよい行き場をなくしただけで、ミサカという存在は塵芥で、ただの役立たずだということが五臓六腑にしみて、「ごめんなさい」と呟いたら、悔しさや寂しさや悲しさがごちゃまぜになって、胸からあふれて瞼に溜まっていった。

「どォした、不細工な面して」

心配そうにこちらを伺う赤とかちあって、涙が出た。そんなのあなたのせいだよってミサカが言うと、あなたは鬱陶し気なため息を吐いた。

「わかンねェよ」

ミサカもよくわからないの。醜い疑念が渦巻いた戦争も終わってこうやって側にいてくれているのに不安で、いつも胸をぎゅぎゅっと締め付けられる。あなたはいつも何かあったら独りになろうとして、ミサカを遠ざけようとするんだもん。その度、あなたが断崖絶壁からそのまま落ちていくんだ。少し猫背のまま、まっすぐに、どこまでも、どこまでも、落ちていく。ミサカはそれをぼんやりと見つめるだけで、体が針金で固定されたように動かない。抱き寄せたはずの身体はいつの間にか薄く消えていく。あなたは脆弱だ。脆くて、すぐに崩れてしまう。0歳児のミサカよりもずっと幼いあなたの心はぽっくり折れてしまう。ああ、そうだミサカは怖いんだ。あなたがいなくなるのが、真っ暗闇で生きていこうとするあなたが怖い。あなたが独りぼっちになって、また傷つくことが安易に想像できるからぞっ、と背中が凍てつくんだ。

「いいんだよ」
「ァ?」
「ミサカは絶対にあなたから離れないよ。だから、だからね、ずっと此処にいてもいいんだよってミサカはミサカはあなたに説いてみる」
「だから、意味わかンねェって。何だよ、いきなり。どォして俺がお前から離れるンだよ」

余計な心配すンな、クソガキ。ぐりぐりと大して大きくもない手のひらがミサカの髪の毛をぐちゃぐちゃにした。ちょっぴりぶっきらぼうな姿が、にじみながらぼやけた。


/泳げないクジラと星の海