右手首の周辺から、月明かりのせいで黒っぽくみえる血が噴き出した。それはまるで手首に赤黒いブレスレットをはめているように見えて、なんだか綺麗だと他人ごとのように思った瞬間、激痛が身体中を駆け巡った。

「っああ、」

少女は唇を震わせてつぶやく。言葉が喉に詰まる。少女は少しでも出血量を減らすために、右腕を左手でぎゅっと強く抑えつけた。しかし、痛みも激烈さを増していく。少女は手首が腕から離れて落ちるのは時間の問題だと確信し、痛みに堪えるように唇を強く噛み締めた。じんわりと広がる鉄の味に吐きそうになった。

「なンだ、もォ終わりかよ」

子供のような弾んだ少年の声が朦朧としきった意識に乱入した。少女はゆっくり頭をずらし、どこまでも真っ白な少年を視界に入れた。

「つまンねェよ、オマエ。もっと遊ンでくれるンじゃねェの?」
「すみ、ま、せん、ミサカはもう」
「つまンねェ、つまンねェ、つまンねェ」
少女の手の甲や手のひらを伝って指先まで到達し、そこからポタポタと地面に垂れる血を見ながら、少年はつまらないと駄々をこね続ける。

「足りねェンだよ」

何がですか?そう少女が問う前に、少年の脚が動いた。一歩、二歩、三歩。まるで何かを確認していくようにゆっくりと倒れ伏す少女に近づき、顔の前でようやくぴたりと止まった。

「なァ、」
「……っ」
「ひゃ、は、オマエはどンな風に喘ぐンだァ?」

黒い革靴を履いた右足が浮かんだ。ぐりっと少女の頭をコンクリートに押し付けるように強く強く踏みつける。少女は口の中にはいる砂利を、鬱陶しげに感じながら痛みがだんだん消えていくのに気づいた。感覚が麻痺してきたのだろう。相変わらず左手で支えていても、右手は明らかにぐらついていた。

「やめて、くだ、さいっとミサカは、懇願、しまっ」
「ぎゃは、なンだよもっと叫ンでもいいンだぜェ?」
「っ、ぁ」
「……やっぱ、つまンねェ」

哀しげな声色だった。どうして狂気に染まる少年の声がそんな風に処理されたのか少女は分からず、ぼんやりとした頭の中でありったけの知識をかき集めた。それでも機械で作られた脳みそは模範に富んだ解答しか打ち出してくれなかった。それはどれも全部当てはまらないような気がして、少女は瞼をそっと閉じて考えることも悩むことも諦めた。どうせ、この命は唾棄されるためにあるのだから。少年は黙り込んでしまった少女に、小さく舌打ちをうって、

「飽きた」

素っ気ない言葉を吐き捨て、全てを拒絶する力を纏った脚で少女の頭を蹴り飛ばした。


/れろれろだにれらき