白い吐息が空を漂い、冬の訪れをより一層強く感じて垣根はマフラーに顔を埋めた。こういう日は炬燵でゆっくり眠っているのが一番だとつくづく思う。雪道には不釣り合いな黒い革靴は重たい雪をくっつけ、ぎゅっぎゅっと不思議な音を鳴らした。そうやって誰も踏み入れていない場所に足跡をつけていく空しい優越感に浸りながら、そろそろ家に帰ろうかと立ち止まったとき、ふと垣根は目の前に広がる景色に違和感を覚えた。冬はいつの間にかやってきた。鋭く冷たい風に襲われることも、朝起きても雪が積もってることもなく、冬は忍び寄るように始まった。どうしてこうも鈍感になってしまったのか。理由なんて垣根が映す白銀になりきれていない風景が全てだった。この場所は特別積雪地帯と言うわけでもない。しかしそれなりに雪が降り積もる、山の中の、小さく静かな田舎。この時期のまだ自身が随分と小さいころなら、寒さに震えながら巨大な雪だるまを作って自慢をしていただろう。しかし作っていたという記憶はあるくせに、それをいつ止めたのかはまるで思い出せない――もうずっと昔に冬の訪れは軋んでいたのかもしれない。垣根は何とも言えぬ寂寥感に襲われ、大きく白い息を吐いた。するとその白に重なって、まっさらな大地の上で小さくしゃがみこむ少女がいた。少女は暖かそうな黒のコートで隠された細い体を小刻みに震わしながら、少なめの雪をじいっと釘いるように見つめていた。垣根はその姿ににやりと嫌らしい笑みを表面に貼り付けながら、少女にゆっくりと近づく。

「また泣いてんのか」

そう声をかけると、少女はようやく赤い瞳で垣根の姿を確認して、眉根を不機嫌な色に染めた。

「泣いてねェよ」
「馬鹿を言え。何年幼なじみやってると思うんだ」
「ただの腐れ縁だろォが」
「百合子」
「あァ?」
「…雪だるま作るか」
「…馬鹿か。そンなにねェよ」
「かき集めればできるって」

垣根は百合子の隣にしゃがみこみ、素手のまま泥まじりの濁った雪を集めて丸めていく。急激な冷たさのせいで赤くなっていく垣根の長い指先を百合子は見つめながら、苦笑を零した。

「…懐かしいな。雪だるまなンて、もォ一生無理だって思ってた」
「できるさ、二人でなら何でもやれるんだろ?」

百合子はふっと垣根のくさい台詞を鼻で嘲笑い、雪よりも綺麗な白い手のひらで垣根の真っ赤になった手を握る。じわりと溶けて水になっていく雪に垣根はどこか寂しさを感じながらも、百合子の微かな温もりにゆっくりとまぶたを閉じた。


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