「間違ってたんだ、きっと」

ぽつりと上条が漏らした声色は、絶望が見え隠れするような冷ややかなものでもなければ幸せに弾むものでもなかった。感情の籠もってない、恐らく思いつきで発した声。このウニ頭は今更、戻れるとでも考えているのだろうか。もしそうだとしたら、なんて馬鹿らしい話だと一方通行はくつくつ笑った。最初から分かっていたはずだ、こうなること位。幾ら彼の脳味噌が軽かろうが、一方通行も引き戻るつもりなど更々ない。長細い指が上条の頬で滑る。やがて、ガサガサとした唇をそっとなぞる。まるで女の子に触れるような優しい手つきに上条は、口角をあげた。

「俺さ、間違ってたんだ」
「なにがだよ」
「勘違いしてたんだ。お前のこと、ずっと嫌な奴だって思ってた。お前が笑いながら人殺ししちまうくらい、とんでもない凶悪な化け物だ、て」
「はっ…、間違っちゃいねェよ。俺は糞の塊だからなァ」
「いーや、上条さんはとんでもない勘違いをしてましたね。だって化け物が、こんなに綺麗なわけねえだろ」

今度は上条の手のひらが、大きな右手が一方通行の髪をくしゃり撫でた。温かい手に一方通行は眉を潜め唇を強く噛んだ。大切にされることに慣れない一方通行はこんな時一体どうやって反応すればいいのかが分からなかった。笑えばいいのか、怒鳴ればいいのか。頭の中であれこれと考えているうちに、上条はふわりと微笑んだ。どうやらヒーローの目の前では全てお見通しらしい。普段は気持ち悪い位に鈍感な癖に。一方通行の眉間は更に不機嫌になる。

「お前ってなんかあれだ。変に可愛いよなあ」
「…チッ、さっきからぺちゃくちゃぺちゃくちゃ。余計なお世話なンだよ三下。あンまし調子のンじゃねェよ」
「え?」
「いいからオマエは、黙って俺によがってればいいンだよ」
「よが、」
「三下は三下らしくしてろ」

一方通行は上条の真っ赤に染まる耳朶をかぷりと甘く噛みついた。


/君になら降伏してもいい