プ/ロ/ポ/ー/ズ/大/作/戦パロディ

不幸だ。小さく呟いた口癖は誰の耳にも届かず、周囲はみな涙を零し、野次を飛ばし、笑顔を浮かべたりと目の前の光景に夢中だった。上条当麻もまた慣れない高級スーツに身をまといながら、これまた高級感溢れるワインを口につけては、あまり縁のない幸せに小さなため息を吐いた。
今日は幼なじみ、御坂美琴の結婚式だ。高校時代に出会い、同じ大学に進んだ男とこれからの生涯を共にする。だが高校時代の二人の仲はそれ程良かったとは言えないし、むしろ悪かった。目を合わせれば、常に喧嘩をしていたはずだ。だから高校時代の二人しか知らない者たちは、招待状を受け取って開いた口が塞がらないという状態を身を持って経験したはずだ。幼なじみの自身でさえ報告を聞いた時は、あまりのビックニュースに息が止まりかけた。それ程までに険悪だった二人は知らない間にお互いの深い溝を埋めて、絆を結んだらしい。上条にも全く思い当たる節はないのだが、そう思わざるを得ないくらいに目の前の美男美女の夫婦は幸せオーラを惜しげなく放っている。幼なじみで腐れ縁の美琴は、今にでも泣きそうで意志の強い瞳は弱々しく真っ赤になっており、それをからかう白髪と赤目の男。二人は間違いなく幸せのてっぺんにいる。

(…ったく、なんだよ。二人して上条さんそっちのけですかー?)

ちくちく。幼なじみの笑顔を見る度に痛む心臓は、胸からもやもやと溢れる違和感は、置いてけぼりにされてしまったせいだ。上条は自身にそう言い聞かせながら、空になったワイングラスをテーブルに置き、だらしなくポケットに手をいれながら会場を後にした。地面を足で踏んだ刹那、会場からはわあっと歓声があがった。どうせ、男が美琴にキスをしたのだろう。あまりに容易に浮かんでしまった幼なじみの真っ赤な笑顔。それはもう自身に向けることは無いという事実に、上条は再び不幸だと呟いた。
フラフラしているうちに疲れたのか、はたまた精神的に辛いのか、上条は教会の椅子に座っていた。とにかく上条は何かに懺悔がしたかった。神様を信じているわけではない。親友である二人の幸せを羨ましいとか、妬ましいとか、悪意ばかり感じてしまう自身をどうにかして戒めたかった。

「…訳わかんねえよ、ほんと」

ああ、そういえばこの場所はつい数時間前、二人が愛を確認しあった場所だ。上条は荘厳な飾り付けと神秘的な空気をぐるりと見回して、今いるこの場所があまりにも場違いなことにふと気づいた。これでは懺悔するどころか、神様やら天使様に祟られて帰りは溝に嵌りそうだ。もう帰ってしまおう。確か冷蔵庫にビールが何本かあったはずだ。上条がポケットの中に突っ込んだ車のキーを確認した、その時だった。

「後悔してるの?」

女の子の透き通った幼い声が教会に響いた。上条はごくりと喉を鳴らしてもう一度辺りを見回すが、あるのは静けさだけで他は何も無い。そもそも教会という場所は普段からこのように静かだから、誰かが来たらそれなりに響くはずだ。しかし上条はそのような音は一度も耳にしていない。つまりこれは空耳といった類で、今日1日で疲れてしまったせいだろう、ともう一度帰ろうと脚を進めた。すると、

「貴方は、あの子が好きだったのかな」
「っ!!」
「どうしてこうなったんだろう、どうしてあの子の隣は自分じゃないんだろうって思ってるんじゃないのかな?」

幻想的な銀がゆらゆらと天井のステンドグラスと一緒に光る。シスターさんのような格好をした十代前半くらいの少女は笑みを浮かべ、上条の目の前に現れた。前から歩いてやってきたわけではない。かと言って、上から降ってきたわけでもない。文字通りに少女は現れた。アニメで良く見た魔法を使ったときのように、ふわりと小さな身体を宙に浮かべたその姿はまるで天使。小さな銀色の天使は困惑した上条の表情を見て微笑みを浮かべた。

「心配しないで、願いは叶う。そのために私がいるんだから」

物語は、再び動き出す


/あなたと結ばれたかった理由