浜面はいつものようにどこかでタバコを吸おうと、絶賛授業中にも関わらずぶらぶらとサボりタイムを満喫していた。なんてことのない平穏。穏やかすぎて睡魔も今か今かと待ち構えているくらいだ。丁度日陰になっている場所を探し出し、噛み締めるように煙草をくわえる。ライターを取り出そうとズボンのポケットに手を突っ込む。そのとき、頭のてっぺんに何かがふわりと被さった。なんだ、と浜面は被さった布を視界で確認すると、それはパリパリに乾いた雑巾。なんとゆう悪質な悪戯だ!しかも微かに牛乳臭いのが生々しい!浜面は、怒鳴り散らして、一発殴りに行ってやると犯人がいる真上に勢いよく顔をあげた。

「おい!」

誰だ、と浜面が言い終える前にきらりと何かが太陽と重なって光った。刹那、教科書にペンケース。椅子と、机。最後に、真っ白な女の子が降ってきた。
浜面はまったく、平衡を失ってしまった。降ってきたそれらは、自分を狙ったとでもいうようにすれすれの所に落下し、コンクリートにぐたりと伏せている女の子は、赤い瞳でぎらりと今にも噛みつこうとする程、獰猛に浜面を睨みつけているのだ。ああ確かこの真っ白な女の子は、同じクラスメートだった。頭が良くて、大人しくて、いつもつまらなさそうに窓の向こうを惹きつけられるような赤で見つめている、あの、女の子。確か可愛らしい古風な名前だったと、浜面の決して良くはない記憶が駆け巡る。
地面に寝そべる少女は、明らかに折れている腕を震わせながらむくりと起き上がった。その生まれたての小鹿のような少女に、ようやく浜面の脳みそが現実に引き戻させた。

「だ、大丈夫か!?」
「……チッ、当たンなかったのか…よ…」
「何言ってるんだこいつ…じゃなくて!び、病院」
「あァ…大丈夫だ、問題ねェ」

浜面は顔を真っ青にさせながら、ひくりと口元をひきつらせた。大丈夫なわけがない。だって落ちたのだ。教室の窓から色んなものと一緒に。
鈴科は浜面のぽかんとしたアホ面にくつくつと嘲笑した。

「何だその顔。どォして俺がこンなことしたってかァ?」
「あ、いや、その」
「お前がムカつくから」
「……まじかよ」

これが浜面仕上と鈴科百合子の奇妙な出会いだった。


/腐った空が落ちてきた