どうして、なんで、わからないよ。美琴の唇からぽろぽろと戸惑いが零れ落ちていく。情けないくらいに眉を垂れさせ、必死に溜めこんだ涙で潤んでいく瞳。それはまるで幼稚園児のように愛らしく、庇護したくなる姿だった。本当の理由なんて知りたくもないのに、世界の穢れなんて見たくもないのに求めてしまう無垢で純粋な子供に少女はくすりと笑いそうになった。この女はなにも知らない。その事実が、番外個体の作られた細胞ひとつひとつにぞくぞくと電流を張り巡らせ、口元を腐った果実を潰したようにグシャリとゆがめた。

「ねえ、お姉様は知ってる?ミサカはね大嫌いな男がいるんだよ。そいつを殺したくて、ぐちゃぐちゃに絶望さたくて仕方ないの。でもミサカだけの力じゃ適わないんだよね。あいつにとってレベル4なんてゴミ屑も同然。当然そこらへんに落ちている屑なんて、埃と一緒に掃除機に吸い込まれるだけ。でもお姉様は違う。ミサカみたいな不良品じゃない」
「やめ、」
「いいなあ、オネエサマは。みんなに期待されて、羨望されて、妬まれて。どんな気持ちなの?存在を認められるって、どれだけ気持ち良いの?ミサカにはちっともわからないんだよね」

教えてよ、お姉様。耳元で汚い掠れた声で囁くと、美琴はぶるりと身体を震わせ、息を止めた。


/哀れ、憐れ、ああ空しい